第2章

第27話 CHANGE⇐



「えっ!」


 ──俺がDAYBREAK夜明けに入団してから1週間が過ぎた頃。



「だ……第一部隊ですか!?」

「ああ、そうだ! 

 既に『グレイ』にもそう伝えてある」


(グレイ……さん)


 それは入団の時に紹介されていた第一部隊隊長の名前。まだ顔しか見ていないが、纏っている雰囲気は正直とても怖そうな人だった。


 そして第一部隊とは、もちろん騎士団最強の部隊の事を指すのだが、ここの第一部隊は少数精鋭を基本理念としており、隊員は20名程しか所属していない。


 その為、この部隊員は他の団員達からエリート集団の一人であるとみなされ、何時いかなる時も羨望の眼差しを向けられる事になるのであった。



(……Sランク騎士団の第一部隊隊員)


 さすがに背負う物の重さを感じる。


「あっ、それと通常通り今から一ヶ月後に階級の総入れ替えを行うから準備しておけ」


(そ、総入れ替え?)


 俺はキョトンとした顔で首を傾げた。


「ははっ、ほんと何も知らねえんだな」


 すると、カリアスは呆れたように笑って、団長室に置かれている大きめの電光掲示板のようなスクリーンを指さす。


「いいか。まず、これが俺達の今の階級表だ」


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元帥

カリアス

大将  ──  中将  ──  少将

ロキ・ナツ   シオン・グレイ (2名)

大佐  ──  中佐  ──  少佐

(3名)     (3名)      (3名)

大尉  ──  中尉  ──  少尉

(4名)     (4名)      (4名)

曹長  ─  軍曹 ─  伍長 ─ 兵長

(5名)   (5名)   (5名)  (5名)

上等兵 ─ 一等兵 ─ 二等兵 ─ 新兵

(20名)  (25名)   (30名)   (残り)

※各人数に多少の増減あり。

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(おお……! こうやって見るとやっぱ大規模な騎士団だな。今の役職と階級は、順当みたいに見えるけど)



◉階級について(※読者様にだけ見えます)

・基本的にどの騎士団も半年ごとに総入れ替えを行わなければならない。

(ここでは、その半年間をシーズンと呼ぶ)

・またそれとは別に、個人同士の階級を入れ替える奪取戦キャプチャーマッチという制度も存在する。

・団員達は、シーズン終了時の階級によってそれ相応の報酬、主に財産(ゲーム内で使える金銭)を手に入れる事が出来る。


※騎士団を動かす時に使われるのは、基本的に階級ではなく役職。(命令、号令等)



「そんで、ハクは当然まだ新兵だ。

 さあ、どこまで上がってこれるだろうか?

 ……秘密シークレットスキルなしで」


 そう、殆どの騎士団員は団長とハクの秘密シークレットスキルについて知らないので、幹部の許可がない限りそれはもちろん使用禁止。その為、俺は総入れ替え戦でもの力を借りずに、自分の力のみで戦う事になる。


(ふっ、まあ本来それが普通なんだけど)


「おい……なに笑ってるんだ?

 ほらっ、行くぞ!」


 そう言って、団長は団長室の扉の引き手に指をかけて振り返ると、俺を反対の手でちょいちょいと誘導する。


(この人、ちゃんとドア開けられたんだ)


 初めて出会ったあの夜に、邸の玄関をぶっ壊して登場したカリアス団長の姿を思い出して、俺はまた少し口角を上げた。


 部屋から出て、団長の立派な背中を追いながら、終わりの見えないほど長く綺麗に敷かれたシックな色の絨毯の真ん中を、俺は恐る恐る進んでいく。


(やっぱり、まだ慣れないなあ)


 このゲームに入って以来ずっと、一軒家に拠点を置いていた俺は、皆で共同して使われるこの大きな邸宅の雰囲気に未だに謎の緊張を感じる。




──コンコンッ


 そうこう考えているうちに、前を歩いていた団長はある部屋の前に立ち止まり、その扉を軽く二回ほど叩いていた。


「おい、グレイ。ちょっといいか?」


(あ……もしかして、グレイ隊長の部屋?)



──ガチャッ


「……」


 何も返事をせずに出てきたその人は、やはりこの前入団の時に紹介されていたその人であった。


 ピシッと整えられた明るめの茶髪。

 シワひとつ見当たらない白と銀の軍服。

 変わることの無い表情と琥珀色の瞳。


(…………これが、第一部隊、隊長)


 間近で見るとさらに威圧的なオーラを放っており、俺は思わず身を震わせる。


「グレイ。こいつがこの間お前に話しておいたハクだ」


 目の前に立つその人は、団長の声に促されて、琥珀色の瞳だけを水平に動かし、冷ややかに俺の顔面を捉える。



 俺は咄嗟に挨拶をしようと思ったが、その圧力に慄然りつぜんとして口が開かず、一層身を震わせながら、次に発する言葉を必死に探していた。



「……」


 グレイ隊長は一言も発する事なく、ただただ俺を見つめている。



「どうした、ハク」


 気の遠くなるほど長く感じたその沈黙を、漸くカリアス団長が破ってくれた。



「あ……あの、ハクと申します」


 俺は支配されていた意識を慌てて取り戻し、かろうじて名前だけを口にした。




「……」


 

 しかし、それでも結局、荘厳な様子で目の前に佇む琥珀色の瞳をしたその男性は、ただ真っ直ぐに俺を見つめるだけで、一切口を開く事は無かったのだが……。








         ……To be continued……

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次回:第28話 TOWER⇐

✱最終改稿日:2020/11/14

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