第1章 初仕事でハプニング
第1話
「それで、先輩はどうしたすか。あれ」
会長の後ろ姿を確認した後。男子生徒は俺の方に視線を向けた。
「ああ、いつもの事よ」
「なるほど『いつもの』すか」
「……そんな顔で俺を見るな。納得するな」
俺は、下を向いたまま早口でそう言った。
「あら、あなたから私たちの表情は見えないはずだけど?」
「…………」
この高校の副会長である俺『市ノ
それは、ただ単純に二人の表情を見たくなかったからである。
「それに、人がせっかく良いパスを出したと思っていたのに、それを……はぁ。どうしてああ出来るのかしら」
「うぐ……」
そう言ったのは『書記』の『
母親はイギリス人でデザイナー。父親は日本人で母親がデザインした洋服を売っている会社の社長。母親が作った服は『ブランド』になっており、かなりの売れ行きらしい。
つまり、マリナは『お金持ちの社長令嬢』かつ『ハーフ』なのである。
そして、マリナは母親の遺伝なのか髪が金髪で長い。それでいて、身長は高校生でありながら同学年の中ではかなり小さい。
整列すれば一番前になるほどである。
ただ、そんな見た目でも元々の雰囲気なのか言葉遣いなのか、恋をはじめ一年のほとんどは『お姉さん』または『お姉様』と言われているらしい。
趣味は『書道』で、この学校に書道クラブも書道部もないが、個人的にコンテストなどに出して表彰されている。
「一体何をしでかしたんすか先輩」
「いや……」
そう尋ねてきたのは『会計』の『
恋と同い年の高校一年生で、髪は男性にしては長く、黒い。パソコンの技術が高く、そこを俺が見込んでスカウトした。
ただその技術は高いが、それが勉学には生かされず、結果としてテストではいつも中の下と中の中を行ったり来たりしている……らしい。
本人はあまり気にしていないらしいが……。
「まぁ、先輩が恋愛に関して『ポンコツ』なのはいつも通りッスけど」
「ポンコツと言うな」
「あら、現にポンコツよ? あなた」
「ぐっ」
俺の心に五百のダメージ。
元々、俺の心のゲージはそんなに多くはない。しかし、恋や周りからは『冷たい人間』と思われているらしい。
でも、ただそれは俺の「なめられたくない」という感情からくる口調や態度のせいで、実際はたった今の言葉だけで心のゲージを三分の一ぐらいまでダメージを負ってしまう。
それくらい弱い『ガラスのハート』の持ち主だ。
「それにしたって、会長の機嫌が悪いのはどうにかしないといけませんね」
「さっきのポンコツ発言は無視か。まぁ、でも……そうだな。」
「なんとかしないと、ここの雰囲気も悪くなるッスよ?」
「ああ。でも、あいつの場合。集中している時は基本的に無言になるからな」
「それはそうッスけど」
「しかも、声をかけても反応しない。生徒会の活動をしている間は特に問題はないとは思うが……」
「そう言えばそうだったわね。あなたと言い……恋ちゃんと言い、オンオフがハッキリしているものね」
そう、俺と恋はかなりオンとオフの差が激しい人間だ。
ちなみに恋は「集中する!」と思えば集中出来る人間で、集中している間は周囲の言葉は聞こえなくなる。
しかし、当然。
それを長く続けることは出来ず、短い時間しか集中出来ない。つまり、先ほどの奇声は「ちょうど集中が切れた」という合図でもあるのだ。
対して俺は『言葉遣い』でオンオフを切り替えている。
生徒会の間では別名『仕事モード』と呼ばれる『オン』の状態では、口調が『丁寧』になり、自分の事を『私』と呼ぶようにしている。
そして『オフ』の状態になれば、年相応の言葉遣いになり、自分の事も『俺』と呼んでいる。
ただし、こちらの場合は本人の意識の問題のため長い時間持続することが出来る。
つまり、学校にいる間は『オン』の状態になり、家に帰れば『オフ』になるという事も可能である。
「まぁ、今その話はいいとして、明日は『全校集会』ッスよ? さすがに不機嫌な会長を全校生徒の前に出すわけにもいかないと思うッスけど」
「そうねぇ、新しい生徒会になって初めての大仕事だものね」
「そう……だな」
『全校集会』
それは学校の内の教師、生徒が体育館に集まる。特に一年の行事として入っているわけでもないが、毎月行われている。
いつも校長先生の話や表彰がメインなのだが、期末試験後の全校集会では『委員報告会』というモノがそこに追加されるのだ。
内容は主にその
「今回は文化祭と体育祭の報告もあるから、書類が大量になりそうね」
そう、今回は前生徒会から引き継いだ仕事『文化祭と体育祭の会計』も平行して報告しなければならない。
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