Day13

翌朝、スライムぷすったら建築予定地の下見です。

こぶというか丘?…いや、小山が正しいかな。

高さは目算で20m以上ありそうです。

一部は崖と融合してます。

体力お化けのはずの私が、登るのに苦労しました。

あ、小屋と小山を挟んで反対側、小屋の敷地と同じくらいのスペースがあります。

思ったより広いね。


さて、やりますか。

魔法で崩すのは崩落とか怖いし、建材用にレンガたくさん欲しいのでレンガにしていきます。

あ、レンガの置き場に困るな。

よし、側面にレンガの滑り台みたいなの作って、下に落とそう。

……二回ほど、自分が転がり落ちそうになりました。

足場の悪い高所作業は気を付けよう。

上り下り用に、滑り台の横にちっちゃな階段付けました。


せっせとレンガを作り続け、魔力が心もとなくなったら、一旦終了です。

頭頂部は体積少ないので、高さ5mほど削れました。

落ちないように慎重に戻ります。

…そうだった。

視界から消えてたから忘れてたよレンガ君。

結構な量が散らばってるので、魔法で崖下に移動します。

あー、積まなきゃ。

一個づつ魔法で動かすより、手で積んだ方が早いので、せっせと積みます。

Oh…。

地味に疲れたので、小屋で休憩してたらソード君が来ました。


「お嬢、昼食食べない?」


君、昼食食べる派なのね。

そういや今日は朝食食べてないや。ありがたくいただきます。

持ってきてくれたのは、ホットドッグもどきを4個。

2個渡してくれたけど、そんな食えんし。

1個食べて、残りは半分こしました。

10歳児、よく食うな。


「なあお嬢、素振り練習してるんだけど、ちょっと見てくんね?」

「あー、その前に1個確認。騎士様の剣技とはかなり違うことになるけど、そのへんどうなの?」

「ああ、大丈夫だ。父上からは自由にしていいって言われてる」


およ、父上呼びか。尊敬してんだな。


「じゃあ、次は約束。私が教えた技で、弱いもの虐めや悪い事しないで」

「当たり前だろ。そんなかっこ悪い事出来っか!」


ほう、いいね。


「うん、じゃあ外行こう」

「おう!」


小屋と崖の間は、屋根からの雪と崖の雪庇が落ちるために、ちょっとした広場みたいになってるので、そこで教えます。


「振ってみて」

「おう!」


シュッ、シュッ

お、結構よくなってる。

まだ少し力が入りすぎだけど、ぶんぶんいわなくなってる。でも…。


「ちょっと待って。腕見せて」


待ったを掛け、ソード君の右腕を掴む。


「あ?何だ?」


薬師の技、魔力感知!

