《西暦21517年 誠2》その一
食料輸送船を乗っとるのは容易だった。
なにしろ、こっちは収容所内の雑用ロボットを分解し、スタンガンや熱戦銃に改造している。輸送船のパイロットはおとなしくホールドアップに従った。
収容所の囚人はそう多くない。
が、ひと月ぶんの食料ともなれば、それなりの量に達するため、輸送船は三十人乗りクラスの中型船だ。ただし、オート操縦機能付きだから、パイロットは一人きりだ。誠たちに銃をつきつけられて手をあげるパイロットを縛りあげ、食料庫に監禁した。
「悪いね。所内の通信機器は十分後に全滅する。生きのびたけりゃ、あんたが必死で修理するんだね。船の食料はもらっていく」
誠は言ったが、修士はもっと冷徹だ。
「殺してしまったほうがいいんじゃないか? どうせ秘密兵器使って、大量虐殺しようってんだろ? 一人や二人、見逃すのも殺すのも同じだよ。それより、おれたちの脱走の発覚するのが少しでも遅れたほうがいい」
青ざめるパイロットに、修士は手製の熱戦銃をつきつける。
誠は自分がいくじなしとは思わない。何事にも慎重に熟考を重ねるほうだが、同時に冒険心も持ちあわせている。だからこそ退屈な人生をふきとばすため、こんなムチャな計画を立てたわけだ。
しかし、このときはパイロットを殺すことに
自分は革命を起こしたいと思うが、それによって人を殺したいと考えているわけではない。それは開発中の秘密兵器を奪い、用いれば、多くの人間を殺すことになる。だからと言って、さけられる殺人はさけてもいいんじゃないだろうか。
どうせ、このパイロットを殺したって、輸送船が帰ってこなければ、遅かれ早かれさわぎになる。そのとき、監獄星のコンタクトが切られていれば、囚人の脱走はイヤでも感づかれる。
「いや、よそう」と誠が答えると、修士は嘲るように言った。
「びびってんのか? 誠」
「そうじゃない。殺すことにメリットがない」
「メリットはあるさ。殺してしまえば、度胸がつく」
ぐッと言葉につまる。
たしかに、そうだ。
一度でも殺人を犯せば、あともどりはできない。御子の世界を転覆しようというのだ。これから多くの障害に行きあたるだろう。そのとき後退の選択肢がなければ、どんな思いきった手も打てる。
「わかった。やろう」
「誰がやる?」
「全員で同時に撃とう。誰が致命傷を負わせたかわからないように。つまり、全員、同罪だ」
修士はむろん、トムとコリンも即座にうなずいた。けれど、ノーラとベスはためらった。やはり、そこは女だ。殺人には抵抗があるようだ。
「……わたしたちもやるの?」
誠が答える前に、修士が口をひらいた。
「もちろんだ。誠が言ったこと聞いたろ? 全員が同罪ってことが重要なんだよ。ここで女だからって、あんたらを区別しちまうと、もしもってとき裏切られるかもしれない」
「わたし、裏切らない。マコのこと愛してるもの」
ノーラは清純な見ためのわりに、じつは気が強い。ベスはいるかいないかわからないような女だから、じっと黙っていた。
誠は自分の恋人を説得した。
「わかるだろ? ノーラ。儀式だよ。儀式として必要なんだ。門出の誓いみたいなもんだよ」
「……わかった。マコがそう言うなら」
それで全員、同時に引き金をひいた。引き金というより発射スイッチだが、そこはトリガーと言うほうがカッコイイ。
パイロットはなんの罪もなく殺された。
誠たちは殺人者になった。
「気にするな。どうせ、こいつもクローンだ。すぐに再生センターで記憶複写されて再生されるよ」と、修士はドライに言い放った。
ウエットなのはベスだ。両手で口を押さえて泣いている。
トムとコリンは毎日、射撃の練習をしているので、人間を的にしたことで、かえって興奮していた。
誠はほんとのとこ、吐き気がした。しかし、修士に冷やかされないよう平静を装った。
「儀式完了だ。さあ、旅立とう。おれたちの船出だ」
声がふるえていなかったかドキドキものだ。でも、仲間たちは誠の内心の動揺には気づかなかったようだ。
修士が応える。
「行こう。地球へ。おれたちを追放した御子に復讐だ」
そう言って手をさしだした。その手に全員が自分の手を重ねる。
「でも、地球じゃないでしょ」と、ノーラが肩をすくめた。
「地球の衛星軌道上のコロニーのどれかよ。どれだかわかるの?」
「もちろん。火星のネットワークに侵入して調べたよ。月や地球よりセキュリティが甘いんだ。で、半年ほど前に、それまで放置されてた旧医療センターで、急に人の出入りが始まってるんだ。秘密兵器の開発がウワサされだしたころだ。どういう意味だかわからないんだけど、コードネームは、コロポックル」
「何、それ?」
西洋人たちには意味がわからないようだ。が、誠はどこかで聞いたことがあった。
「たしか、小人のことじゃなかったかな。日本の神話かなんかに出てくるんだよ、たしか。おれはそういうの詳しくないけど」
「マコが知らないんだったら、おれらじゃお手上げだ。まあ、行ってみればわかるさ。案外、小人が出迎えてくれるかもよ」
笑いながら輸送船に乗りこんだ。
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