第43話 REFLECT⇐
だから、俺は強い自分を手に入れた。
ハクというもう一人の自分を──……
──────▷▶Reloading▶▷──────
「どんだけ暴れたらあんなに疲れるんだ?」
……──ん?
突然はっきりと聞こえて来たのは、温かみのある落ち着いた声。
闇に包まれていた視界は、徐々に光が刺してきて白くぼやけ始めていた。
「
(……!)
耳慣れたもう一つの艶やかなその声に、俺はハッとさせられて重い瞼を強引にこじ開けた。
見覚えのある部屋の天井。
それは、ランに位置する本拠地にある俺の部屋の天井であった。入団から一週間ほどしか泊まっていないのだが、ベッドから見たその渦を巻いているような奇妙な模様は、鮮明に俺の記憶に残っている。
(どうして俺はランの自室に──)
俺は、詳しい状況を確認する為に身体を起こそうと、ぐっと腕に力を入れた。
──サッ
手のひらがシーツの上で滑って、小さく音をたてる。
「……ハク?」
もう一度声が聞こえて、起き上がったばかりの俺はその方向へゆっくりと振り向いた。
すると、窓際で話していたその二人も、きょとんとした顔で俺の方を見つめている。
それは、珍しく口元に微笑を纏っていないロキさんと、いつも通り穏やかな優しい表情を浮かべているナツさんであった。
「……ハク、覚えているか?」
一瞬、何を聞かれているのか分からなかった。
──そして、俺は思い出す。
一人で敵陣へと突っ込んだ俺は、自分の所為で首を貫かれたグレイ隊長(NPC)の姿を目にした後、自動で切り替わろうとするハクを抑える事が出来なかった。
[発動スキル:
そしてハクは暴走を始めた。
彼は敵味方関係なく自分の剣を振り回し、何度でも何度でも相手を切り裂き傷つける。
恐らくそれがNPCであるという事を理解していた訳では無い。彼はただ、目に映った俺よりも強い人間を排除していただけなのだ。
相手がもし本物の人間であったなら、、、そう考えると恐ろしくて仕方がない。恐らく、何人かの人間は騎士を諦めてしまったであろう。
そう感じるほどに悲惨な光景。
薄ら残る意識の下で俺が目にしたそのハクの姿は、勇敢な騎士としてありえないどころか、獰猛な殺人鬼そのものであった。
そして、それからしばらく暴れ回り、敵の姿が見えなくなると、ギィィと耳に鳴り響く不快音と共に、頭を上から握りつぶされたような酷い鈍痛が襲いかかった。
(……っ!)
ちょうどその時。
──ピピッ……ビー
それが、ドアの開かれた音だとは分からなかった。
しかし、その聞き覚えのある機械音に嫌な予感がして、俺は慌てて後ろを振り返る。
そこに佇んでいたのは、よく知っている二人の男性。
「ハク────
──カランッ
そのカリアス団長の声を聞いた途端、俺の視界は真っ白な世界へと一変して、強く握ったはずの俺の剣が右手から滑り落ちる。
乾いた金属音が部屋に寂しく鳴り響いた。
そして、ロキさんの腕に身体を支えられて謎の鈍痛に苦しむ俺の心には、騎士として一番大切な何かを失ってしまったような、頭とは別の鈍痛がじんわりと広がっていった──
「……ハク!」
強めの口調で名前を呼ばれ、俺の耳にやっとその声が届く。
「大丈夫か?」
「あ……はい。思い出しました」
ナツさんの声に漸く意識が引き戻され、俺はベッドの横に座り直し、しっかりと二人の方を見つめる。
ロキさんと目が合った。
それでもやはり、その目は笑っていない。
すると、一度目を伏せた後ロキさんは徐ろに口を開いた。
「
ロキさんは自身を落ち着けるように、低く掠れた声で俺に向けて丁寧に諭し始める。
そのいつもとは違うロキさんの姿に、俺は身を強ばらせ、背筋をこれでもかというほどピンッと伸ばしていた。
「ハク。あの時、どうして一人で敵陣へと突っ込んだんですか? 正当な理由があるのであれば、お答え下さい」
ただの独りよがりでしょう。そう言わんばかりに厳しい口調でロキさんは俺に尋ねる。
「……」
俺は何も答えられない。なぜなら、ロキさんを納得させられるような理由が一切見当たらなかったから。そして、その事に気づいた自分が一番驚いていた。
「……騎士とは、他人を守る為に自分が武器を取る事の出来る人間ですよ」
ロキさんは寂しそうに瞳の奥を揺らす。
「このゲームの紹介を覚えていますか?」
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己の思うままに剣を振り、己の思うままに槍を刺し、己の思うままに弓を弾け!
そうすれば貴方は、本物の騎士になれる──
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「もし貴方がこれを、己の力のみで、という意味に取ったのであれば、貴方は騎士に向いていない……私はそう思います」
俺はそうはっきりと告げられた。
……To be continued……
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次回:第44話 TRY⇐
最終改稿日:2021/01/24
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