悪魔になりきれない悪魔

@hamanobe

プロローグ

 俺が悪魔として地上へ降り立ったのは、3日前の出来事だ。神様の遣いだというだけで、自分には何でもできると思ったそのエゴが原因だった。神様は激怒され、地上へと堕とされてしまったのだ。

 途方に暮れていたそのとき、古き友人のアルファと出会った。彼は20年も前に、地上に堕とされていた先輩である。少し顔つきが変わったか。

「久しぶりだな、ゼニファ。お前もこっちにきちまったのか。」

アルファは俺を見つけるなり、ニタニタとした笑みを浮かべてこちらへやってきた。

「アルファ、ここでお前と出会えるとはツイてるもんだ。そうだ、悪魔として生き残るためには人間の魂を喰らう必要があると聞いたのだが、それは本当か?」

「ゼニファ、それは本当さ。しかし、魂を丸々売り渡す人間てのには滅多に巡り合えるもんじゃねえ。彼らの時間を奪えば十分さ。時間からネガティブエネルギーを吸い取れば、とりあえずは生きていけるぜ。」

「なるほど、それなら俺でも簡単にできそうだ。」

「ああ、友人のよしみでもうひとつ良いことを教えてやるよ。ここから西の方へ向かうと大きな病院がある。そこには、人生のおわりを間近にした人間どもからネガティブエネルギーがたんまりもらえるらしいんだ。お前みたいな初心者にはぴったりだぜ。」

アルファはククッと悪魔らしい笑い声をあげた。

「アルファ、やはりお前と出会えて幸運だったよ。恩に着るぞ。じゃあ、またどこかで。」

「悪魔になりたてのやつは生温いから、多くが消滅しちまう。ゼニファ、お前はせいぜい長生きしろよ。」

アルファはそう言って、私が西の方へと飛び立つのを確認するとすぐにどこかへ消え去った。


 アルファと別れて、西の方へ飛んでいくと大きな病院があった。アルファのやつが言っていたのは、この病院のことか。ゼニファは、病院の横にそびえ立つ大きな木に降り立った。木がゼニファを嫌がるように、わさわさ揺れた。

「まあ、待てよ相棒。これから仲良くしようぜ。」

年季の入った古い建物に、たくさんの人間が入院しているのがみえた。なるほど、ここには人間の絶望や欲望が渦巻いていた。悲壮なエネルギーに包まれている。

「いやあ、助かったぜ。これなら悪魔になりたての俺にもできそうだ。」

そこで、アルファのあの言葉を思い出す。悪魔になりたてのやつが生温いだって? 俺は、何としてでも生き残ってやるよ。俺が一番恐れるのは、消滅。それを避けるためなら手段は選ばない。

「何でもやってやるよ。待ってろ、人間ども。」

木がまた、大きく揺れた。まるで、ゼニファを振り落とそうとしているように。

「ねえ、あの木風もないのに揺れてるよ。ねえねえ。」

小さな坊主が母親に話しかけている。俺のことは見えていないようだ。

「そんなことは良いから、早く中へ戻りましょう。」

母親はこちらを見ることもせず、坊主をなかへ連れて行った。この木に登りたがっていたぞ、あいつ。


 よし、決めた。最初のターゲットは、あの坊主だ。クククッと笑い声が漏れていた。これから楽しくなりそうだ。

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