Day24

さあ、朝だよ。


身支度して定例作業(換気と水やりとぷすり)終えたら村に出発です。

今日は新しい鞄ちゃんだよ。

村に向かってたら、向こうからソード君歩いてきた。


「あれ?朝からどうしたの?」

「今日は勉強休みなんだ。それでお嬢に相談あってさ」

「なに?」

「岩山ダンジョンのことは父上に相談したんだけど、水晶ランタンで湧きが抑えられること話すと、実験されるよな。だと、洞窟奥のぷすり場のこと、話さなきゃいけなくないか?」


ぷぷぷ。トラップタワーの事、ぷすり場だって。


「あー、水晶ランタン点けとけば何とかなるけど、洞窟の事をいつまでも内緒にしておくのもなぁ…。いっそばらしちゃうか」

「いいのか?お嬢の秘密の実験、あるんだろ?」

「いや、秘密ってわけじゃないんだよ。薬草の栽培も、確認出来たら広めたいし」

「じゃあ、話していいか?」

「うん」


ソード君に村へ行く理由、話したら着いてくるって。

なんでも興味持つね、君。

鍛冶屋さんに着いたので二人して入ったら、鍛冶屋さんが固まった。


「あれ?鍛冶屋さん、どうしたの?」

「………す、すまねえ。実は、嬢ちゃんの鍛冶、真似して剣作っちまった。自分で秘密にしとけって言ったのに、我慢できなくなった」

「え?別にいいよ。鍛冶屋スタンピードがやなだけだから、鍛冶屋さんは好きにしていいよ」

「は?何言ってんだ?あんなすごい技術を使っていいのか?」

「?いいに決まってるじゃん」

「………」

「あー、鍛冶屋の大将。お嬢は自分が発案者だって騒がれるのが嫌なだけで、技術自体は誰が使っても気にしないぞ。良い武器作ってくれたら、みんなの安全が上がるって喜ぶくらいだ」


鍛冶屋さんと私の話が噛み合ってないと見て取ったのか、ソード君が説明してくれた。

さすがソード君、その通りだよ。

こくこく


「本気で言ってんのかよ。鍛冶の技術は秘伝が当たり前だぞ」

「だって私、薬師だもん。鍛冶で商売しないよ」

「だそうだ。お嬢相手なら、それで納得してやってくれ」

「じゃあ、俺は、嬢ちゃんの技術だって言わなきゃ使い放題、教え放題じゃねえか」

「「そうだ」よ」

「………わかった」


しばらくあきれ顔だった鍛冶屋さん。

やっと納得してくれたよ。

試作した剣を見せてもらったら、ソード君が飛びついた。


「俺に売ってくれ!」

「だめだ、こりゃ失敗作だ。銑鉄入れすぎたから多分折れる」

「そんなぁ…」


ソード君、泣きそうになってるよ。


「たとえ失敗作じゃなくても、その剣は長すぎだよ」

「ああ、身体に合ってねえ。これは大人用だ。下手に使うと身体壊すぞ」

「そもそも、どんな戦い方をするかで、形や長さ、重心を選ばなきゃ」

「でも、うまいやつはどんな剣でも使えるんじゃないのか?」

「「違うって」」


あ、鍛冶屋さんとハモっちゃった。


「剣の種類にこだわりの無え奴なんてのは、どの剣もそれなりにしか使えませんって白状してるようなもんだぜ」

「そうよ、自分の振り方と身体のサイズに合った剣が一番よ」

「そ、そうなのか。じゃあ俺にはどんな剣が合うんだ?」

「だから、どんな戦い方がしてえんだよ?」

「えーっと、できればお嬢みたいに切る一瞬だけに力使って、長く戦えるやつ」

「なら嬢ちゃんの方が詳しいな。教えてやれ」

「わかった。まず、峰側も刃にして切りたい?」

「いや、峰は流しに使いたい」

「で、押し切る感じ?引いて切る感じ?」

「体格的に引いた方がいい気がする」

「体重載せる?速さで切る?」

「体重載せようとすると、俺、軽いから突っ込むことになって、かわされた後が大変だ。速さ勝負で」

「わかってるじゃない。それだと、片刃で刃に弧があって、剣の重心はやや前。出来れば刃幅も押さえたいけど、受けのために減らせないね。重さも足りないから肉厚上げて。突きは?」

