スクールライフ【短編】
疑わしいホッキョクギツネ
スクールライフ【短編】
高校には馴染めなかった。
中学ではバスケットボール部に所属していてそれなりに練習には真剣に打ちこみ、練習が終わった後には近くの公園で仲間と内容は覚えていないが、色々なことを語りあって、自分でも過不足のない中学生活を送っていると自負していた。
相手の心情には頓着せずに自分の言いたいことを言って、それが受け入れられてきた。
受験の時期が近づいてくると友達と同じ地元の高校にいくのが嫌になって、地元から離れた都内の高校に通うことになった。
僕は中学の友達を見下していたのだと思う。何を言っても笑ってくれる友達のことを馬鹿な奴らだと思っていた。
高校に何を期待していたのかは自分でも分からなかったのだけど、もう馬鹿な友達とは関わりたくないという一心で平均よりも少し偏差値の高い、中学の友達が一人も受験していない高校を受験したのだ。
結果的に高校時代の三年間では一人も友達と呼べる人はできなかった。
今思うと理由はなんとなく分かる。
僕は高校の入学式が終った次の日から文学少年を気取るようになっていた。
机の上には太宰治や三島由紀夫、夏目漱石の文庫をこれ見よがしに机の上に置いて、授業の合間の休み時間には頬杖をついて、それらの文庫を不貞腐れながら読んでいたのだ。
僕はそれが正しいことだと思っていた。
入学して間もないクラス内での親交を深めるための自己紹介の時間でも僕は文学少年を気取っていた。
「はじめまして。吉田といいます。僕は東京の端っこの西東京市というところからきました。中学ではバスケットボール部に入っていて高校でもバスケ部に入ろうと思ってます。バスケ部に入る予定の人、仲良くしてくれたらうれしいです。趣味は読書で太宰治が好きです。三島や夏目漱石も好きですが、僕は断然太宰派です。……よろしくお願いします」
自己紹介をしたときの台詞ははっきりと覚えている。前日になんとなくではあるが言うことを考えて、それを大学ノートに書き記し、暗記して臨んだからだ。なるべく抑揚を欠いた語り口調になるように意識した。本当は自己紹介なんてしたくないけれど、しょうがないからやっているという風に見られたかった。なので本来ならばフルネームで紹介するところを苗字しか言わなかった。
自己紹介が終わったあとの雰囲気は良くも悪くもなかった。一応拍手もしてくれた。誰かが決めたわけではないけれど、一人一人の自己紹介が終わったら強制的に拍手をするムードになっていたからだ。
他の人の番が終わって拍手をしないと自分のときに拍手がならないと思っていたんだろう。みんなは拍手があるのに自分だけ拍手がないのは、怖い。
本当は太宰も三島もしっかりと読んだことなんてなかった。それどころかいざ読んでみると内容は全然頭に入ってこなくて、無心でお経を読んでいるような状態であった。
漠然と太宰は弱い、三島は強いといったイメージしかもっていなかった。
バスケットボール部は二カ月で辞めた。部内で友達はできなかったし、練習についていけなかった。バスケでは二人一組になっての練習が多いのだが、そのたびに自分だけはぐれたらどうしようと不安になっていた。だいたい一カ月も経つと一緒に組む人が決まってくるのだけれど、僕と毎回組んでくれる人はいなかった。
そして僕はバスケが下手だった。というよりも僕の中学のバスケットボール部自体のレベルがとても低くて、中学では通用していたものが一切通用しなかったのだ。
だんだん自分が居たたまれなくなってきて、顧問に退部届を出した。
結局高校の三年間僕は本を読み続けることしかできなかった。そんな僕を気味悪がって、誰も話しかけてこなかった。いや、気味悪がってさえいなかったかもしれない。僕は存在していなかったのではないか。
国語の教師でさえ話しかけてこなかった。本が好きな生徒にくらい話しかけても良さそうなものだが。
だけれど不思議と寂しくはなく、そういうもんなんだなと諦めていた。
大学は福島県の国立大学に合格した。
髪を茶色に染めて、明るいグレーのスーツで入学式に臨むつもりだ。
スクールライフ【短編】 疑わしいホッキョクギツネ @utagawasiihokkyokugitune
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