レアジョブ【精霊騎士】の俺、突然【勇者パーティ】を追放されたので【へっぽこ幼女魔王さま】とスローライフします。

第53話 少女が見た流星

　俺と幼女魔王さまと【勇者】ミスティは、その夜、王宮の上層階に設けられた空中庭園にいた。

　夜の闇に乗じて王宮に忍び込んだ不届き者を、ミスティ率いる新生勇者パーティが捕まえに来た――というわけでは、まったくない。

　俺たち３人は空中庭園の芝生の上にシートを引いて、俺をまん中に川の字になって夜空を見上げて寝っ転がっていた。

　今晩、最大の見どころを迎える夏の大流星群を見るというのが、今回のスローライフ・ミッションなのである。

　すでに街の明かりは、ほとんどついていない。

　首都【ゲーゲンパレス】は闇夜と同化して、真っ暗になっていた。

　これは大流星群が見やすくなるよう、早めに消灯するようにと、王宮からお触れが出ていたからだ。

　今年は流星群の特に大規模な「巡（めぐ）り年」と言うことで、街ぐるみの一大イベントになっていたのだ。

「作戦名、オペレーション・メテオなのじゃ！」

　イベントを企画・命名した幼女魔王さまが、嬉しそうに何度も言っていた。

　その大流星群は、最初こそぽつぽつだったものの、今やヒュンヒュンヒュンヒュンと次々に星が降りそそぐ、壮大な天体ショーになっていた。

「すごいです……まるで星空が降ってくるようです……きれい……」

　綺麗なものが大好きなミスティが、うっとりとした声をあげる。

「なにせ今年は１００年に一度の巡り年らしいからのう。しかも雲がほとんどない上に、おあつらえ向きに月明かりのない新月の夜ときたものじゃ。皆の日ごろの行いが良かったに違いないのじゃ」

　幼女魔王さまもご満悦って感じだ。

「１００年に一度かぁ。壮大すぎるスケールだな……」

　俺も呆（ほう）けたように、降りそそぐ星々を見上げていた。

　１００年ごとってことはつまり、同じ規模の大流星群が見られるのは、今からまた１００年後。

「俺たちはもう、次の機会には生きてないんだよな……」

　そう考えると、俺たちの存在なんてすっごくちっぽけに思えてくるな……。

「正真正銘（しょうしんしょうめい）、まぎれもなく最初で最後のチャンスですね」

「うむうむ。であるならば、自然の織り成すこの素晴らしき天体ショーを、心ゆくまで堪能（たんのう）しようではないか」

「だな」

「はい！」

　俺たちはそこでいったん話を終えると、星降る空を静かに見上げることに専念する。

　今は言葉なんて無粋（ぶすい）なものは必要ない。

　語ることは、後からいくらでもできるんだ。

　だから今は。

　この１００年に一度の星降る夜を、この目にしっかりと焼き付けておこう――。

　俺の隣で横になっているミスティが、俺の手に、そっと自分の手を重ねてきた。

　それを俺もそっとにぎり返す。

　せっかくなので反対側で寝転ぶ幼女魔王さまの手も握ってあげると、こっちもまたふんわり優しくにぎり返された。

　そのまま３人で手を繋ぎながら、俺たちは流れ落ちる星の刹那（せつな）の煌（きら）めきを、息を飲んで眺めつづける。

　しかし。

　そんな風に感動しきりな俺たちのことなんて気にもとめない様子で、壮大な大流星群は次から次へと天から降り注いでいった。

　そして、いつもは騒がしい精霊たちも、この時ばかりはそっと静かに夜空を見上げているようだった。