JKの運命を変えた35歳サラリーマン

与田いろは

第1話 マボロシナイト

 仕事を終え、21時ごろに帰宅した。鞄をベッドの上に放り投げ、その後を追うように自分の身体もベッドの上へ放り出した。



――インターホンが鳴った。


 うつ伏せになって数分後のことだった。もう少し後だったら、眠っていたかもしれない。帰宅途中の電車の中で、ネット注文しておいたピザが届いたと思い、立ち上がった。


 鞄を探したが、見当たらない。



――再度インターホンが鳴る。


 宅配も忙しい、待たせては申し訳ない。そんなことを想いながら鞄の居場所を探した。ベッドの上を見ると、鞄はあった。


 しかし、鞄の中に財布はない。さっき放り投げた反動で鞄の中身がいくらか外に飛び出していた。ベッドと窓際の隙間に手を伸ばすと、そこには財布らしき革製品の手触りがした。



――今度はドアを激しく叩く音が聞こえる。


 随分と乱暴でせっかちな店員だな。財布を拾い、足早に玄関へ向かった。


「はいはい、お待たせ」



――小銭が床に落ちる音、転がる音がした。


 え?


 何者かに突き飛ばされ押し倒された。仰向けで豪快に床に倒れ込む。天井が視界に入ったが、腰の痛みから思わず目をつぶった。そして次に目を開けた時、俺にまたがる人影が視界に入った。


 女子高生?


 制服姿の女の子が息を乱し、両手両ひざを床に付けて、俺に覆いかぶさるように跨っていた。彼女は苦しそうに呼吸を整えているが、俺はこの状況を整理することがまったくできなかった。


「だ、誰? 何?」


 俺がそう問いかけると、彼女は自分の唇に人差し指を立てて当てた。


「静かにして」


「え、でも・・・・・・」


 俺の言葉を遮るように、唇を合わせてきた。俺の口は、彼女の唇で覆われ、強制的に静かになる。ますます混乱する俺とは裏腹に、彼女の呼吸は徐々に落ち着いてくる。


「とにかく今は静かにしてて」


 俺は彼女に従った。まったく状況が掴めないが、とりあえず静かに、彼女が俺の上を離れるまで、このままで居ることにした。



――汗のにおいと香水の甘い匂いが混ざる


 匂いがはっきりと伝わる距離で、制服のシャツのボタンが二つ外れた制服の襟元から10代の谷間が視界に入る。


 思わず唾を飲んだ。すぐそこに触れらる距離に・・・・・・長い黒髪は俺の顔付近に垂れて、微かにシャンプーの甘さが漂う。


 俺も男だ。こんな拷問があるだろうか。少しでも腕を動かせば彼女の身体のどこかに触れる。触れてしまえば、もう俺は何をするかは分からない。太ももを擦るだろうか、そのまま胸に手を伸ばすだろうか。


 自分の理性を保つためには、このまま彼女の言う通りに、静かにじっとしているしかない。そう思ったが、人間の身体とは素直なものだ。徐々に血が一箇所に集まる感覚がした。


 まずいと思ったときにはもう遅かった。彼女は驚いたような表情をして俺の目を見た後、ゆっくりと視線を股に向けた。その視線の先には、俺のズボンが盛り上がった先が、彼女の太ももに触れていた。


「おじさん、興奮してるの?」


「いや、まさか」


 彼女の顔が徐々に近づいてくる。



――またキスされる。


 そう思い、鼻先が触れる少し手前で俺は目を閉じた。


 しかし、唇が重なる感覚がしない。目を開けると彼女の顔を俺の耳元にあった。


「後で抜いてあげるから、今は静かにしてて」


 あとで、抜いてあげる? どういうこと?


 彼女は耳元でそう囁くと、ゆっくりと立ち上がった。玄関のドアの鍵を音がしないように慎重に動かし、閉めた。そして、玄関の床で仰向けになった俺の上をゆっくりと通り過ぎ奥の部屋へ歩いていった。



 白いパンツだった。しかも、非常にいい太ももをしていた。


 更に固くなっていくのを感じる。



 何だこの状況は。何だこの男のロマンが詰まった展開は。


 彼女が居たこの玄関は、彼女の甘い香水の匂いと、俺の獣のにおいが同じだけ充満していた。

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