何かがおかしい俺のラブコメルート

紫煙

プロローグ

―俺、神田 律はどこで間違えてしまったのだろうか。

 麗しの我が家。これは最高。

 放任主義というか、サバンナのような育て方というべきなのか。

 俺は高校生にして実家で一人暮らしをしていた。

 というのも両親がまぁ道楽人というべきなのか我が道を突き進むタイプといえばいいのか。

『お前も高校生か。じゃあ父さん海外出向だから』

『あ、ママもついていって世界を回ってみたかったのよ』

 そんな言葉で俺の中学最後の卒業式は締めくくられたのを今でも忘れない。

 間違いない。放任主義だった。

 まぁ、そんな風に親を称するものの嫌悪感はない。

 今まで仕事人間だった父が俺が生まれてから家庭にずっといていい父親だったことも、世界を旅することが生きがいみたいな母が俺を下手に連れてくわけでもなく普通に15年間暮らしたことこそ奇跡だろう。


 それに、俺としても好きな風に立ち回って青春を謳歌できる。


 そうなるはずだった。


 コトコトと鍋で煮ていた具材にカレールーを入れる。

 下手にスパイスなんかを選ぶよりも間違いのない既製品の味を選ぶあたり冒険心が足りないのかもしれない。


「ちょっと!辛口とかマジありえないからね!甘口にしてよ!」


―変な声が聞こえるがきっと気のせい。

 溶けていくルーを眺めながら炊飯器に目を向ける。


 セットしようと見たはずなのにそいつは湯気を出し自己主張激しく米の炊ける匂いを醸し出しているのだが、俺はついにボケてしまったのだろうか。


―まぁそんなわけではないんだが

 勢いよく開け放たれたリビングのドアから飛び込んでくるのはデカい箱を持った金髪外国人。

「リツ!ケントゥキー買ってキタヨー!!」

 ダンディなおじさんのロゴの入った箱を掲げ抱き着いてくるが、ここは日本なんだよ、コミュニケーションお化けめ。

「ねぇ、甘口がいい!」

 隣の幻聴も徐々に大きくなってくるのがわかる。

 

「カレーの文句は認めねぇよ!あと俺クリスピーな!」

「はぁ!ねぇひどくない!」

「ヘイ!リツ、チキンは骨付きだからいいんだよ。you are fool」

 こいつさらっと英語でディスってきやがった。


「ねぇリツ!もえとかちかも来るんだよ?あーまーくちー!!」


「いや勝手に呼ぶなって!」


―間違いなくおかしい。

 隣でまさに今時ギャルという形の甘口要求マンや、骨付き至高外国人ギャル。

 違うんだよ。

 俺が求めてたのはこんな生活じゃない。

 俺は、

 

「俺は清楚な子がいいんだぁ!!!!!!」


「あ、もえたち着いたって。」


「......手ぶらだったらコロす。」


 軽くあしらわれた俺の最大限の皮肉に”OK”と返し玄関にかけていくその後ろ姿に思わずため息がこぼれる。

 

 チキン片手に隣でそわそわと鍋の中を伺ってくるのに、仕方なくはちみつを入れればにこやかに笑われてします。


―本当にどうしてこうなってしまったんだ。

 俺はただ清楚なことお付き合いがしたかっただけなのに。


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