「多用はしないけど使いたい」

「じゃあ、こんなのかな」

鍛冶屋さんが出してくれた紙に、剣の絵を書き書き。

あ、これ、ちょっと短くて太めのファルシオンソードだ。

速さで振った時、重心が前に行きすぎないように刃幅はほぼ一定で、直剣に近いけど、刃幅があるから物打ちは弧を描けるね。

切っ先はボウイナイフみたいに峰側も削れば突きも使えるし。

受けを考えたら柄も両手持ち出来るくらいにして。


「ほう、珍しい形だが、なかなかいい剣じゃねえか。お前さんに合ってると思うぞ」

「大将、これ、作ってくれ!」

「阿呆、発案者に先に聞け」

「お、お嬢…」


あ、鍛冶屋さんにそっけなくされて困ってるね。

多分、私が忙しいの知ってるから、頼みにくいんだね。


「作るのはいいんだけど、焼き入れが難しいね。小屋の暖炉、焼き入れすると壊れるんだよ」

「そんなぁ…」


あーあ、欲しくて仕方ないんだね。

焼き入れどうしようかなぁ…。


「うちの炉使え、作業場もいいぞ。ただし!…俺にも見せてくれ」

「わー、ありがとう。炉って燃料は?」

「石炭だ」

「おお、薪なんかよりずっといいね。魔法や核の粉で誤魔化さなくても高温で焼き入れできるよ」

「おう、だから見るのは頼むぞ」

「うん、わかった。あれ?私、剣の話しに来たんじゃないんだけど?」

「あ?じゃあなんだ?」

「黄銅が欲しいんだよ。だめなら青銅でもいい」

「残念だが、畑違いだ。うちも街の鍛冶屋に出してる」

「まずい、バルブが出来ないよー。現場でサイズ合わせて作るから、注文じゃ出せないよ」


思わず頭を抱えてしまった。

お、お風呂とトイレが…。


「ダメ元でいいなら情報あるぞ」

「え?ほんと?」

「いや、ダメ元だ。空振りの可能性が高え」

「一応、教えてくれる?」

「鉱山な、クズ石捨ててるんだが、抽出できるんならクズ石から少しは手に入るかもな」

「おお、行ってみるよ」

「一応は立ち入り禁止だから、うまく頼めよ。顔見知りなら融通利かしてくれんだろ」

「わかったー、今から行ってみる」

「お、おい、剣はどうすんだ?」

「また今度ー」

「ちょ、まっ…」


鍛冶屋さんを飛び出してきちゃったけど、ソード君が出てこない。

早く―、行くよー、行っちゃうよー。

あ、やっと出てきた。


ソード君と連れ立って、やって来ました東の鉱山。

でも、入口の警備員さん、入れてくれません。

ソード君も身分を明かして参戦してくれたけど、危ないから子供は入っちゃダメだって。

貴族様に怪我されたら困るって。

ちょっともめてたら、ハチマキのおっちゃん出てきた。

あ、知ってるおっちゃんだ。何度かポーション買いに来たことあるよね。


「何もめてんだ?」

「あ、主任、この子たちがクズ山調べたいから入りたいって」

「…薬師のお嬢ちゃんか。入っていいぞ」

「え?主任!」

「大丈夫だ、俺が面倒みる。この嬢ちゃんには事故の時、ポーション作ってもらった借りがあるんだ」

「あのポーションをこの子が?」

「ああ、みんな感謝してるんだ。少しくらい恩を返えさせろ」

「はあ、そういうことなら…」


おっちゃん、主任さんだったんだ。

主任さんの後についてクズ山に到着です。


「で、何を調べたいんだ」

「銅が欲しくて探しに来たの」

「あー、銅は少ないが抽出しちまってるぞ」


なんと、ちゃんと採ってるんだ。残念。

しょんぼり足元見たら、石の隙間から緑色が…。


「あ、これ!」


ソード君が、私が指し示した緑色の石を抜き出してくれました。


「ああ、残念だがそれは銅じゃない。銅はもう少し青いんだ」

「うん、でもこれはこれで――抽出、クロム!」


おお、当たってた。白銀色したクロムが、じわーって出てくきたよ。目的の銅じゃないけど、鉄と混ぜればステンレス出来るよ。


「む?くろむってなんだ?」


ソード君に緑石探してもらいつつ、主任さんとお話しです。


「これって、鉄と混ぜると錆びなくなるらしいの。黄銅さがしてたけど、これでも代用できるから」

「鉄を錆びなくできるだって!?どこでそんな話を?」


あ、しまった。どうしよう。


「ああ、主任殿。出どころは王都の研究所だ。私も共同研究員だ。だが、まだ配合率などを研究中でね。出来れば黙っていて欲しい。無論、この石を集めておくのは自由だが、いつ発表できるかは分からんぞ」


