お姉ちゃんと話します‼︎
「ねえ、真昼。学校に戻るんでしょ? だったらお姉ちゃんも、付き合うよ」
姉さんは曲がり角からひょこりと顔を出して、そう言ってニヤリと笑う。
「……いいけど、姉さん……大学は?」
「サボりだね。……でも真昼だって、今日はサボりでしょ? ……ふふっ、仲間だね」
「……だな。じゃあ、行くか?」
「うん!」
俺はゆっくりと、歩き出す。姉さんもそんな俺の隣を、ゆっくり歩く。
「真昼はさ、季節の中で何が1番好き?」
姉さんは青い空に視線を向けて、唐突にそんなことを口にする。
「…………春かな」
「どうして?」
「なんでだろ……分かんないな。でも……春の青空が……1番綺麗に見えるから、かな」
「ふふっ、そっか。私もね、春が1番好きだよ。だって春は、真昼が好きな季節だから」
2人で、空を見上げる。やっぱり空は、青い。
「……今日まで、色々あったよな」
「うん。本当に色々あった。……真昼はさ、辛かったのかもしれないけど、私は本当に楽しかった。ずっとずっと好きだった真昼に、本気でアプローチすることができたんだもん。人生で1番、幸せな時間だったよ」
「……俺も……楽しかったよ」
色んな女の子に好意を寄せられて、色んな想いに触れて、たくさん……傷つけてしまった。……でも、楽しかったのは本当だ。だって一生忘れられない思い出が、沢山できた。
「私はね、真昼にはこれからも、もっともっと楽しい思いをして欲しい。色んなことをして、色んなものを見て、色んなことを感じて欲しいの。……でもね、その隣にいるのは……私じゃないと嫌だ。絶対に絶対に、私じゃないと……ダメなの」
姉さんは立ち止まって、真っ直ぐに俺を見る。
「…………」
姉さんと、視線が交わる。すると姉さんは、やっぱり笑う。本当に愛しいものを見るような優しい笑みを浮かべて、ぎゅっと強く俺の手を握りしめる。
「真昼の手、温かい……。いつ触れても真昼は、温かいね。これはやっぱり、私だけのものにしたい。私だけのものじゃないと、我慢できない。真昼が他の女と付き合って、私に触れてくれなくなるなんて、どうしても我慢できないよ」
姉さんはそう言って、俺の掌を自分の胸に押し付ける。……ドキドキと姉さんの鼓動が、掌を通じて身体中に伝わってくる。
「……姉さん」
「逃げちゃダメ。離れないで。私の鼓動を、感じてよ。……すっごく、ドキドキしてるでしょ? 真昼のことを考えるとね、いつもこうなるの」
「…………」
俺は言葉を返せない。ただ姉さんの鼓動だけが、ドキドキと伝わってくる。
「真昼のことを考えると、心臓がドキドキするの。愛しくて、心地よくて、ふわふわして……。でもちょっと怖くて、ほんのちょっぴり不安で、それでもやっぱり……愛しい。この心臓の音がね、私の愛情なの。だから私はね、真昼の為ならなんだってできる。だって真昼が私の側から居なくなるってことは、心臓が止まっちゃうってことだから。だから私は、真昼を手に入れる為なら……なんだってするの……」
姉さんはまるで、自分の心臓に触れて欲しいと言うように、強く強く俺の手を自分の胸に押し付け続ける。
「…………姉さん。そろそろ行かないと、時間が……無くなる」
「……ごめん。ちょっとだけ、我慢できなくなっちゃった。……昨日の真昼とのデートからずっと、真昼のことしか考えられないの。ずっとずっと、本当に小さな頃から真昼のことだけを考えてきたけど、今はそれが全部偽物だったって思うくらい、真昼しか見えない。それくらい真昼が……大好き」
姉さんは蕩けるような瞳で笑って、俺の手を離してくれる。
「…………」
どくどくと、まるで姉さんの心が俺の掌に焼きついたように、手を離しても姉さんの鼓動が掌に残り続ける。
「行こ? 真昼。学校に荷物、置いておくわけには行かないんでしょ?」
「……そうだな。うん、行こうか」
そうしてまた、歩き出す。空はまだ、青いままだ。
「これから、楽しみだよね。……真昼が私を選んでくれたらさ、一緒に色んなところに行きたい。今まで我慢してきて分も沢山イチャイチャして、もうずっと……私が真昼を独り占めするの……。私はずっと昔から真昼だけのものだけど、でもようやく真昼も……私だけのものになってくれる。……楽しみだなぁ」
姉さんはまるで遠足前の子供のように、ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべる。
「……姉さんはさ……その、いつから俺のことを……好きになってくれたんだ?」
俺はこの機会に、ずっと気になっていたことを尋ねてみる。
「だから、ずっとだよ。自分でも覚えてないくらい、ずっと前。真昼が初めて、私をお姉ちゃんって呼んでくれて、私の手を握ってくれた時。その時から私は、この子の為に生きるって決めたの」
「…………そっか。結局、人を好きになるっていうのは、そういうことだよな……」
人が人を好きになる。それはとても、単純なことだ。でも単純だからこそ、どうしても……ままならないものなんだ。
姉さんが俺を好きになってくれた。みんなが俺を、好きになってくれた。その理由が、俺にはずっと分からなかった。
でもきっと、人が人を好きになるのに理由なんて無いんだ。いつだって理由を探すのは結果が出た後で、だから人は人を好きになった後で理由を探す。
同じだなって、思った。
俺も、同じだ。
「……学校に到着だね。じゃあ私は、行くよ。5時になったら、あの公園に行けばいいんだよね?」
「うん。そこでちゃんと……答えを返すよ」
「ありがとう、真昼。今までいっぱい無理させちゃったね。でも、私は真昼が大好きだから、真昼じゃないと……ダメだから。……だから……待ってる。真昼が私を愛してくれるのを、私……待ってるからね」
姉さんは最後に、照れたような笑みを浮かべて、早足に俺の前から立ち去る。……ドキドキと、まだ姉さんの鼓動が掌に残っている。
「…………」
そこでちょうど、チャイムの音が鳴り響く。これでもう、全ての授業が終わった。だから後はもう、前に進むだけだ。
「……行くか」
俺は自分の教室に戻って、鞄を持って学校を後にする。最後のホームルームがまだ残っているけど、今更もう気にする必要は無いだろう。
俺はゆっくりと、公園に向かう。
告白の時間は、もうすぐだ。
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