第51話 RESPECT⇐
「……──分かったか? ハク」
「はい、一応。でも、ほんとにこれで──」
「ははっ、心配すんな。俺の作戦はロキ以外には通用する! あとはこれを、実行できるかどうかだな」
(あ……ロキさんには通用しないんだ)
俺はその言葉に多少の不安を感じながらも、自信満々に自身の腕を叩くナツさんに惹かれ、次の作戦にもそのまま乗っかる事にした。
現在地はもちろん、平野エリアと山岳エリアの境目に位置するナツさん達の秘密基地。
そして俺達は、カリアス団長を探し出して、元帥の座を奪いに行く。
「あの元帥の座は一体一のキャプチャーマッチでは絶対奪えんからな。総入れ替え戦がチャンスなんだ」
ナツさんはそう言っていた。これが、ナツさんが俺にもちかけたこの同盟の本来の目的であったのだろう。
「団長の居る場所は分かっている。あの人は、毎回同じ場所に立ってるから」
「え……?」
「総入れ替えバトルの時の団長は、毎回山岳エリアの頂上で仁王立ちをしながら、俺達が階級を奪いに来るのを待ってるんだ」
(え、それが分かってるなら──)
「分かっていても……今まで誰ひとりとしてあの人から元帥の座を奪った騎士はいない」
俺の頭に過ぎった言葉を
「……とりあえず行こうか」
「はい」
──ガンッ……バサバサッ
「いてっ!」
俺はその基地の出口の高さを見誤ったらしい。驚いてその木にいた鳥も一目散に逃げていった。俺は咄嗟に上の壁に跳ね返された額にそっと右手を添える。
「ははっ、珍しいものが見れたな」
引き締められていた二人の空気は俺のせいで崩れ、笑みを浮かべるナツさんと目が合うと、無性に恥ずかしくなって俺も思わず乾いた笑みを返す。
「し、失礼しました。……行きましょう」
そして、漸くその秘密基地から出た俺達は、山岳エリアの頂上にいるはずのカリアス団長の元へと向かい始めた。
──ザッ
落ち葉を踏みつけながら、だんだん緑が少なくなっていくその岩山へと歩いていく。
(あっ! この山ってラギド山か……!)
登っていく斜面は違うものの、一年ほど前と似たようなその景色に、俺はここが以前登った事のある山であると分かる。
(え……てことは──)
それどころか、この山が今自分の腰に刺さっている剣を引き抜き、記憶を奪われたあの時の山である事にも気づいた。
──ザッ
俺は何となく立ち止まる。
この先へ進んではいけない──……
何故かは分からない。が、確かに俺はそう感じた。
「ハク? ……どうした?」
ナツさんが振り返る。
ちょうどその時だった。
──ヒュッ……
本日、二本目の白い矢。
それが、俺を振り返ったナツさんの顔スレスレを通り過ぎた。
ナツさんは瞬時にそれを感じ取り仰け反ると、矢の飛んできた方向に鋭い眼光を飛ばす。
「……! ハク、追うぞっ!」
そして、突然走り出し──いや、飛んで行った。
「ちゃーっ!」
[発動スキル:移動系★★★──
──
元気な合言葉と同時にナツさんの姿は視界から消える。
(あっ、前使ってたな、
「せつ!」
[発動スキル:移動系☆☆☆ ──
俺もいつもより大きめの声を出して、急いでナツさんの後を追った。
──ダンッ
ナツさんの急停止。そして俺も急停止。
「うーん……やはり先にお前を始末しておかないと団長と気持ちよく殺り合えないな」
ナツさんの視線が向けられているのは、比較的小柄な体格で頭には灰色のサマーニット帽のようなものを被った……恐らく少年。
彼は小さめの右手にクロスボウのような形をした弓を握っていた。
(あれ、この子どこかで──)
「ははっ。ナツさんはそんな入りたての新兵と一緒に行動してるんですか?」
挑発するように彼は言う。
「……そうだが?
何か文句でもあるのか? ルーフ」
(ルーフ……ああっ! 俺の入団時に、グレイ隊長と一緒に挨拶をしていた──いや、でも、もっと好印象で爽やかな感じだったような)
しかし、その彼はクスッと嘲笑を浮かべながら、侮蔑を含むような目で俺をじっと見つめてくる。
「文句? 大アリですよ。俺の憧れのナツさんと手を組むなんて、彼には百年早いです」
(……?)
予想していた展開と全く異なるその言葉に、俺はピタッと動きを止める。
(憧れて……?)
もう一度だけ彼のそのセリフを頭の中で反芻させてみた。
しかし、やっぱり俺はただただ困惑するだけで、自分が喧嘩を売られた理由は正直全く分からなかった。
……To be continued……
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次回:第52話 ARROW⇐
最終改稿日:2021/01/24
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