あ、貴族モードで喋れたんだね、ソード君。

ナイスフォローだよ。


「お、お貴族様でしたか。失礼しました。無論内密にいたします」

「すまない。あと、話し方も元通りで頼む。一応お忍びなんだ」

「わかりましたが、普通にしていいんで?」

「ああ、頼むよ」


あーあ、やっちゃったよ。

この場は何とかなったけど、ソード君には言い訳できそうにないね。

記憶の事、後で話すか。

ちょっと気まずい沈黙の中、クロムを5kgほど手に入れて、村に帰りました。

帰り道、沈黙が重い!あ、謝らなちゃ。


「あ、あの、ごめんね。失敗しちゃって」

「ああ、あれくらいはフォロー出来るけど、内容はさすがに父上と相談しないとまずいな。お嬢がここにいられなくなるのを避けるとなると、父上を仲間にした方がいい。話ちゃだめか?」


この期に及んで、まだ私の意見を優先してくれるんだ。

ソード君には借りが山積みになっちゃうよ。


「うん、ちゃんと話すよ。ソード君、本当にありがとう」

「あ?お礼を言われることじゃないぞ。お嬢の研究結果を、俺とダチの成果として発表するだけだろ。父上には情報が漏れないように手伝ってもらうだけだ」


うわ、ソード君、ステンレスのことも私が研究したことだと思ってるよ。

こっちは一大決心したのに…。

いいや、これだけ協力してくれるソード君に、これ以上黙ってるのは不誠実に過ぎる。

ちゃんと話そう。


「もうちょっと秘密があるの。全部話すから」

「まだあったか。ま、予想はしてた。お嬢だしな」


ちょっ!何それ!簡単にスルーされたよ。

ソード君の中で私の扱いがひどい!


二人して代官屋敷に到着しました。

ソード君が面会依頼出したら、即座に許可が出ました。

騎士様の執務室に入る前に、一応私の剣をソード君に渡しました。

騎士様は人払いしてくれて、3人だけで相談が始まりました。


「父上、少し厄介な事が起きたんだ。相談に乗ってくれ」

「いいぞ、話なさい」

「お嬢が秘密で実験してた金属の配合、うっかり鉱山の主任に話しちまった。その場は俺が王都の研究所の共同研究員で、研究中の話だから他言しないようには言ったが、どうすればいい?」

「その金属というのは?」

「錆びない鉄」

「なっ!そんなものがあるのか!?」

「正確にはまだ出来てない。だが、材料はそろったから直ぐに出来ると思う」

「待て、出来ていないものの材料を知っている?」

「いや、お嬢だから…」

「さすがにそれで済ませるのはどうかと思うぞ」


騎士様の視線がこちらを向く。


「発言、よろしいでしょうか?」

「ああ、かた苦しい話し方は不要だ。いつもの言葉で頼む」

「…では――私は、違う世界の記憶を夢に見ます。今回の事も夢の知識です」

「へー、道理で物知りだと思った」


ソード君、軽いよ!騎士様は固まってるよ!ちょっとはショック受けてよ。


「……夢渡りの賢者。まさか自分が会うことになるとはな」

「なんだその、なんとか賢者って?」


夢渡りだよ!私もしらないけど。


「夢渡りの賢者だ。200年ほど前にも存在した記録がある。その者も違う世界のことを夢で見たそうだ。その者は麦の実りを倍増させ、砂糖を作り出し、綿花栽培、香辛料栽培を可能にした。そして、たくさんの美味しい食べ物を我が国にもたらした」

