Day12
外に出ると朝になってました。
結構トラップタワーに時間掛かったみたいです。
近場で、雑草や花を土ごと取ってプランターに入れていきます。
小部屋に水晶ランタンと一緒に置いて、しばらくは観察です。
小屋に戻って朝食を済ませ、まったりお茶飲んでたらお客さんが来ました。
ん?知らない声だな。
扉を開けると、以前に見かけた少年と、騎士様と一緒にいた青年が立ってました。
青年は騎士様の従者さんだそうです。
従者さんの話を聞いたら、騎士様がポーションの件で話があるそうです。
少年は騎士様の三男で、言葉を濁してましたが、勝手に着いてきちゃったみたい。
予定を聞かれたので、今日は村に行く予定だと答えたら、一緒に行くことになりました。
ささっと用意して、小ぶりのバッグと剣だけぶらさげて出発です。
村に行ったら、石筆買って、青銅探して、鞄探して、あと隊長さんに崖の地下使用の許可貰わなきゃ。
途中、三男君が話しかけて来ました。10才くらいかな?
「なあ、スライムって、どうやったら剣で倒せるんだ?」
貴族のはずなんだけど、平民みたいなしゃべり方です。
「剣だと結構難しいよ。切りたいの?刺したいの?」
「え?切るのも刺すのもしたい」
「それだと剣が二本要るね。一本は切り裂くための剣で切れ味とある程度の耐久力がほしい。刺すのなら槍先が長くなったような短めの直剣かな」
「別々に要るのか?ブロードソードじゃだめなのか?」
「結構きつくなるよ。スライムって意外に弾力あるから、切るなら弧を書いたような剣でないとちゃんと切れないし、刺すなら刃幅が狭くないと核にとどかない。しかも、スライムわりと重いから、一発で核に刺さらないと剣が曲がるし」
「…お前の剣は?」
「これ?切るのも刺すのもやろうとして、どっちつかずになった失敗作だよ。見る?」
剣を鞘ごと外して渡してみた。
「…抜いていいのか?」
「どうぞどうぞ」
私の剣を抜き、しばらく眺めた後、少し離れてブンブン振り回してる。
「…かなりいい剣に思える。少し軽いけど」
「それでスライム両断したら、曲がったんだよ。スライムって多分10kgくらいあるし、面の皮厚いんだよ。10kgくらいの皮袋に詰まった泥団子だと思うといいよ」
「あー、確かに空中で10kg切るとしたら結構ずっしり来そうだな。剣先に10kの重り付けたら、きゃしゃな剣は曲がるな」
「だよねー、しかも振り方も変えないとだめだよ?」
「え?俺の振り方おかしいか?」
「そうじゃなくて、空中のものを切るのに適してないってこと。えっとねえ…」
周りを見たら、少し遠くに低木が生えてたので、剣を返してもらって30cmくらいに切ってきた。太さは10cmくらいか。
「この木投げるから、空中で自分の剣で切ってみて」
「お、おう。…いいぞ」
ガキーン
木は切断されずに吹っ飛んでいった。
従者さんが走って取りに行ってくれてる。
全然しゃべんないのに、しっかり働くな。
さすが従者。
取って来てくれた木を礼を言って受け取り、空中に投げる。
「見てて」
ヒュカ!
今度は吹き飛んだりせず、ちゃんと両断された。
「すごいな。俺より全然力入ってないのに切れた」
「素振りしてみるから、音、聞いて」
ヒュッ、ヒュッ
「自分の素振りの音と比べてみて」
黙って素振りする三男君。
ブオン、ブオン
「くっ、全く音が違う!何だこれ!?」
思いっきり力を入れて振ってるが、音が伸びるだけだ。
「力入れちゃダメなんだよ。剣、借りてもいい?」
「ああ、使ってくれ」
渡された剣を、ゆっくりと振ってみる。
あー、ちょっと長いけど、重心先だな。これならいけるよね。
「今度は音に注意してて」
切断された木の片方をを投げ上げ、一閃。
ビュガ!
