たとえ明日この地球が滅びようとも今日君は林檎の木を植える

@69_inout

第1話 凛

自分がそんな存在であったと気付くのは、いつも事がかなり過ぎた頃である。偶に気付けないときさえある。人間は自分の存在を客観的に見る機会をほとんど得ない。でも、死にたくなった時、逃げ出したくなった時、過去に戻りたくなった時、人間は自分がどれほどの存在であったかを痛感する。





僕はうまく生きようとはしなかったけれどどうにかなると思っていた。中学受験も高校受験も危なげなく志望校に合格し、成績も悪くはなく、スポーツもそこそこでき彼女もいた。ただその場を生きているだけだった。しかし、僕の人生の歯車は大学受験で狂い始めた。僕の学校が自称進学校かどうかはよくわからないが、周りは医者や学者、官僚を目指すような人であふれかえっていた。そうやって周りに流され僕は、自然に医師を目指して医学部を受験した。医学部受験がそれほど簡単でないことも分かっていたが、きっと今までのように受かるだろうと思っていた、いや信じ込んでいた。家族も周りの人間もそう思っていただろう。

 不合格の三文字は、見た目に反してかなり重く僕にのしかかってきた。周りは現役で大学生になる中、僕の周りの時間だけが前に進むそぶりをも見せないまま桜が咲いた。いつになっても毎年春に桜は咲く、いつもは明るく見えるその花びらは少し霞んで、そしてどこか僕を嘲笑しているかのように見えた。そんな桜が嫌いだった。

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