ソード君の右腕、肘の所で魔力の流れが悪くなってる。


「肘、痛めてるよね」

「え?こんなもん鍛錬なんだから当たり前だろ?」

「私の説明が悪かったかも。ポーションで治療しよう」

「いや、これくらい大丈夫だ」

「だめ、辺境にいるのなら、身体は大切にして」

「…なんか理由あんのか?」

「うん。もし、街で少し膝を痛めたらどうする?」

「あ?少しだろ。我慢して帰る」

「辺境の森だと命取りなんだよ。上り下りが多いからどんどん膝の状態が悪くなって、家まで遠いから途中で歩けなくなるの。で、夜になったら凍死する」

「…まじかよ?」

「うん。たとえ肘だとしても、街中なら動かさずに帰れるけど、森じゃあ戦わなきゃいけないよ。ひどくなって動かせなくなったらスライムとどう戦うの?」

「やばいな…」

「でしょ、だからちゃんと治療して。ポーション持ってくるから」

「ああ、わかった」


小屋から既定の分量に足りなかったあまりポーションを持ってきて、飲んでもらった。


「代金払う。いくらだ?」

「それ、あまりポーションっていって、量が足りないの。継ぎ足しはダメだから、売っちゃいけないの。農家さんが出来の悪かった野菜を近所に配るみたいなもんよ」

「ああ、それなら、俺は余り物が出たら持ってくればいいんだな」

「もう昼食貰ったよ」

「あれは、剣教えてもらおうと思ったからで…」

「これも辺境の習わしなんだけど、生きる術、戦う術は教えられる人が必ず無料で教えるの。じゃないと、お金が無い人は辺境では死んじゃうから」

「…なんかお嬢と話してると、俺含めて街や王都の連中が、ここの子供以下に思えてくる」

「常識が違うだけだよ。寒いところに来たら厚着するでしょ。辺境に来たら身に付けなきゃいけないものがあるってだけ」

「うわ、すげー納得した。俺、寒いとこで薄着してんのかよ」

「服みたいにすぐに身に付けられないから、ちょっとづつね」

「おう、頑張って覚える」

「じゃあ、素振りの話に戻るけど、肘が伸び切る直前で止めて。見た目には伸び切ってるように見えるけど、ちょっとだけ曲がってるの」

「そうなのか、やってみる」

「曲げすぎ。もうちょっと伸ばして」


シュッ、シュッ


「そうそう、出来てるよ。上段も中段も下段も、その振りが基礎の基礎。それが出来たら、次は身体全体で同じことするの」

「え?わからんぞ」

「じゃあ、切っ先下向けて、そこから上に振り上げてみて」

「こ、こうか?」


ブン


「うわ、ブンって音しやがった」

「いいね、ちゃんと音も気にしてるね。今振った時、若干前かがみになって右足のつま先に力が入ったでしょう?つま先から足首、膝、腰、肩 肘、手首の順で剣に力が伝わるんだよ」

「まじか!?そんなにか?」

「うん。身体全体が使えるようになったら、完成。私の技はそれだけなんだ」

「…先は長そうだ。あれ、基本の基本で横に振ろうとすると、構えた時、剣が自分に刺さっちまうぞ」

「ああ、ちょっと木剣貸して。横に振る時は関節を横に使うんだよ。こうやって」

ソード君に右の肩裏が見えるように身体を捻って一閃。

ピュッ!

