第31話 夜の告白




「まゆそろそろ眠くなってきたよ…」


まゆ先輩が眠たそうに目を擦りあくびをしながら言う。やばいかわいい…


あの後、ワードウルフをもう1セットやり春香が勝ち、僕が最下位だった為、僕は春香の命令を聞いた。春香の命令はまゆ先輩と同じで私がいいって言うまで抱きついてというものだった。好きな人を抱きしめていいなんて罰ゲームではなく、ご褒美じゃん。と思いながら僕はドキドキしながら春香を抱きしめた。


そして、その後はTVゲームで4人用のパーティーゲームを楽しんだ。


まゆ先輩が眠いと言い出したので、ゲームはこれくらいにして寝ることになった。


「りょうちゃん、まゆと一緒に寝よ」


まゆ先輩が僕のパジャマの袖を引っ張りながら言う。


「え、まゆ先輩!?」

「まゆと一緒に寝たくない?」


まゆ先輩が寂しそうな表情で僕に尋ねる。何、このかわいい生物…でも、さすがに一緒に寝るのはまずいでしょう……


「前までは私の布団とりょうちゃんが今使ってる布団をリビングに並べて敷いて3人で寝てたんだけどどうしようね…いつもみたいに私とりょうちゃんは2人でりょうちゃんの部屋で寝てまゆちゃんとりっちゃんは私の部屋で寝てもらう?」


まゆ先輩と僕の会話に割り込むようにして春香がいう。いつもみたいにが若干強調されているような気がしたが気のせいかな…


「うーん。僕はソファーで寝るから春香の部屋で布団2枚使って寝たほうがいいんじゃない?」


僕の言葉を聞いた春香が少しだけ不満そうな表情をした。すると、まゆ先輩が春香に近づいて春香の耳元で何かを話し始めた。そして少しすると春香はわかった。と言って頷いた。何を話していたのだろう…


「りょうちゃん、まゆ眠い…とりあえずいつもみたいにリビングで布団2枚敷いて」


まゆ先輩が本当に眠そうな表情で言うので僕は急いで自分の部屋から布団を持ってきた。春香も自分の部屋から布団を持ってきて並べて布団を敷く。


「りょうちゃん、ほら、まゆの横来て…早く」


敷かれた布団の一番端っこでまゆ先輩は横になって僕に言う。え、でも…と僕が戸惑っていると春香が僕を引っ張ってまゆ先輩の横に寝かしつける。そして、春香はそのまま僕の横で寝転んだ。春香の横で、りっちゃんさんがじゃあ、私は隅で大人しく寝てるからはしゃぎすぎないでよ。とニヤニヤした表情で言い、布団の端っこで横になった。


まゆ先輩、僕、春香、りっちゃんさんという並びで4人川の字になって横になった。すると春香はいつものように僕の腕を抱き枕のように抱きしめる。それを見たまゆ先輩も春香の真似をするように春香が抱きしめている腕とは反対側の腕を抱きしめた。

何この状況…りっちゃんさんはめっちゃニヤニヤした表情でこちらを見つめてくる。


今、りっちゃんさんは僕の枕を使っている。そして、僕と春香、まゆ先輩は普段、春香の部屋にある普通の枕よりも横幅が広い枕を3人で使っている。いくら横幅の広い枕とは言え、3人で使うととても小さい…


僕が顔を少し左に向けるとまゆ先輩と目が合い、まゆ先輩の少し温かい息を感じてしまうだろう…顔を少し右に向けると春香と目が合い、春香の息が僕に当たるだろう。やばいやばい…と動揺していると、春香とまゆ先輩は僕の腕を抱きしめる力を少し強くする。僕の右腕には春香の柔らかくて豊満な胸の感触があり、左腕にはまゆ先輩の少し控えめな胸の感触がある。やばい…何これどういう状況………


「りょうちゃん、おやすみ」

「りょうちゃん、おやすみ」


春香とまゆ先輩が上目遣いで僕の顔を見ておやすみ。と言ってくれる。やばい何これ…どっちもかわいすぎる…


「りょうちゃん、おやすみ」

「あ、うん。おやすみ。春香」


春香にもう一度おやすみと言われて僕は春香に少し顔を向けておやすみ。と返した。すると、春香はえへへ…と嬉しそうな表情で僕の腕をギュッと抱きしめた。何これかわいい…


「まゆには言ってくれないの…」


僕の左腕を抱きしめているまゆ先輩が悲しそうな表情+上目遣いという最強の合わせ技で僕を見つめてくる。


「まゆ先輩もおやすみなさい」

「まゆは呼び捨てにしてくれないんだ…それにおやすみじゃなくておやすみなさいなんだ…」


まゆ先輩はふてくされた表情でほっぺたを膨らまして不満を口にした。いや、何これかわいすぎでしょ…


「えっと…まゆ、おやすみ」

「うん。ありがと、おやすみ」


まゆ先輩のことを呼び捨てすることに抵抗があったが、僕が呼び捨てで呼び、おやすみと言うとまゆ先輩は今日一番の笑顔を見せてくれてギュッと僕の腕を抱きしめた。何この生物…かわいすぎでしょ……


