第64話 これからの思い出





僕の話を聞きながらまゆ先輩は儚い表情をしていた。ずっと、切ない表情で僕と春香の昔話を聞いていた。


「羨ましいな…ずっと、りょうちゃんの側にいれて、りょうちゃんに守ってもらえて、りょうちゃんにいっぱい想ってもらえて、りょうちゃんとの思い出がいっぱいある春香ちゃんが羨ましいや…」


まゆ先輩が呟いた一言になんて返事をすればいいのか、僕はわからなかった。


「ごめんね。変なこと言って…」

「まゆ……」

「りょうちゃんとまゆはまだ出会ったばかりだから仕方ないことだよね。ずっと一緒にいた春香ちゃんの方がたくさんりょうちゃんとの思い出があって当然なのに…」

「まゆ…これからさ、いっぱい一緒に思い出を作ろう。楽しい思い出ばかりじゃないかもしれないけど、いっぱい、思い出を作ろう」

「うん。ありがとう…」


まゆ先輩は笑顔で返事をして僕の腕を抱きしめる力を強めた。


「まゆね。りょうちゃんと出会ってからいっぱい幸せな思い出ができた。たぶん、まゆの人生で今が一番幸せなの。まゆ、りょうちゃんともっといろんなことしたい。授業の合間にピアノ教えたり、一緒に楽器吹いたり、大学のカフェとか近くのカフェでお話ししたり、授業が終わった後にカラオケとかドライブとか買い物とかして、春は、いちご狩りとかお花見したり夏は花火見に行って、浴衣を着てお祭り行って、一緒に花火するのもいいね。海辺で少し歩いて海を見ながらゆっくり花火したい。バーベキューとかもしたいな。秋は…うーん。特に思い浮かばないけど…大学は9月後半まで休みだから一緒に旅行とか行きたいな…遊園地とかもいいけど、温泉でのんびりしたいな。大学祭は一緒に楽しもうね。大学祭の企画の演奏が終わったらいろんなお店回ろう。冬は…りょうちゃんの誕生日だよね。まゆの誕生日も近いからさ…お互いに祝おうよ。クリスマスはクリスマス会やろうね。あと、年末はりょうちゃん実家に帰っちゃうのかな…もし、帰らないなら一緒に年越しして、初詣行きたいね。あ、初日の出も見たい。もし、冬に雪が降ったら一緒に雪遊びしたい…あ、スキー行ったりもしたいなぁ。2月か3月には定期演奏会があるから忙しいけど一緒に頑張っていい演奏していい思い出作ろうね」


一通りいろいろなことを言い、まゆ先輩は一息ついた。


「どうしよう…今、パッと思いつくだけでもいっぱいいっぱいやりたいことがあるよ…まゆ、わがままだね…」

「そんなことないよ。それだけ、想ってくれてるんだよね。嬉しいよ。僕もまゆと一緒にいっぱい思い出を作りたい。まゆには申し訳ないけど春香ともね…いっぱい思い出を作ろう。今、まゆが言ってくれたこと、できる範囲で叶えよう。僕とまゆだけの思い出も僕と春香とまゆの思い出もいっぱい作ろう」

「ありがとう。りょうちゃん、まゆを幸せにしてね。春香ちゃんも、幸せにしてね。りょうちゃんが答えを出すまででいいからちゃんとまゆと春香ちゃん、2人を幸せにしてね」

「うん。絶対に幸せにする」


僕の答えを聞いたまゆ先輩は嬉しそうに微笑んで、そっと顔を僕に近づけて唇を差し出した。僕は、まゆ先輩の唇に自分の唇を当てて、まゆ先輩の想いに応えた。数十秒くらい、唇と唇を重ねて僕とまゆ先輩は動かなかった。


「春香ちゃんに申し訳ないな…」


僕の片腕を抱きしめながら眠る春香を見つめながら唇を離したまゆ先輩は呟く。


「そうだね…」

「まあ、春香ちゃんは今までりょうちゃんといっぱい思い出作ってきたんだからこれくらい許してほしいな…」

「でも、やっぱり申し訳ないな…」


僕はそう呟きながら僕の顔の方に顔を向けて寝ている春香の唇にそっと自分の唇を当てる。寝ている春香が起きないようにそっと唇を当ててそっと唇を離した。


「りょうちゃん…春香ちゃんの寝込みを襲うなんて大胆なことをするねぇ…」

「春香には内緒にしといてよ」

「えー、春香ちゃん、このことを聞いたら顔真っ赤にして恥ずかしがりながらも内心めちゃくちゃ喜ぶと思うよ」


まゆ先輩が言っている春香の様子は容易にイメージできる。僕は少し笑いながらそれでも内緒にしておいて、とまゆ先輩に言った。


「じゃあ、まゆに口封じのおまじないしないとね…」


そう言いながらまゆ先輩は再び僕に唇を差し出す。僕はまゆ先輩の想いに応えてまゆ先輩に口封じのおまじないをした。そっと唇と唇を重ねるが、今回はすぐに唇を離した。


「えー、これだけじゃ全然ダメだよ…」


まゆ先輩が不満そうに言いながら、もう一度唇を差し出してきた。それに応えて今度は長い間…時間にして1分ほど、ずっと唇を重ねていた。


「ん…口封じのおまじない完了だね。絶対春香ちゃんには内緒にしておくよ」

「ありがとう」

「こちらこそ。ごちそうさま」


まゆ先輩は笑顔で僕に言った。まゆ先輩に笑顔でそう言われて僕はドキッとした。


「まゆ、そろそろ眠くなってきたなぁ…」

「僕も…」

「じゃあ、そろそろ寝よっか…おやすみ」

「うん。おやすみ」


僕はまゆ先輩におやすみと返して僕とまゆ先輩は眠りについた。昨日、全く寝れなかったため、おやすみ。と言った後は割とぐっすり眠ることができたのだった。






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