「うわ!ピュッって鳴った。笛みてぇ!」

「音が高いほど早いってことだからね」

「おおお!練習するぞ!」

「さっきの忠告、忘れないでよ」

「あ、そうだ。身体壊さない程度に練習な」

「うん、お願いね」


しかしソード君、口は悪いけど、素直だしひたむきだよね。貴族なのに全然偉ぶらないし、信用できる人物だよね。


「あ、そうだ。聞いときたいんだけど、祝福って何回目?」

「……こっち来て初めてあった」

「むう、少ないね。街とかだとそんなものなの?」

「ああ、祝福受けてない奴が大半だ。街だと兵士でもない限りスライムなんか会わねえ」

「そっかー、うーん」

「まずいのか?」

「うん。ここまで一人で来たよね。まれにだけど、スライム出るからね。一人で対処できる?」

「くっ、絶対大丈夫とは言えねえ…」

「ねえ、ソード君は報告義務とかある?」

「あ?俺は職務に就いてねえから、そんなもんねえぞ。なんか内緒話か?」

「うん」

「お嬢には世話になってるから、しゃべるなって言われたら守るぞ」

「じゃあ、お願いね」

「おう。口は堅いぞ」

「ちょっと待ってて」


ソード君、レベル1だったよ。

この人、レベル1で一人でほっつき歩いてるよ。

このまま返して、万一スライムに会って怪我でもしたらまずい。

一応、貴族だし、辺境では避けれらる危険は極力避けるのが当然だし。

送ってくなんて言ったら、意地でも断りそう。

仕方ない。約束してくれたから、ばらすか。

ランタン取って来て、ソード君を食料庫にご案内。


「うお!隠し扉か。いいな!」


お、君、趣味合うね。

食料棚移動して…。


「うわ、更に隠し扉って、王族かよ!」

「ごめん、一人づつしか通れないから、あとで私の真似してね」

「お、おう」


私が先に入り、後からソード君が通ってきた。


「要塞かよ。すげー考えられてる」


お、セキュリティの高さも分かるんだね。


「ここで見たものを、全部秘密にしてほしいの」

「わ、わかった」


あ、ちょっとビビったね。何を見せられるのか不安になってるみたい。


「なんかちょっとドキドキしてきたぞ。探検みたいだ」

「あはは、初めて入ったらそうだよね」


やがて晶洞エリアに差し掛かった。


「うおー!なんかすげー!」


ははは、感動してるや。


「もうちょっと先ね」

「おう!」


わー、楽しそうだね。

やがてトラップタワーに到着。


「なあ、なんか壁、光ってねえか?」

「うん、あれがダンジョンの壁だよ」

「な!ダンジョン!?まじか!!」


あ、こら!置きっぱなしにしてあった水晶ランタン掴んで点けようとしてる。


「ちょ!それは!」

「ん?何だこのランタン。中に水晶入ってるぞ」


あー、見られちゃったよ。水晶ランタンは見せるつもりなかったのに…失敗した。


「そのランタンは安全性が確認出来てないんだよ」

「あ?ランタンで安全性ってなんだよ?」

「…それ、点けるとスライムが逃げるんだよ。だから魔物が逃げ出すほどの何かが出てるはずなんだけど、わかんないんだよ」

「なっ!魔物が逃げ出すって、妖精の杖かよ!!」

「は?妖精の杖?何それ?」

「あー、知らないか。妖精の杖ってのは、王家の宝物の一つで、魔を払う秘宝だ」

「は?何それ?どんな原理?」

「いや、原理は知らんけど、杖の先に透明な花みたいなのが付いてて、王様が持つと光るんだよ。足とか付いてて杖っぽくないけど…」

「は?持つと光る?花みたい?魔を払う?……」


水晶ランタンと類似性大です。

持つと光る→魔力通せば光る

透明な花→水晶クラスター

魔を払う→スライムが逃げる


「ちょっと渡して」


水晶ランタンを取り返し、少し離れて弱めに点灯。


「こんな光?」

「そう、それ!ランタンやろうそくと違って、太陽みたいな光!」

「えー、まじかー。めっちゃ似てやがります」

「お、おい。言葉が変じゃないか?」

「心の声が漏れたんだよ。それと君もだよ。ひょっとして、普段はわざとあんな話し方してる?」

「ぐ、そ、その話はまた今度な。それより、なんで離れた?」

「だって、身体に悪いもの出てたら申し訳無いじゃん」

「……王様、何年も浴びまくりだぞ」

「まじ?大丈夫なの?」

「穢れを払うために、毎日浴びてるらしいぞ。王家の言い伝えとかなんとか…」

「…代々の王様は短命とか?」

「怖いわ!そんな呪いみたいなの聞いたことねーよ。今の王様も結構なお年だ」

「うーん、そうなるとこのランタンは安全な可能性が出てきたね。まあ、妖精の杖と同じものかどうかはわからないけど」

「……確認の方法、無くはないぞ。でも、秘密なんだろ?」

「そうなんだけど、これが安全なら、みんなの安全につながるよね。うーん、悩ましい…」

「まあ、ゆっくり考えてくれ。しかし、お嬢にこんな秘密があったとはな。びっくりだぜ」

「あ、ごめん。これは見せるつもりなかったんだよ。単純に置き忘れてた」

「はあっ!?まだあんのかよ!」

「いや、ダンジョンの事なんだけど、もうちょっとだけね」

