2章 皆んな、これからどうしますか?
弟はこれでいいんですか?
朝、目覚ましのアラームは鳴らなかったけれど、いつも通りの時間に目が覚めた。
「…………」
姉さんと摩夜が、俺を守るように覆い被さって寝息をたてている。そんな2人に触れていると、もう少しだけこのままでいたいと、そう思ってしまう。……もう少しだけでいいから、2人の温かさに甘えていたい、と。
……でも、
「朝飯、作らないとな……」
俺は、2人の想いに応えていない。なのに、こんな時だけ甘えたいだなんて、それは流石に虫が良すぎる。……昨日は随分と、弱いところを見せた。血なんか繋がっていなくても、家族なんだって分かっているのに……どうしても不安になって、あんな風にみっともない姿を晒してしまった。だからこれ以上、俺が甘えるわけにはいかない。
「……起きよう」
2人を起こさないように、ゆっくりと身体を起こす。
「…………」
2人の子供のような寝顔を見ると、思わず笑みがこぼれる。……でもきっと、目を覚ませば2人はまた、昨日のような言い合いを始めてしまうのだろう。俺が彼女たちの想いに応えない限り、それはずっと続く筈だ。
だから、
「……頑張ろう」
そう呟いて、部屋を出る。俺の新しい日常が、始まった。
◇
そして、昼休み。俺は校舎裏にぽつんと置かれたベンチで、1人パンを食べていた。
「…………会長の所に、行くわけにもいかないしな……」
あのゲームを終えた後。会長は何も言わずに、帰ってしまった。だから会長が今、何を考えているのか分からない。……会長は、俺と姉さんがキスするのを見て、一体なにを思ったのだろう? そしてこれから会長は、なにをしてくるのだろう?
……やっぱり俺には、分からない。
「……まあ、気にしても仕方ないんだろうけど……」
そう呟いて、軽く息を吐く。……皆がこれからどういう風に行動してくるのか、俺には想像もつかない。でももしかしたら、昨日のパーティなんて目じゃないくらいの事態に、なるかもしれないんだ。
「……少し、不安だな……」
本日何度目かの、ため息をこぼす。……すると、それに返事をするかのように、声が響いた。
「おや? 遂に見つけましたわ! この
そんな声の方に視線を向けると、1人の少女の姿が目に入る。その少女は金髪のツインテールを派手に揺らし、スカートがめくれているのもお構いないしに、全速力でこちらに走ってくる。俺はいつも通りに逃げようか……とも思ったけれど、今日はそんな風に走る気にはなれず、ベンチに腰掛けたまま少女が来るのを待つことにする。
「……相変わらず、うるさいな、
「その程度、サービスですわ。……そんなことより真昼さん? 今日こそ私の用意したスカート、履いてもらえますわね?」
「履くわけないだろ、バカ」
「何故です! こんな可愛いヒラヒラのスカート。女の子なら誰だって、履きたいと思う筈ですわ!」
「俺は男だ。……つーか、だんだん趣旨がズレてないか? お前、俺を女子バスケ部に入れるために、女装を強要してきた筈だろ? なのに、俺にヒラヒラのスカート履かせてどうすんだよ?」
「………………あら?」
と、バカみたいに首を傾げるこの少女は、
「……まあ、なんでもいいですわ! 私は真昼さんがバスケ部に戻ってくれたら、それで満足ですから!」
芽衣子はそう言って、カラッとした表情で笑う。……こいつは俺が高校に入ってバスケを辞めたのが気に食わないようで、いつも無理やり俺をバスケ部に入れようとしてくる。……しかもなぜか、女子バスケ部に……。
「お前は相変わらず、バカだな。……つーか、今日はお前に構う元気は無いから、1人でグラウンドでも走っててくれ」
そう言って俺は、購買で適当に買った惣菜パンにかぶりつく。……あまり、美味しくは無い。
「私、意味の無い行動は嫌いですの。走る時は必ず目的を持てというのが、我が家の家訓ですから。……まあでも、真昼さんが一緒に走ってくれると言うのであれば、考えてもいいですわよ?」
「いや、走らねーよ。俺はお前みたいに、体力有り余ってねーの」
「あら? そうですの? ……でも全力を出して走れば、くだらない悩みも吹き飛ぶかも知れませんわよ?」
「…………なんで俺に、悩みがあるって分かったんだよ?」
俺は内心の驚きを隠しながら、芽衣子にそう尋ねる。芽衣子はそんな俺の姿を見て、ニヤリとした笑みを浮かべて答えを返す。
「貴方も意外とバカですわね、真昼さん。……普段はポーカーフェイスの真昼さんが、あんな風にため息ばかり吐いていましたら、どんなバカでも気がつきますわ」
「……俺、そんなに何度も、ため息してたか?」
自分ではそんなにしているつもりは、無かったんだが……。
「ええ、それはもう、こちらの気が滅入るくらいに」
「…………」
アホな芽衣子に気づかれるくらいなら、俺は相当落ち込んで見えたらしい。……自分では気を張っているつもりだったんだけど……情けないな……。
「ほらまた、ため息を吐いていますわよ?」
「……あー、悪い。ちょっと……疲れてるんだよ」
「別に、謝られる筋合いはありませんわ。それより……それよりも、このスカートを……!」
「履かない」
「相変わらず、強情ですわね。……でしたら、放課後にでも私のバスケ部、見学に来ません?」
「……え?」
芽衣子の意外な言葉に、俺は思わず芽衣子の顔を見る。芽衣子はそんな俺を見て、得意げに胸を張って言葉を続ける。
「私の華麗なシュートフォームでも見れば、多少は貴方の気も晴れるでしょう? ……それにここ最近は、全然私に構ってくれなかったんですから、偶には……私に付き合っても良いのではなくて?」
「…………」
言われてみると、確かにそうだ。最近は……色々あって、芽衣子に全然構ってやれてない。だから偶には、ただの友人と遊んで帰るっていうのも悪くは無いのだろう。
「…………どうしたのです? 黙り込んで。もしかして……嫌ですの……?」
「あー、いや、分かった。偶にはお前に付き合ってやるよ。……放課後、体育館に行けばいいんだな?」
「ええ! やはり貴方は、女子バスケ部に入りたかったのですね! ちゃんとユニフォームも用意しておきますから、楽しみにしていて下さいね!」
「いや、そこまでは……」
言ってないだろ? そう俺が言い切る前に、芽衣子は上機嫌でどこかに走り去ってしまう。本当に、元気な奴だ。
「……まあでも、ちょっとは元気が出たかな」
元気な友人の姿に苦笑しながら、俺は惣菜パン最後の一口を口に入れる。……意外と悪くはないなって、今度はそう思った。
◇
そして、空が茜に色を変える時間。真昼の通う学園から少し離れたカフェで、4人の少女たちが重い雰囲気で向き合っていた。
「…………」
「…………」
「…………」
呼び出された3人の少女。
「皆んな、わざわざ集まって貰って悪いね。実は今日はね……真昼のことで、大切な話があるんだよ」
真昼の居ないところで、事態は前へと進んでいく。真昼はまだ、それに気がつかない。
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