都市伝説のような話

紅ノ夕立

第1話

「あのトンネルのむこうがわには、ぼくたちのしらないせかいがあるんだって」

随分昔、数えると十年くらいになるだろうか。

近所に住んでいた同い年の五人でそんな都市伝説染みた話をして盛り上がった記憶がふと蘇った。

何で思い出したんだろう。

今は十二月で、トンネルの話をしたのは確か夏だったのに…

「ねぇ、聞いてる?」

「あ、ごめん。何?」

「また寝落ちしたのか?お前いっつもそうだよな」

「五分に一回は生存確認しておかないとねぇ。どっかいっちゃってるからねぇ」

「確かに。そうね」

「失礼だな。生存はしてるよ」

「じゃあ、宇宙人との交信?」

「それも違う」

そうか。

その五人で今現在集まっているからか。

高校に入学して、やがて幼馴染み全員が一緒の学校に進学していたことをそれぞれ知り、これも運命だと感じながら時たまこうやって放課後に僕の教室に集まっては身のない話をしていた。

ああ、そうだった、こうやって集まった時、毎回トンネルのことを思い出すんだった。

皆はどうなんだろう。

「あのさ」

「ん?何?」

「僕たちがまだ小学校に入る前くらいの時にした話、覚えてる?」

「小学校に入る前?」

「そんなの毎日のように会っては話して、会っては話してを繰り返してたからインパクトあるやつじゃないと覚えてねーよ」

「多分、意外とインパクトはあったと思うんだけど…家の近くに小さめのトンネルあったじゃん。その向こう側に行ったら別の世界がある…って話だよ」

僕が説明すると全員、記憶を遡らせているのか、考え込んだ表情を浮かべている。

「そんな話したっけな…全然覚えてねーや」

「私もー。トンネルってあの駄菓子屋の近くにあるやつでしょ?」

「あの駄菓子屋さん、近々閉めるみたいだねぇ」

「え!?そなの!?」

「マジか、あそこの店の人、夏場に焼き鳥を炭火で焼いてはオレたちにごちそうしてくれてたよな~」

「あったわね。そんなこと」

「えぇ…閉めちゃうんだ…帰りに寄ろっかな。皆もどう?」

話が僕の問い掛けたことから段々とずれ始めている。

この五人で話すとそういうのはよくあることだけど、今回ばかりは話を逸らさないでほしい。

いつもは流しているけど、ちゃんと戻そう。

「それは良いけど、今はトンネルの話。皆は思い出さないの?」

「私中学入った時にトンネルの向こう側行ったけどぉ、特に別の世界だ!とは思わなかったよぉ?」

「そう…じゃなくて、今の話を覚えているかって話」

「う~ん…」

「別の子たちとそんな話をしたんじゃない?少なくとも私はまーったくだよ」

「オレも」

「私も~」

「そう…」

あの話が印象に残っているのは僕だけだったのか。

まあ、オカルトとか都市伝説とか、そんな話に興味がある僕みたいな人にしか記憶に残らない類の話題だったんだな。

皆が覚えてないなら仕方ないか。

「じゃ、そろそろ帰りますか!」

そう言うと皆が同調してゆっくりと学校の玄関へ足を運び始めた。

僕も皆に続いて教室を出る。

「私は、覚えているわよ」

「え?」

最後に僕と足並みを揃えて歩き始めた彼女がそう小さく呟いた。

「不思議よね。あんなに皆興味津々で目を輝かせて、大人になったら皆で確かめようね、なんて言い合っていたのに」

「君は、覚えているんだ。僕が言ったこと」

「ええ。覚えているわ。割と鮮明に」

彼女は幼馴染みの中でも一番の現実主義者で、こういった事は信じないタイプだと思っていた。

なのに、覚えていたんだ。

少し意外に思った。

「もしかして、信じてる?トンネルの向こうに別の世界があるって」

「信じたくないわ。だからもう検証しようとも思わない」

「…もう?」

彼女の言い回しに若干の違和感を覚えた。

それはまるで、一度は検証した、みたいな…

「何にも気付かない?だとしたら貴方も、そっちの世界の住人なのかもね」

「どういうこと…?言ってる意味が」

「この世界が全部、向こうの世界ってことよ」

「僕は…トンネルの向こうなんて行ったことないよ。だから…」

「そうね。完全にではなかったから。だから貴方はまだ…ねえ、早く戻ってきて。一人は寂しいわ」

「なに…それ…」




「―くん」

「…あれ、ぼく、ねてた?」

ぼくはめがさめるとだがしやさんのとなりにあるトンネルのまえでよこになっていた。

「良かった…大丈夫?」

「うん。あれ、ほかのこは?」

「あのね」

あとふたり…あれ、さんにんだっけ…よにんだったかも。

どこに…

「トンネルの向こう側にいってから、ずっと返って来ないの。もう十年になるわ…」

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都市伝説のような話 紅ノ夕立 @AzuNagi

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