第41話 MEMORY⇐
──ザッ
靴裏が、僅かな砂利に滑らされる。
(……ふぅ、思ったより大変だな)
俺を取り囲む周りの景色は、登っても登っても茶色のままで一向に変わる気配がない。
行く道を沢山の岩に塞がれて登りにくくはあるものの、それほど高さがあるわけではないこのラギド山という岩山。
普通なら飛行系スキルを使って、一気に山頂へ、とまではいかなくとも、ある程度楽に登る事は可能であった。
しかし、当時の俺は一年間もこのゲームの中にいたにも関わらず、まだスキルを一つも取得していない無知なヘッポコ新兵であった。
──ザッ
荒れた岩肌に手をついて、一つ一つの岩を己の体術のみで乗り越えていく。
──
(……?)
気がつくと、足元に光が差していた。
何も考えず黙々と進めていた自分の足を止めて、俺はその光の筋を遡るようにゆっくりと顔を上げる。
「おお……!」
知らぬ間に明るく開かれていた視界。
そこには今まで見ていた画一的な景色とは対照的に、自然豊かなランの街全体が色鮮やかに映し出されていた。
(……やっと着いた、ラギド山の
少しだけ進み、俺は平らになっている所にわざとらしく直立すると、両手を横に大きく広げ、スーッと山頂の澄んだ空気を吸い込む。
「んー、やっぱり懐かしい感じが──……」
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おめでとう、
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自分の故郷のようなそんな空気に触発されたのだろうか。
突然、俺の脳裡をある光景と言葉が過る。
それは、学生時代の俺が全力を尽くして挑んだ空手の全国大会直後に、先生が俺に向けて仰った言葉。──恐らくそれは成長した俺に対する心からの賛辞であったに違いない。
しかし、俺はその言葉が嬉しくなかった。
いや、むしろ悲しかった。
なぜならその賛辞は、決勝で因縁の相手に惜しくも敗れ優勝を逃した俺に放たれた言葉であったから。
それが最大の健闘であったかのようなその褒め言葉に、俺は正直やる気と自信を失った。
(……準優勝で、おめでとうか。
ははっ、今考えても──)
俺の瞳は、豊かな自然を眺めて感動していた穏やかなものから、ランという街に投影される自分の故郷でのそんな思い出を睨みつけるような、鋭く陰りのあるものへと変わる。
(俺はあの時、誰よりも強く──……
いや、だめだな。あれはもう過去の事だ)
澄んでいるはずの山の空気は、肺に吸い込まれた途端に黒く濁り始め、じわじわと俺の心を蝕んでいく。
そして、その胸に感じる不快感を消し去ろうと右手の拳を握り締め、八つ当たりをするようにぶんっと空中で軽く振った時だった。
──ガンッ
手の甲に何かが当たって、鈍い音が鳴る。
「……ん?」
俺は音のした方へ視線を向けた。
「剣?」
俺の手にぶつかったのは、隣にあった大きな岩と岩の隙間に垂直に刺されていた黄金色の剣の握り。
(なんでこんな所に剣が……?)
もちろん俺はその剣が気になって、誰かの忘れ物という程度にしか考えず、それをぐっと引き抜いた。
ただそれだけの事であった。
──ピピッ
『ステータスⅠが変化しました』
(え、どうして──……)
──ビー! ──ビー! ──ビー!
突如として俺の
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WARNING ─ WARNING ─ WARNING
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──そこからの記憶は全く無い。
ただ、俺が次に目を覚ました時には、
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ステータスⅠ
ユーザー名:ハク
ステータスⅡ
ハク 【Lv 104】→【Lv 777】
職業:騎士
称号:見習い騎士
階級:新兵
スキル:移動系 未取得→☆☆☆☆☆
飛行系 未取得→☆☆☆☆☆
感覚系 未取得→☆☆☆☆☆
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自分のステータスが、たとえ俺のこの先十年を費やしたとしても辿り着けないだろう、そんな域にまで到達していた。
……To be continued……
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次回:第42話 SAVE⇐【✱資料掲載】
※次回は上記の通り資料掲載となります。
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