「…そうだった。このランタンの事で、ダンジョンの話がすっ飛んでた」

「こっち来て」

「お、おう」


で、トラップタワー処理層にご案内。

よかった。3匹溜まってる。


「ぶは!何だこれ!?スライム詰まってやがる。間抜けー」

「あー、これ、自然に詰まったんじゃなくて、そうなるように作ったんだよ」

「…よく見りゃ、一番下、牢屋みたいだな」

「スライム倒したの、全部で何匹か覚えてる?」

「2匹しか倒してない」

「一人で?」

「いや、二人で2匹」

「じゃあ、一人であと2匹だね」

「は?何が?」

「次の祝福まで」

「…祝福の条件、分かってんの?ひょっとしてこれも辺境の常識?」

「祝福受けるごとに、討伐する数が増えるのは常識」

「それは俺も知ってる。数や人数までわかってんのか?」

「私の仮説ではね。今までは外れてないから」

「人数と討伐数まで正確に?」

「正確には倒したときの距離と討伐数」

「…お嬢がすごいのはわかった」

「そんな事より、私、離れるから2匹倒してよ。この短い槍使って」

「お、おう」


ソード君にスライムぷすってもらい、核を新たに土で作った小箱に入れる。核は討伐者のお小遣いだから持ってってもらわなきゃね。

ちょっと放心ぎみのソード君と、小屋に戻りました。


「じ、じゃあ、俺、帰るわ」

「ちょっと待って。ちゃんと気持ち切り替えてからじゃなきゃダメだよ」

「いや、さすがに衝撃デカすぎだろう」

「これも辺境の常識なの。他事考えながら何かすると危ないの。歩くことに集中して」

「そうなのか。頑張って歩くようにする」


何か危ないなー。まだちょっと呆けてるし。

あ、ソード君、今日の夜まではレベル1のまんまじゃん!

これじゃ、呆けさせちゃった分、帰りの危険増やしてるよ。

うーん、何とかして……げ、私も買い物に行くことにすれば、送っていけるじゃん!今気づいたよ。

何やってんの私!


「あー、村で探したいものあるから、一緒に行っていい?」

「…ほんとか?」

「うん、銑鉄探したい」

「せんてつ?なんだそれ?」

「鉄鉱石から出来たばかりの鉄の事。剣作るのに欲しいんだよ」

「おお!剣か。あれ?ひょっとしてお嬢の剣って、自作?」

「そうだよ。でも、失敗作だって言ったでしょ。新しいの欲しいんだよ」

「いいな!一緒に行っていいか?」


あり?向こうから同行を希望されてしまった。

急遽剣作ることになっちゃったけど、まあいいか。


「うん。でも、今日は材料探しだよ」

「おお!材料探すところから見たい!」


すごい乗り気だな。

結局、剣談義しながら村に向かいました。

ついでにしゃべり方も直してもらいました。

だって、無理してカッコつけてるみたいで安定してないんだもん。

そして、やってきました鍛冶屋さん。

鉄はいつもここで買ってるよ。

ソード君、壁に飾ってある剣に、興味深々です。


「おう、いらっしゃい。また鉄か?」

「うんとね、今日は銑鉄が欲しいんだよ」

「おいおい、あんな鉄、使いもんにならんぞ」

「少しでいいんだよ。混ぜるのに使うだけだから」

「混ぜる?何と?」

「ここで買った鉄と」

「………おい、それどこで聞いた」

「え?ただの鉄って、柔らかいじゃない。銑鉄は割れるんだから硬いと思って。混ぜたらちょうどにならない?」

「………答えられねえ。そのへんは鍛冶屋の秘技だ」

「いや、別に聞かないけど、売ってくれる?鋼でもいいけど」

「…その前に、腰のもん見せてくれねえか?自作だろそれ」

「うわ、よくわかったね」

「あほ、村の武器は全部俺が作ってる。鉄買ってく奴が知らない剣持ってりゃ、自作だと思うわ」

「それもそうか。はい、どうぞ」

「………これじゃダメな理由は?」

「刃も峰も柔らかすぎ。無理すると曲がるから」

「わかった。銑鉄は売れねえから譲ってもいい。そのかわり、出来上がった剣、見せてくれねえか」

「え?いいけど、素人の作品なんか見たいの?」

「気付いてねえみたいだが、この剣も見習いレベル超えてるぞ」

「ほんとに?やった!」

「なあなあ、お嬢、俺にも剣の作り方、教えてくんねえ?」

「うーん、結構繊細な魔法制御、必要だよ。大丈夫?」

「くっ、練習してダメそうなら、見るだけでも!」

「なあ、俺も見てえんだが、行っちゃだめか?」

「え?ちょ!鍛冶屋さんまで!?べ、別に隠すことじゃないからいいけど…。そうだね、晴れてたら、明日の午後、小屋に来れる?」

「「絶対行く!」」


うわ、すっごい食いつき。

単に魔法使ってズルしてるだけなのに、大丈夫かな。

でも、今日中にデザインやら製法考えないといけないね。

あまりの食いつきに、思わず明日って言っちゃったし。

さっさと戻らなきゃ。


え?ソード君、夕食奢ってくれるの?わーい!

食べてから小屋に戻ります。

小屋に戻り、うんうん唸りながら、基本設計と手順を考えてから寝ました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る