第59話 同級生の女の子





「あ、うん。こちらこそよろしくね」


1年生の間で煙たがれているだろうと思っていたのに笑顔で話しかけられた僕は戸惑いながら柚衣さんに返事をした。


「えっと…りょうちゃん、だよね?あ、りょうちゃんって呼んでよかったかな?」

「あ、うん。大丈夫だよ」

「はーい。私のことは柚衣って呼んで、名字で呼ばれるのあんま好きじゃないからさ」

「うん。わかった。ゆいさん、よろしくね」

「うーん。ごめん、さんも慣れてないんだよね…」

「じゃあ、ゆいちゃん…とか?」

「うーん。まあ、それでいいや。りょうちゃんも飲み物買いにきたの?」

「うん。そうだよ」


僕はゆいちゃんに返事をしながらお茶を手に取る。その後、ゆいちゃんと少し話しながらレジに向かい、お互いお会計を済ませた。


「りょうちゃんさ、大丈夫?なんか1年生の間で良くない噂が出回ってるけど…なんとなくだけどさ、ぱっと見、りょうちゃんが噂されているようなことする人には見えないんだよね…」


ゆいちゃんは聞き辛そうに僕に尋ねる。ゆいちゃんの質問に正直に答えていいのか、悩んだが、ゆいちゃんは僕のことを心配してくれているようにも見えた。だから、正直に答えよう。と僕は決意した。

その後、売店を出てすぐ近くにあったベンチに2人で座って少し話をすることにする。及川さんと春香に申し訳ないが、練習に戻るの遅くなります。と連絡を入れると春香から大丈夫?と連絡がきた。僕が、大丈夫だよ。と答えるとわかった。と返事が来た。


及川さんと春香に連絡をした後、ゆいちゃんに今までの経緯を説明した。去年、春香のトラウマになった出来事を話していいのか悩んだが、説明するためには必要な話だし、たぶん僕が言わなくても上級生から聞いてしまうだろうと思い話すことにした。


「何それ…完全な逆怨みじゃん……」


話を聞き終えたゆいちゃんは、なんとも言えない表情をしていた。


「ごめんね。私、あの噂を少し信じてた。拓磨さんの話が上手くて、言いくるめられてた。ごめんなさい」

「いやいや、謝らないでよ」

「うん…とりあえず、私も噂がなくなるようにできることは協力するよ。1年生の中には拓磨さんの話を鵜呑みにしてりょうちゃんを最低な人間扱いしてる人もいるからさ…」

「そっか…まあ、そうなるよね。ゆいちゃんはさ、なんで、僕の言ったこと信じてくれるの?嘘かもしれないじゃん」

「りょうちゃんが嘘つくような人間に見えないし、拓磨さんが言ってた不誠実な人間にも見えないから…かな…まあ、とりあえず私にできることあれば協力するよ。私が、仲の良い1年生には私から言っておくからさ」

「うん。ありがとう」

「いえいえ、さっきまで疑っててごめんね。あ、せっかくだし連絡先交換しない?」

「あ、うん。いいよ」


僕はゆいちゃんと連絡先を交換した。お互いに友達追加を済ませてそろそろ練習に戻ろうと立ち上がる。


「ねえ、ちなみにさ、めちゃくちゃかわいい2人の先輩から告白されたりょうちゃんはぶっちゃけ春香先輩とまゆ先輩どっちの方が好きなの?」

「さっきも言ったけどさ、本当にどっちも大好きなんだよね。できればどっちにも幸せになって欲しいんだ…だから、本当に答えが出せなくて悩んでるんだ…」

「そっか…春香先輩とまゆ先輩の幸せも大事だけど、りょうちゃんが本当に幸せになれる選択をしなよ。じゃないと春香先輩もまゆ先輩も喜ばないだろうからさ」

「そうだね。ありがとう」

「ちなみに、もうやったの?一緒に暮らしてたりお泊まりしたりしてるくらいだし…」

「やってないよ…」

「えーそうなんだ。まあ、りょうちゃんそういうのあまり興味なさそうだもんね」

「う…うん……」


2日連続で本番以外のことをやったことは絶対に誰にも言えないや…


「あ、そうだ。せっかく話せたしさ、今日の夜とか一緒にご飯行かない?」


ゆいちゃんとホールに向かって歩いている途中、ゆいちゃんは僕に尋ねる。悪い噂が出回っているのにも関わらず、こうやってご飯に誘ってくれる人がいてくれて僕は嬉しかった。


「嬉しいお誘いだけどごめん。今日はチューバパートでご飯会があるんだ…」


今日の練習の後、僕は春香と及川さんと食事に行くことになっていた。本当に嬉しいお誘いだったので申し訳ないが断るしかなかった。


「そっか…じゃあ、いつなら空いてる?」

「うーん、明日なら5限の授業終わった後あいてるよ。あとは…次の部活後とか…」

「私も明日5限までだから、明日の5限後にご飯行こうよ。5限終わるの6時過ぎだし時間的にちょうどいいよね」

「うん。じゃあ、明日の5限後にしよう」

「うん」


そんなやり取りをしていたらホールに着いたので、僕とゆいちゃんはそれぞれの練習場所に戻った。チューバパートに戻ると春香に若干心配されたが、全然大丈夫と僕が言うと安心した表情になった。

その後、パート練習をしばらくした後、舞台で合奏練習が始まるのだった。






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