「へー、お嬢以外にもそんな人いたんだ」


軽い!軽いよ!すでに私賢者扱いだし。


「その、私がその人と同じだと?」

「ああ、この話は叙爵される全員に話される。一応当主だけに知らされる機密事項だ」

「え?俺ら聞いちまったぞ」

「ああ、当事者には話すことが許されている。というか、きちんと全て説明する義務があるんだ。だから私の話を聞いて欲しい」

「…お願いします」

「まず、お嬢さんの自由意思は、犯罪性が無い限り王国によって保障される。そしてこの話を聞いた者は、王家以外には情報を秘匿し、可能な限り賢者殿の意思を優先する義務がある」

「いえ、私が賢者と決まったわけではありません。しかも、義務を負ってもらうのも嫌です」

「ニホンの首都は?」

「?東京です」

「主食は?」

「米です」

「一番高い山は?」

「富士山」

「賢者確定だよ」

「でも、たったそれだけじゃ、答えを覚えるだけでも回答出来ちゃう」

「本来は夢の内容が実際出来るかどうか確かめるのだが、算術の計算方法、掛け算の暗記、切り裂くための剣、理論的な剣術、水晶ランタンの構造、ガラス窓、レンガ、もう十分だ」

「私、そんなにやらかしてた…」

「ああ、まるで賢者のようだとは思っていたが、まさか本当に賢者だったとはね。驚いたよ。ところで、先ほどの義務の話だが、どうしてほしいかね」

「出来れば、ご協力は自由意思でお願いします」

「承知した。それで、お嬢さんは今後、どうしたいのかね」

「私は、このまま薬師としてこの辺境にいたい。出せる知識は出します。でも、発案者や発見者にはなりたくないです。勝手だけど、誰かの陰に隠れたいです」

「それも承知した。知識を得たい時はどうすればいいかね」

「いっぱい来られても困りますけど、常識的な範囲で聞いてもらえば答えます。でも、私の知識は、物を作ったり構造を考えることに偏ってるみたいで、ちゃんと答えられないことも多いです」

「ああ、以前の賢者も農業知識に偏っていたらしいからね」

「それで、我が息子はどうすればいいかね」

「これまで通りでお願いします」

「おう、結局今まで通りでいいんだろう。ならまかせとけ」

「うん」

「さて、ある程度話はまとまったと思うが、他に何か?」

「お嬢、湧きの話」

「ああ、そうだった。ダンジョンのスライム、水晶ランタンで湧かなくはできるけど、スタンピードになるかもしれないです」

「……どうしてそう思うんだね?」

「前回のスタンピード、ダンジョンを封鎖したためにスライムがダンジョン内でいっぱいになって、それ以上生まれなくなって起こった可能性を考えてます」

「ふむ、いっぱいになるのも発生しなくするのも、生まれないのは同じということか。これは慎重に確認する必要があるね」

「はい、検証には私も呼んでほしいです。あと、スライムの湧く場所をこちらで決めて、罠で討伐することもできます」

「…もしそんなことが出来れば、兵士の安全性が確保できるね」

「はい、そうしたいと思ってます。それと、ポーションの材料の薬草は、ダンジョンがあるから育ってるみたいです。だから、薬草が生えてる場所の下にはダンジョンあるかもです」

「なんと、そんなことまで調べているのか?」

「私、薬師なので、薬草を栽培しようとしてて気付きました」

「薬草の栽培!またすごい話が出てきたね。どの程度確証がある話なのかね」

「詳しくは現場を見てもらった方が早いと思います。説明するので騎士様の時間のある時に同行して下さい」

「辺境でスライムの被害は多い。王都ではポーション不足で値段が上がりすぎている。その解消のヒントがあるなら最優先すべき事柄だ。明日でもよければ是非行きたい」

「はい、お願いします」

「しかし、息子じゃないが、びっくり箱のようなお嬢さんだ。今日は何年分かの驚きを一度に味わったよ」


おい、ソード君、いったいどんな話をしたのかな?

あ、顔逸らした!


その後、もっと話を聞きたいと言う騎士様の勧めで、お泊りすることになりました。

夕食のマナーやカトラリーの使い方を褒められ、ソード君用に作った水晶ランタンやミニペンライトを褒められ、ソード君に誘われた剣の練習で褒められ、ソード君強化計画の内容で褒められ、ちょっと褒められ疲れしました。


騎士様がお酒が入ったことで、気やすくなり、敬語禁止を言い渡された。

娘も欲しかったのに男三人兄弟だったからって、養女になってくれって言われたけど、窮屈そうなのでお断りしました。

なぜかソード君がほっとしてた。

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