残念、両断せずに半分ちょっとの所で止まっちゃった。
剣が木に挟まってる。
「音の違い、分かった?」
「ああ、あんたのは音が高くて短い」
「そうなんだよ。当たる直前に切っ先が急激に加速すると、高く短い音になるんだよ。私の剣の方が短いのに、音が高かったでしょ」
「ああ、確かにそうだった」
「剣って、当たる時に高速なら、途中はゆっくりの方が疲れないよ」
「今まで、音の事を教えられたことは無かった。嬢ちゃんが初めてだ」
およ?さっきから呼び名が変わってるね。
おまえ→あんた→嬢ちゃん
どったの?
「まあ、私のは我流だから正解とは限らないけど、結果は出せたよね」
「ああ、感心した。どうやったら出来るか聞いていいか?」
「うん。剣ってね、振ってる途中で腕だけ止めて手首はうごかしたままにすると加速するんだよ。えっとね。こんな感じ」
自分の剣を鋭角に持って振り上げて振り下ろす。腕が伸び切ったところで腕を止め、手首だけ動かして剣と腕がまっすぐになるように振る。
ヒュ
一瞬だけ、微かに風切り音がする。
「すげえ!腕だけで振ったのに音が出た」
「まあ、気に入ったら練習してみて。ただし、軽い木剣からね。
実剣でいきなりやったら、関節壊すから」
「おお!教えてくれてありがとう!練習してみる!」
「どういたしまして」
おかしな講義をしながらも、村に着いた。
従者さんが騎士様の予定を確認してくるので詰め所で待っていてほしと言い残して駆け出した。
三男君と二人で、詰め所へ向かって歩く。
三男君、エア木剣で素振りしながら歩いてる。
そんなに気に入ったんだ。
詰め所に着いたら隊長さんがいた。
昨日のポーションのお礼言われたけど、あれはお兄ちゃんが頑張ったんだからね。
人の手柄を横取りしたくないから、ちゃんと主張しと来ました。
それでも褒められるので、便乗して地下使用の件を頼んでみることにしました。
「ああ、地下室は家建てる前に掘って補強するから、小屋の下は無理か。あそこの土地なあ…」
あ、従者さんが戻ってきた。
「代官様はこれからすぐで構わないとのことでした」
話が途中になっちゃったけど、代官様を待たせられないね。
隊長さんも確認事項が有るからって、一緒にお屋敷に向かいます。
従者さんに案内されて執務室前に到着です。
あれ?いつのまにか三男君がいなくなってるね。
代官様の返事で青年に先導されて中に入ります。
「よく来てくれた。呼び立ててすまなかった」
「いえ、本日は元々村に来る予定でございました。代官様こそ、早速のご面会、ありがとうございます」
「本来こちらから出向くべきなのだが、事故処理で立て込んでいてね」
「とんでもございません。代官様にあのような場所に来ていただく訳にはまいりません。今後も、お呼びつけくださいませ」
「…わかった。何かあれば、そこの従者を走らせよう」
従者さん、お手数かけます。
「ありがとうございます」
「では、本題だ。前回の事といい、今回の事故といい、多大な協力を強いてしまった。謝罪するとともに、改めて感謝する」
「もったいないお言葉です。しかし、薬師として当然のことをしたまでにございます。すでにダンジョン討伐の折にお心遣いをいただき、本懐遂げさせていただきました。これ以上のお心遣いは、何卒ご勘弁くださいませ」
「そうか…。本懐見事!今後は自身の為に励まれよ」
お、一瞬、騎士様っぽくなったね。
元々騎士様だけど。
「はい、お言葉の通りに」
会話の区切りを見つけて、隊長さんが話し始めた。
「代官様、彼女の小屋周辺の土地について、ご相談が」
「ああ、その件もあったな」
ん?なんで代官様が小屋の土地の事、知ってんの?
話を聞いてたら、前悪代官、村の外の土地は本来なら使用許可出すだけのはずなのに、代金取ってたんだって!それもかなり高額な!
今回の協力の謝礼も含め、小屋周辺は好きにしていいそうです。
やった!許可出た。
しかも地上部分も使用可能だよ。
範囲については、牧場並みに広く使いたいなら相談してくれって。
わーい、来た甲斐があったよ。
更に、緊急対応してもらったからって、ポーション代金、かなり割増しで貰ったよ。
よし、お兄ちゃんに薬草代、割増しで払おう。
ていねいにお礼を言って辞し、隊長さんたちとも別れて屋敷を出ました。
三男君が物陰から出てきます。
およ?三男君、どこ行ってたの?
