人類の存続は俺の※※※にかかっている!

館主(かんしゅ)ひろぷぅ

第1話 憧れのあの人を待ちわびて

「はーっ。

 やっとここまでたどり着いたぜ」


 新世界連合軍第11師団極東方面軍日本自治区石沢駐屯地 カッター隊宿舎。


 肉体疲労で出た言葉ではない。

 「タイガーネスト」と呼ばれる訓練所から輸送車に揺られてきた。

 久しぶりの車中移動なので肩がこったけど。


 軍への強制入隊から半年の鬼軍曹のしごきに堪えてやっと赴任地まで来れた。

 

 平凡で地味な中学生だった俺には大変な一年だった。

 この安堵の溜め息はその集大成。


「それでは何かあれば内線でお知らせください、

 田丸 聖人(せいと)分隊長」

「あ、はい。

 その佐藤兵長…」

「何でしょうか」

「兵長が軍の先輩なんですから敬語はやめてください」


 佐藤兵長は成人男性で俺は16歳。

 強制入隊が無ければただの平凡な高校生。


「いえ。

 カッター隊は下士官扱いです。

 それに貴方は北陸方面の守護者となられるお方ですから!」

「は、はあ」


 実戦経験の無い俺にそんなに期待されると心苦しい、息苦しい。

 しかしまだカッター隊員の配備は少ないのが現状。

 この広い宿舎で当分の間、入居するのはこの一部屋だけだ。


「では。

 掃除道具と花瓶をお借りしてもいいですか」

「掃除機はサニタリーに置いてます。

 花瓶はここの倉庫にあると思いますので探して参ります」


 佐藤兵長はここへ来る道中で買った花束を見て。


「くれぐれも間違いだけはおかさないでくださいよ」


 人生の先輩らしい嫌味な笑顔を向けた。

 うるせー。

 早く花瓶持ってこい。


 花瓶に花を生けると俺は広い部屋を丁寧に掃除し始める。

 俺のベッドの周りは適当に。

 同居人のベッドの周りは丹念に。


 この日を待ちわびた。

 いや、こんな日が来るなんて夢にまで思わなかった。


 憧れだったあの人と同居できる日が来るなんて!


 強制入隊なんてクソくらえと思った。

 身勝手な法律を作った大人達を呪ったり、首を括ろうかなんて思ったりした。

 しかしカッター隊の特権を知らされた時に俺は生まれ変わった。

 この時を夢見ていたから俺はどんなしごきにも耐えられた。


 訓練所「タイガーネスト」の目的は基礎体力の向上と、メンタルの強化。

 どんな状況下でもポジティブな思考が保てる精神力の育成。

 おかげで俺は人前で全裸になっても恥ずかしい、なんて思わなくなった。

 それが果たしてメンタルの強化になったのか甚だ疑問だが。

 一番辛いのは実戦を模したシュミレーション。

 最初のシュミレーションではぶっ倒れて指一本動かせなくなったぐらいだ。


 ピンポーン。


 佐藤兵長が来る予定は無い。

 ということは。

 同居人が来た。

 ついにあの人と久々のご対面だ!


 最初は何て声をかければいいだろう。

 バスの中でずっと考えていた。

 「こんにちは、久しぶりだね!」が妥当だろう。

 奇をてらう必要もキザになる必要も無い。

 あくまでさりげなく、さりげなく。


 あ、しまった。

 私服のワイシャツとジーンズだった。

 制服に着替えるべきだったか!?

 だがもう着替えている時間は無い。


 「はーい!」


 元気よく返事をして僕は重いドアを開ける。


 軍人としては最低だった。

 インターホンで誰何する事無く、モニターで確認もせず。

 不用心にドアを開けた。


「あ、あのあの、あにゅあにょっ!

 こん…こんこ、こんにちこんにちはっ。

 わたわたわた…あのわたし…」


 ドアの前には黒髪セミショートの少女が立っていた。

 カッター隊を示す臙脂色の制服。

 175cmの俺のアゴまでもない身長。

 小さな身体の横には大きな水色のキャリーバッグ。


 何度もお辞儀をしてついに半開きにしていたドアに頭をぶつけた。


「あいたたたた・・・

 ああ、すいませんすいませんっ!」


 えーっと。

 誰だ、コイツは!?




