第10話 入学式前



「おはよう御座います」


遅刻しそうで慌てて学校に向かったせいで少し息を切らしながら部屋の扉を開けて私は挨拶をする。私が挨拶すると部屋の中にいた人たちが挨拶を返してくれた。


私は鞄を机の上に置いて部屋に置いてあった私の楽器ケースから楽器を取り出した。


「春香ちゃんおはよう。こんなにギリギリなんて珍しいね」


楽器ケースから楽器を出していると私の友達のまゆちゃんが私に言う。私がまゆちゃんの方を見るとまゆちゃんはテナーサックスを持っていた。まゆちゃんも私と同じスーツ姿でなんか、普段と違ってかっこよかった。まゆちゃんはいつも通り少し茶色い髪をポニーテールで結んでいた。


「それがさ…りょうちゃんが朝中々起きてくれなくて…」

「え…りょうちゃん…?」

「あ…」

「え…春香ちゃん?りょうちゃんって誰なの?え、彼氏?」

「ち…違うよ。彼氏じゃないよ。ただの幼馴染みだよ」

「へー幼馴染み家に連れ込んでお泊まりか〜春香ちゃんもやるねぇ」


まゆちゃんがニヤニヤしながら私に言う。


「え、なになに、春香ちゃんに男できたの?」

「え、まじで?ついに春香ちゃんに彼氏?」


まゆちゃんと私の会話を聞いてバストロンボーンを持った友達のりっちゃんとチューバの先輩の及川さんが興味深々というような感じで私とまゆちゃんの会話に入ってくる。


「ち…違います。りょうちゃんは本当にただの幼馴染みで…それに家に連れ込んだんじゃなくてルームシェアです」

「「「え…」」」


ルームシェアと言う言葉を聞きまゆちゃんとりっちゃん、及川さんは言葉を失った。


「え…春香ちゃん…ルームシェアって…りょうちゃんって男の人…だよね?え、大丈夫なの?」


まゆちゃんが本当に心配そうな表情で私に尋ねる。


「うん。りょうちゃんは男の子だよ。でも大丈夫。優しいし本当にいい子だから親も安心してるし」

「親公認ですか…」


りっちゃんがニヤニヤしながら私に言う。親公認って…そういう言い方はやめてほしいな…


「ちなみにりょうちゃんって新入生?」

「うん…そうだよ。」

「じゃあ、今日の演奏頑張らないとねー」


りっちゃんのニヤニヤが止まらない…恥ずかしいからそんなニヤニヤした表情で見ないで欲しいな…

私は恥ずかしさのあまり少しみんなから離れた場所で音出しを始めた。


しばらくして基礎合奏を行いいよいよ入学式本番の時間が近づいて来た。

入学式の少し前には会場である体育館に移動していないといけないため私たちは楽器と楽譜を持って移動を開始した。


入学式が始まる少し前の時間に私たちはステージ横に着席する。新入生の席を見るとすでにかなりの人が集まっていた。

私は新入生の中にりょうちゃんがいないか探して見るがとても見つかりそうになかった。

そして入学式が始まる時間になり体育館の扉が閉められた。


そして、入学式の開幕はファンファーレの曲演奏で始まった。

私はりょうちゃんに届くように精一杯楽器に息を吹き込んだ。




僕は入学式会場の体育館に入り係の人の指示に従い席に座る。入学式の前にいろいろと手続きがあったためかなりギリギリになってしまった。僕が席に座った頃にはすでに吹奏楽部の人たちはステージ横に着席していた。


僕は春香を探そうとするが前に人がたくさんいる上に遠すぎてどこにいるかわからなかった。

そしてしばらくして入学式の始まりに吹奏楽部の演奏が始まった。入学式のファンファーレと言うかのように演奏された曲は昨年度の吹奏楽コンクールの課題曲だ。マーチ系の曲なのでファンファーレの位置付けにはぴったりだろう。僕は久しぶりに聴く春香の音をとても楽しみにしながら耳を澄ませる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る