『恋』に恋する副会長
黒い猫
プロローグ
第0話
朝、それは一日の始まりである。
窓から差し込む朝日の光は、体を起こす目覚まし時計であり、朝食をゆっくり良くかんで食べる事で頭の働きを活発にさせる事が出来るのだ。
「おっはよう」
「おはよう。今日も『生徒会』の人たちはもう学校に来ているんだよね?」
「そうみたい。あー、二本木様に会えると思っていたのになぁ」
「それならもっと早く来ないとダメでしょ」
「えー、これ以上早くなんて無理。朝練があるわけでもないのに早く来る必要ないもん」
「その気持ちは分かる」
「それに、上手くいけば会えるしね」
「そうそう。それに市ノ瀬先輩と一緒に話しているところが見られたら、それこそ早起きしてよかったって思えるよね」
「うんうん。黒井先輩もかわいい見た目だけど、色々相談にものってくれるいいお姉さんって感じだよね」
「上木君は……何考えているか分からないけど」
「でも、噂じゃ市ノ瀬先輩のスカウトらしいよ」
「えっ、そうなの?」
朝練のある部活動の生徒もいる中、その朝練の生徒よりも早く登校している生徒。それが『生徒会』である。
そもそも『生徒会』とは中学校や高校などで生徒により組織されている。
活動内容として、学校生活の充実を図るための活動や文化祭や体育祭等のイベントの実行に関する事などを行っている。
そして、この
コレは「生徒のお手本になるべき生徒会が遅刻をする」という事が起きないようにために取られた方法。
もちろん、遅くまで学校に残らせないため……という事も考えた上で、先生たちと生徒会の間で相談などにより、決められたモノである。
そして『生徒の代表』とも呼んでいいこの『生徒会』は、普通であれば「面倒」などあまりよくない印象を持たれる事が多かった。
しかし、今回の『生徒会』は違う。
今回の『生徒会のメンバー』は、生徒たちほぼ全員がそのメンバー一人一人が全員を知っている。
それくらい生徒の注目度が高かった。
そして、この学校の生徒会はこの秋に生徒会選挙があり、新しくなったばかりである。今回めでたく『生徒会長』に当選したのは、この春入学したばかりの『一年生の女子生徒』だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あー!!」
しかし、朝が早いという事は、つまり朝起きる時間が早い。そのせいか、会長はたまにこうして奇声を発する事でストレスを発散しているらしい。
「はぁ……恋したい」
「……突然どうしたのですか」
「恋ですよ、恋!」
「はぁ」
「中学では無縁だったから、高校生になったら恋の一つや二つ出来ると思うじゃないですかぁ」
「…………」
いつも仕事をしている机の上で生徒会長はグデーと伸びた。どうやら、今の発言は『まんがみたいな恋をしたい』という事らしい。
「……すればいいじゃないですか。恋」
先ほどから冷たくそう言い放っているのは『生徒会副会長』である男子生徒。
会長である彼女より一つ年上の先輩で、前回の生徒会では会計を務めていた。そして、経験を生かし、今回は副会長として会長を影で支えている。
「そういう事じゃなくて、なんていうかこう……」
「つまり、本や漫画で見るような恋をしたいと」
「そう! はぁ、そんな運命的な恋……したいなぁ」
「………」
そう言って、今度は天井を見上げた。
「あら、それなら本とか漫画なら『幼なじみ』も結構あるわよね?」
自分の仕事は終わったのか、見ていた鏡から顔を上げてたずねたのは『書記』の女子生徒である。
「幼なじみ……」
彼女の言葉に、さっきまで冷たい対応をしていた副会長の方を向いた。
実は、この二人。小さい頃から顔見知りの『幼なじみ』でなおかつご近所さんである。家族ぐるみの付き合いもあり、学年や性別も違っていたが、昔は仲良くしていた。
「そうそう」
「……」
「そこまで無理して恋をする必要はないと思います。そもそも学生の本分は『勉強』です。色恋に精を出すのは勝手ですが、頑張った結果成績を落とす……という事だけはさけてください」
「うっ、分かっていますよ!」
副会長の言葉に会長はすねたのか、顔をふくらませながら扉の方へとズンズンと大またで進んだ。
「どうされたのですか?」
「担任の先生に呼ばれているから先に行きます! 最後の人は電気を消して、鍵をかけてく先生に渡してください!」
会長はそのまま扉を勢いよく開け……。
「……っと」
「あっ、ごめんなさい」
――そのまま進もうとしたところで、会長は『会計』の男子生徒にぶつかりそうになった。
「すっ、すみません。担任の話が長くなって遅くなりました」
敬語になったのは、遅れてしまった事に対してだろう。しかし、別に会長は『それ』に対して怒っているのではない。
「そっ、そっか。後の事は『あの人』に聞いて。私も先生に呼ばれているから」
男子生徒は『あの人』と呼ばれた『副会長』の方を見ている間に、会長はそのまま生徒会室を出て行った。
「はぁ、あの人……か」
いきなり『あの人』と呼ばれた副会長は「フッ」と小さく笑い、そのままソファーにもたれかかった。
「フフフ……」
それこそ、彼女が中学生のころから『好き』という感情を持ち、その思いは早くも三年以上経っていた。
しかし、小さいころから長く続いた『一つ年上のお兄さんと妹の様な関係』により、彼は「兄というモノは、妹に対し、時には厳しい事を言わなくてはならない」という『考え』を持つ様になった。
だが、二人は本当の兄妹ではない。
それなのにも関わらず、昔からのそんな『考え』により彼自身、そんなつもりはなくとも、思わず恋に対し冷たい態度を取ってしまい、彼らはすれ違いの日々を過ごしていた。
「はぁ……」
――コレは『恋に恋する副会長』と、そんな二人に振り回される生徒会役員たちの物語である。
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