「師匠、すげえな。俺、あんな話し方出来ないぞ」
ん?盗み聞きしてたの?てか、師匠って何さ!私の呼称、変わりすぎじゃない。
断固抗議して、話し合いの結果、なぜか『お嬢』で決着しました。
三男君は、嫌がらせで『ご子息様』って呼んだらめっちゃ嫌がった。
名前呼び捨てを要求されたけど、他の貴族の前でうっかり呼んだら首ちょんぱだよ!君が良くても周りがダメなんだよ。当然断った。
同じ理由で愛称もね。
検討の結果、異国の剣を表す言葉だって言ったら気に入って、『ソード』を代名詞に使う事になりました。
なぜか、お互い嫌な呼び名を鳥肌立てながらけなし合ってたら、意気投合してしまった。
ソード君、親に連れられて村に来たけど、やる事無くて暇なんだって。
村を案内がてら、一緒に買い物して廻り、門で別れました。
ぽてぽてと歩く帰り道。
お兄ちゃんと副長さんに会ったので、薬草代渡そうとしたら断られた。
就業時間中に職務でやったことにお金を貰うと、賄賂になるからダメなんだって。
堅いなー、信頼はできるけど。
小屋に辿り着き、荷物を置いたら洞窟へ。
スライム溜まってるかなー。
途中でプランターを確認。
半日じゃ変化ないよね。水だけやっときました。
さて、トラップタワーは…。
おー!7匹溜まってるよ。下の奴なんて、つぶれて身動き取れないんでやんの。
ケケケ。
ぶす、ぶす、ぶす…。
ははは、核がぽろぽろ落ちてくるね。
すぐ横に核の入れ物作っとこう。
さて、スライム退治終わったし、磁鉄鉱掘って横道つくるかな。
うにゅー、やっぱ硬いわー。
地道に掘り進んでるけど、ゆっくりだー。
足元には、磁鉄鉱がごろごろ。
邪魔だなー。
鉄、抽出して圧縮しておくかな。
鉄がタダで手に入るのは嬉しいけど、抽出されるのって純鉄っぽいんだよね。
色がくすんでないし、柔らかいし、焼き入れしても反り悪かったし。
魔法の原理わかんないけど、『鉄抽出』だもんね。
あ?ひょっとして…。
「炭素1%の鋼、出てこい!」
ぬお!魔力消費とんでもないな!止めよう。
これ、あれだ。
材料からプリン生み出そうとした時とか、石炭からダイヤモンド作ろうとした時と同じだ。
出来ずにぶっ倒れる。
土からレンガや壁作るのは簡単なのに、何でやー!
水晶こねこね出来るのに、何でやー!
…そういえば、磁鉄鉱って酸化鉄だよね。
抽出すると、なんで還元された鉄が出てくるの?…何でやー!
魔法の不可解さに悩みつつ、一気に魔力が減ったので帰ります。
あ、そうそう。村には高い煙突立ってたよね。
危ないから近づくなって言われてたけど、あれ、高炉かも。
ひょっとして銑鉄なら手に入るかな?
今度村行ったら聞いてみよー。
さて、時刻は午後3時ごろか。
魔力無いから、家事しよう。
家事してて新ためて思う。
狭い小屋なのに、土足生活だからお掃除大変、洗濯物干し場ほしい、水洗トイレほしい、お風呂ほしい、作業部屋ほしい…。
日本式のおうち、欲しいよね。
あれ?そういえば、小屋の付近、自由にしていいって言われたよね。
小屋は壊したくないから、近くに新しいおうち、建ててもいいんじゃない?
元々は親に異常に見られたくなくて、こっそり洞窟掘ってたんだよね。
で、小屋が狭いから余分に部屋が欲しくて、だけど許可貰ってないから地下に作ろうとして…。
ぬお!地下である必要無くなったじゃん。
気づけよ私!
そうなると場所選定だね。
小屋の裏におっきなコブみたいな小山あるから、あそこ削っちゃう?
小屋と同じ高さまで削れば、今の4倍以上の敷地になるよね。
うん、新たな目標が見つかったね。
騎士様も『自分の為に生きろ』って言ってたし。
よし、間取りと外観考えよう。
その後、夕食もそこそこに、せっせと設計考えました。
設計はまだ初期段階だけど、土削りながら煮詰めていこう。
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