4月17日


 僕はよく弟と喧嘩する。この話をすると、学校や塾の人達などからは『意外』と言われることが多い。一応僕は、家以外での外面そとづらは良いのである。

 自分はきっと、内弁慶うちべんけい外地蔵そとじぞうなのだろう。外部から得たストレスの捌け口を、喧嘩に求めてしまっているのだろうか。今はコロナ自粛中だから、一体何がストレスになっているのかは定かではないが。

 とにかく、そんな浅はかな自分の愚かしさを呪う。

 

 今日も、僕は弟と喧嘩をしてしまった。それは本当にしょうもない、些細なことから始まるものが殆どだ。兄弟喧嘩というのは不思議なもので、いくら争ったところで兄である自分が悪者になるというのは変わらない。

 それについてどうこう言うつもりはない。自分にも非があったことは事実だし、僕の家庭ではけして僕だけが責められるということは無いからだ。

 しかし、喧嘩をしていると稀にこのようなことを思う。

 自分は何故、争っているのか。

 弟に攻撃されて、自分もやり返して、それに対して弟がさらに攻撃を仕掛ける。その負の連鎖が思い浮かぶだけで、根本的な大本の理由は思い出せないのだ。

 結局残るのは、体の節々に残る痛みや醜いひっかき傷だけ。所詮は子供同士の争いだから、一晩経てば関係は元通りになる。引き摺ることは殆どない。

 

 喧嘩というのはさながら、戦争の縮図だ。

 一つだけ違うことを述べるのならば、戦争は大抵の喧嘩とは違って〈両者の関係が元の状態に修復されることは無い〉ということである。

 

 僕の好きな作品で、僕が小説を書くきっかけとなった児童文学がある。

 那須なす正幹まさもとさんが書いた〈ズッコケ三人組〉シリーズである。小学一年生頃にこの作品に出会い、しばらくしてからハマり出した。

 気づけば小四か小五の頃には、休日に近所の県立図書館へ行き、そのシリーズを何巻も借りに行くようになっていた。そうしている中で、子供ながらに感銘を受けた巻があった。その巻の名は〈参上!ズッコケ忍者軍団〉。

 エアガンやパチンコで武装した他校の小学生たちによって、秘密の虫捕り場を占拠されてしまった主人公たちが、知恵を振り絞って懸命に戦う話だ。

 

 その内容もとても面白かったのだが、その感情が発露するきっかけとなったのはこの巻のであった。小学生のころの記憶なのであまりあてにはできないが、確かこのようなことが書いてあった。


『今の子供たちは、本気になってやんちゃをしたり喧嘩をすることが無い。だから、殴られたり争ったりしたときの痛みや辛さを分からない子が多いんじゃないか。時代錯誤かもしれないが、この巻の小学生たちのように本気で喧嘩をしてみるというのは、痛みを知るという上で大事なんじゃないだろうか』


 本当にうろ覚えで曲解している部分もあるかもしれないが、大体はそんな感じである。この作者である那須正幹さんは広島に生まれ、3歳の時に原爆投下により被爆。同級生には被爆により親がいなかったり、自身も白血病で死んでしまったという子供が多くいたのだそうだ。

 だから、戦争の恐ろしさというのをよく理解していたのだと思う。その想いが、一つの〈参上!ズッコケ忍者軍団〉という作品に現れているのではないだろうか。

 興味を持った人は、ぜひ読んでみてほしい。


 痛みを知るというのは、とても大事なことだ。

 人にどんなことをされたら嫌か。そんな小学生に投げかけられるような質問は、戦争にもつながるところがあるはずだ。戦争は喧嘩とは違う。しかし、喧嘩と同じような過程から始まり、喧嘩よりも最悪な結果を招く。

 特段、僕は憲法九条を護れだとかいうつもりはない。むしろ個人的な意見としては改憲派だ。だが戦争は嫌いだ。

 これは決して矛盾しない、人間として当たり前の感情。

 しかし、痛みを知らない子供たちが大人になり、発言力を持ったらどうなるだろうか。……戦争は絶対にやってはならない。絶対に後悔するから。

 だが、戦争の縮図である喧嘩をしっかりと理解していない者たちに戦争の危機が差し迫った時、一体どのような決断を下すだろうか? 考えたくはない。

 それでも考えなくてはならない。考え続けなければならない。

 平和の為、というよりももっと単純に。

 家族や知己・友達、そして自分を護る為に。


 今日の日誌はこれまで。

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