第9話 入学式の朝



「りょうちゃん、朝だよ。起きて!」


春香がアラームを止めながら僕の体を揺さぶる。


「りょうちゃん!早く起きないと遅刻しちゃうよ!早く起きて!」

「ん…あと少しだけ…」

「もう。ちゃんと起きるんだよ。私、朝ごはんの用意して来るからね。起きたら顔洗って歯磨きしてスーツに着替えるんだよ」

「うん…」

「もう…」


春香はため息をつきながら部屋から出て行く。洗面台の方から水が流れる音がする。たぶん顔を洗って歯を磨いているのだろう。そのあと台所で料理をする音が聞こえてきた。フライパンで何かを炒める音が止まると隣の部屋が開いた音がした。それあらしばらくして隣の部屋の扉が再び開き今度は自分の部屋の扉が開いた。


「りょうちゃん!早く起きて!本当に遅刻だよ!りょうちゃん!」


春香の言葉を聞き僕はスマホの時間を見る。時間を見て僕はゾッとした。


「え…やばい…」

「だから言ってるじゃん。ほら、早く準備して!」


僕は慌てながら春香の方を見ると春香はすでにスーツに着替えていた。入学式には基本在校生は参加しないのだが春香は吹奏楽部が入学式で演奏するため入学式に参加するのだ。春香のスーツ姿は初めて見たがいつもは可愛らしい春香はスーツを着ることで少し大人びた印象が追加されかなり魅力的になっていた。見慣れない春香のスーツ姿を僕はつい見惚れてしまっていた。


「もう…そんなじろじろみないでよ…似合わないかな?」

「ううん。似合ってるよ。なんかいつもと雰囲気違ったらからさ…」

「スーツ着ると印象変わるって友達にも言われるよ…そんなことより早く準備して」

「はーい」


僕は春香に返事をして起き上がり洗面台に向かい顔を洗って歯を磨きリビングで朝食をいただいた。今日の朝食はトーストにコーンスープ、ベーコンとスクランブルエッグだった。朝食を食べ終えた僕は部屋に戻りスーツに着替える。



スーツに着替えた僕はリビングで待っててくれている春香に準備できたよと声をかける。


「じゃあ、行こうか。あ、りょうちゃん、ネクタイ上手く結べてないよ」

「あ、うん。初めてだったから…」


高校や中学校の制服がネクタイではなかったため僕は一度もネクタイを結んだことがなかった。一応、ネットで調べたがはっきり言って自身がなかった。


「結んであげるからこっち来て少ししゃがんで」


春香はそう言いながら僕の手を引く。僕は春香の指示に従い春香の前で少ししゃがんだ。春香は慣れた手つきで僕のネクタイを解いて結び直してくれた。


「これでいいかな」

「うん。ありがとう。なんか慣れてるね」

「うん。高校の時、女子はネクタイだったし昔お父さんのネクタイ結んであげたりしてたから」

「そっかありがとう」

「うん。そろそろ行こうか。ほんとうに遅刻しちゃいけないし」


時間を確認すると割と時間に余裕がなかったので僕と春香は慌てて玄関に向かい少し駆け足で学校に向かうのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る