ていうか何この状況…本当に幸せすぎるでしょ…この時、僕だけでなく春香とまゆ先輩も幸せを感じていた。



寝れない…幸せすぎて全く寝れない……春香とまゆ先輩に抱きしめられ続けて約1時間…いろいろ意識してしまいドキドキと幸せが溢れ出てきてとても寝れるような状態ではなかった。


りっちゃんさんは真っ先に寝た。そして、春香とまゆ先輩が同じくらいのタイミングで完全に眠りについてしまい僕だけが眠れずに起きていた。


「りょうちゃん、まだ起きてる?」

「え、まゆ先輩」


すでに寝たと思っていたまゆ先輩に声をかけられた。春香やりっちゃんさんを起こさないよう僕の耳元で静かに囁くように言うまゆ先輩に僕は小さな声で返事をした。春香を起こさないようにと、少しだけまゆ先輩の方に顔を向けると、まゆ先輩の顔は僕の想像よりも近くにあった。まゆ先輩と目が合うとまゆ先輩の顔が赤くなる。


「まゆ先輩じゃないでしょ…」

「え…」


まゆ先輩が不満そうに言う。僕に伝わるように表情で不満アピールをしたまゆ先輩はあざといくらいにかわいかった。


「まゆ先輩じゃなくてまゆって呼んで…じゃないとまゆ、怒るよ」


まゆ先輩は僕の腕を抱きしめていた自身の腕を片方動かす。そして、僕の顔の前に手を伸ばして人差し指をそっと僕の唇に乗せながら言った。


「ほら、まゆって呼んで」

「えっと、その…まゆ……」

「うん。まゆだよ」


まゆ先輩はめちゃくちゃ嬉しそうな表情で返事をする。まゆだよ。って何!?かわいすぎでしょ……


「まゆってちゃんと呼べたりょうちゃんにはご褒美あげるね」


直後、柔らかい感触が僕の唇を襲った。まゆ先輩は、顔を僕に近づけてそっと僕の唇を奪ったのだった。突然の出来事で僕には何が起こったのか理解できなかった。そのまま数秒間、僕がフリーズしているとまゆ先輩はえへへ…と言いながら顔を遠ざけた。まゆ先輩の顔は幸せいっぱいという感じだった。


「え…まゆ先輩……」

「だから、まゆ先輩じゃないって言ってるじゃん。まゆ、怒るよ」

「えっと…その…まゆ…」

「うん。まゆだよ。またご褒美ほしい?」

「え…いや、ご褒美って…え…」


まゆ先輩は嬉しそうに言うが、僕の思考は現状を全く理解できていない。いや、ご褒美って…まあ、その…ご褒美だけどさ…


僕が戸惑っているとまゆ先輩は再び両腕で僕の腕を抱きしめた。


「戸惑ってるりょうちゃん、かわいいね。戸惑ってるみたいだしご褒美はまた今度何かあった時までお預けしようか。りょうちゃんがまゆのことちゃんと見ててくれたらまたちゃんとご褒美あげる。りょうちゃんは今、春香ちゃんに夢中かもしれないけどいつかまゆに夢中にさせてあげる。だから、まゆのことちゃんと見てて」

「え…まゆ先輩…それって……」

「だから、まゆ先輩はだめ。好きだよ。りょうちゃん。おやすみ」


まゆ先輩は笑顔で僕にそう言い、僕の腕をギュッと抱きしめ僕に表情を見られないように僕の肩に自身の頭を引っ付けた。


「まゆ先ぱ……まゆ、それってどういうことですか…好きって…」


僕がまゆと言うとまゆ先輩の吐き出す息の勢いが少しだけ増した気がした。まゆ先輩の息が定期的に僕の肩に当たるが、いくら待ってもまゆ先輩は返事をしてくれない。


そのまま数時間…僕は眠れなかった。


僕に好き。と言った時のまゆ先輩の表情が忘れられなかった。まゆ先輩に好きと言われて嬉しかった。だけど…僕はまゆ先輩が抱きしめている腕とは反対の腕を抱きしめている僕の幼馴染みに目をやる。

僕の心はずっとモヤモヤして僕は、日が昇り外が明るくなるまで眠れなかった。






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