第25話 LAST⇐


「おかえり! 遅かったなぁ」


 俺達はフィンさんとランスの待っていた食堂に戻ってきた。騎士団員達はもうそこには居らず、自室に戻っているようだ。


 縦長のテーブルの奥にどっしりと腰掛けた団長と目が合って、俺は入団の誘いをやっと考え出す。


(入団しない理由があるとすれば──)


「そういえば、団長。

 ……ハクは入団して下さるようですよ」


 俺の真剣に考え出した心を遮って、ロキさんが嬉しそうな声で団長に言う。


「えっ! そんな事、まだ一言ひとことも────」

「ふふっ……そうでしたか? 先程私が、今日はハクの入団日だと言った時、何も仰らなかったですよ?」


(こ……この人、本当に策士だな)


 ロキさんは俺の戸惑った顔を見て、くすくすと肩をすくめて楽しそうに笑っている。





「でも、まあ入りますよ?」


 ……シーン……


 俺の発した言葉がそんなにおかしかったのか、そこにいた周りの皆はキョトンとして、そうマンガのような音が聞こえるくらいに、部屋は静まり返っている。


「え、悩んでいたんじゃないのか?」


 団長が慌てて尋ねてきた。



 正直、少し引っかかった事はあった。


 レンヤさんのさっきのセリフ。

 ファルさんの話をする時の幹部達の表情。


 しかし俺は何度考えても、この騎士団への入団を断るほどの理由は、微塵も見当たらなかったのだ。


 夕食の時の温かい雰囲気。

 幹部達の実力の偉大さや人望の厚さ。


 よく考えれば、逆に理想的すぎて悩むなんて失礼なくらいだ。



「俺は、この騎士団に入ります!」


 カリアス団長の目を見て、俺は再度はっきりとそう言い放つ。


 さっき冗談ぽく俺をからかっていたロキさんは、その時だけ隣で一瞬なぜか顔を歪めていた。


(え……どうして。入って欲しかったから勧誘してくださったんじゃないのか?)



「そ……そうか! そっかそっか!

 ハクっ! そう言ってくれて嬉しいよ」


 そんなロキさんとは正反対に、団長はニカッと無邪気な笑顔を俺に向けて、大きな手でバシバシと俺の背中を叩いて喜んでいる。


 そして、団長の歓喜に呼応するように俺の胸の中でも、不安なのか、高揚なのか、心配なのか、興奮なのか、原因不明のざわめきが異様なまでに高まっていった。


──


 レンヤさんの鋭い視線。



「はあ……だから嫌いなんだ、この騎士団。

 知らねえぞ、ハク。俺は勧めないと言ったからな!」


 しかし、そう言ったレンヤさんは、さっきの威圧的な雰囲気が解かれ、呆れたようにうっすらと微笑みを見せていた。



──────────…………………………



「じゃあ改めて、これがDAYBREAK夜明けの騎士団情報だ」


──ピピッ


 DAYBREAK夜明け:Sランク(7位)

団長:カリアス

副団長:ロキ

団員数:167(幹部含む)

【団長からの一言】

好きなように暴れろ、責任は全て俺がとる!


(ふっ、一言……カリアス団長らしいな)


────── Now Loading ………────


『入団手続きを開始しますか?』


YES⇐

NO


────── Now Loading ………────


『この騎士団は、承認制です』


〇入団試験あり

●入団試験なし→パスワード入力へ


『騎士団パスワードを入力してください』

 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


(ここだけはカリアス団長に)


──ピピッ


『【確認】この騎士団に入団しますか?』

※入団後3か月は、他の騎士団に移籍不可。

※退団後1ヶ月は、他の騎士団に入団不可。


YES⇐

NO


 俺は団長と一度だけ顔を見合わせると、同時に頷いて、しっかりボタンを押す。


────── Now Loading ………────


「ようこそ、我が騎士団へ」


 こうして俺は、皆の期待を裏切って、案外あっさりとDAYBREAK夜明けの騎士団員として新たな一歩を踏み出すこととなった。


 入団手続きを終えてふと周りを見渡すと、ランスが一人だけ残っている。


 話によるとFinlandフィンランドのレンヤさんとフィンさんは、俺が入団の手続きを始めるのを見て早々に、ランスに「じゃあ、また会おう」とだけ言うと、なぜかふてくされたように帰ってしまったらしい。





「じゃあ、俺もソメタナに戻るよ」

「……そうか、何か色々と想定外の事に巻き込んだ上に一人で帰らせてごめんな?」


 俺はついてきてもらったランスに少しの罪悪感を感じて、頭を下げる。



「ハク」


 それは謝罪に対する答えが続く感じではなく、俺に対して新たな何かを発言しようとして呼ばれた名前。


「ん?」


 俺は顔を上げて首を傾げてみせる。


「あ、いや…………やっぱりいいや」

「え……? いいのか?」

「うん、大丈夫」

「お……おう、ならいいか」


 しかしのちに、この時のランスの話をちゃんと聞いておくべきだった、と後悔する日が来るなんて、この時の俺はまだ想像もしていなかった。







        …… To be continued ……

────────────────────

【第2章の予告】


 DAYBREAK夜明けに入団した俺が一ヶ月後に挑む事になるのは、騎士団員全員で競い合う、階級の総入れ替えバトル! 



(注)階級 (DAYBREAK夜明けの場合)

元帥

大将──中将──少将

大佐──中佐──少佐

大尉──中尉──少尉

曹長──軍曹──伍長──兵長

上等兵──一等兵──二等兵──〘新兵〙


※階級と役職は別。

※〘 〙は現在のハクの階級。


 もちろん俺が目指すのは、一番上の元帥。

 騎士団幹部達とのバトルが再び──……



 そしてまず、Sランク騎士団員の名に恥じない強い騎士になる為に、俺はある人物に連れられて、過酷な訓練場に放り込まれる。


 その訓練の最中、秘密スキルを手に入れたハクの過去が明らかに─────……………




 



Coming soon ……


────────────────────


次回:第26話 DATA⇐

✱最終改稿日:2020/11/01

※次回は章末資料となります。


【御礼】

皆様に第一章を最後までお付き合いいただけました事をとても嬉しく、光栄に思います。


本当にありがとうございます。


いつも皆様の応援に支えられてばかりの未熟な身ではございますが、ご期待に添えるよう、精一杯努めさせていただきますので、これからも応援の程よろしくお願い致します。


それでは、第二章もお楽しみに♬︎♡

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る