 2年前の20XX年、全世界の空から大量の黒いアイツが降ってきた。

 直径1メートルほどの赤血球の形に似た黒いソイツは。


 地表近くに下りると突然ウニのように変化し。

 長いトゲ出して生き物を攻撃してきた。


 暫く殺戮を実行した後、ソイツらは再び空に帰り。

 それからはゲームで楽しんでるかのように不定期に空から降ってきて。


 この2年で世界の人口は半分になった。


 ソイツらに銃火器は通用せず地球上のどんな武器も効果が無かった。

 ある独裁国家では一部の国民を犠牲に自国に核兵器を発射。

 焼野原にはソイツらだけが動きまわっていたという。


 しかし人類も為す術なく手をこまねいたワケではない。


 未確認生物兵器、UMAW(ウマー)に対抗する為に世界は一丸となり、一年で「新世界連合軍 NWUF」を設立。

 その間にも各国は UMAWを捕獲し、ある液体が対抗手段である事を突き止めた。


 その液体の成分というか構成物の生命力を抽出し、レーザーへと変換させる装置を開発した。

 そして日本のヤリタ重工が兵器化に成功。

 新兵器「ヤリタ・カッター砲」の誕生である。


 新世界連合軍発足と共に世界でカッター隊が組織された。



 ここで生物学的な話をしよう。

 人間の射※液の液量は平均3.5ミリリットルである。

 人によってはその倍近い量が出る場合もある。



 再び俺、田丸 セイトの話に戻る。

 俺のソレは大量だった。

 初めからそうだったし誰かと比べる機会なんてないからそれが普通だと思っていた。


 性欲もたぶん人並み。

 1日に2回以上なんてごくたまにあるぐらい。

 …普通だろ?普通だよな?


 平凡な中学男子なので付き合ってるコなんていなし不純異性交遊もあるわけない。

 犯罪を犯してまで欲を満たしたい衝動も無い。


 しかし友達からは一回でゴミ箱が埋まるほどの大量のティッシュが必要なんて話は聞かないし。

 部屋を派手に汚して母にウンザリされたり怒られたりなんて話は聞かない。

 もしかして俺って異常なのか!?と悩み始めたところに。


 軍から全世界の男性に一斉テストが開始された。

 13歳以上の男性に試験管が渡されて。

 ソレを入れて提出が義務付けられた。


 もちろん身体的理由で提出できない者は免除されたが、不正をした者や提出を拒否した者は軍が強制的に収容して提出させられた。

 人類の未曾有の危機に際して人権だのプライバシーだのは無視。


 素直に試験管を提出した僕はカッター隊員に選ばれ強制入隊させられたのが一年前。

 もちろん試験管に俺のソレは収まりきらずほとんどあふれ出した。

 みんなのはこんな小さな管に収まりきるのだろうか?


 それからは適性検査と訓練の日々。


 つまり。

 新兵器「ヤリタ・カッター砲」は男性の下半身に装着して使用するビーム兵器である。

 UMAWを世界で最初に消滅させた液体はソレ、である。


 世界初のカッター隊「TIN5(ティンファイブ)」はUMAWの殲滅と撃退に成功し、そのメンバーは救世主とあがめられた。

 中東の都市、デルワデルにあるNWUFの本部前には「ヤリタ・カッター砲」を装着した隊員の雄姿が10メートルの銅像になって飾られている。


 安心して欲しい。

 「ヤリタ・カッター砲」は卑猥な形をしていない。

 ちょうど北陸新幹線の先端をひっくり返したような流線型をしている。



 それでも懲りずにUMAWは空から降ってきて殺戮を繰り返す。


 主要都市からカッター隊員の配備が進められて、比較的被害の少ない北陸にやっと隊員が配備されたのが今日の俺。

 石沢県と両隣の県の守備が新米の俺の任務。


 比較的被害が少ないとはいえここも尊い命が多く失われ、2年前の人口の1/3以上が失われていた。

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