第49話 登場!幼女魔王さま!!!

「俺は――俺は――『オレ』が【シ・ヴァ】だ」


 必死に握っていた「ハルト・カミカゼ」という意識の最後の手綱たづなを、俺はついに手放してしまった――手放しかけたその寸前だった。


「ハルト、少し落ち着くのじゃよ」


 荒ぶる破壊精霊に心を完全に喰われる寸前だった俺――『オレ』の前に、いつの間にか魔王さまが立っていた。


「ド、ケ――」


 『オレ』の口からは、おどろおどろしい【シ・ヴァ】の声が発せられる。

 当然だ、『オレ』は【シ・ヴァ】なのだから。


「どかぬのじゃよハルト」


「ソウカ、ナラ死ネ――」


 無防備に立つ幼女魔王さまに、『オレ』=【シ・ヴァ】は【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】を振り下ろす――!


 やめろ――っ!


 ほんのわずか、猫の額ほど残っていた理性を総動員して、


「グヌッ――、キサマ、マダ!」


 『オレ』が【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】を振り下ろそうとした右手を、俺は左手でどうにか押しとどめていた。


「逃げロ、魔王、サマ……逃げてクレ。もうこれ以上ハ、抑エえきれ、ないんダ……頼ム、ニゲ、て、ク……レ――」


 ほんのわずか残されていた心と最後の気力を振り絞って、俺は幼女魔王さまに懇願こんがんするように語りかける――。


 だって言うのに――、


「まったく何を見当違いを言っておるのじゃ。だいたいハルトが教えてくれたのじゃろう?」


 幼女魔王さまときたらそんな言葉を返してきやがるのだ。

 無駄話をしている時間も余力ももう残されていないって言うのに!


「早ク……逃ゲ……ロ……」


 しかし幼女魔王さまは逃げるどころか、あろうことか、


「やれやれじゃの」


 俺の身体にぎゅむっと抱き着いてきたのだ――。


「ナ、ニを――」


 そして抱き着いたままで顔を上げると、俺の顔を見上げるようにして幼女魔王さまは言った。


「のうハルト。精霊を使役する時に大切なことはただ一つ、肩の力を抜くことだ――と。そう言ったお主がそんなに力んで精霊を無理やりに抑えつけようとするなど、それでいったいなんとするのじゃ?」


「ァ――ガ、グ――、逃ゲ、て――」


「ハルトにとって精霊は友達なのじゃろう? 友達とはそんな風に必死にお願いしたり、無理やり言い聞かせて抑えつけたりするものではなかろうて?」


 俺の必死の抵抗も空しく、『オレ』の支配する右手がじりじりと振り下ろされてゆく。


 しかし幼女魔王さまは逃げようとするどころか、にっこりと極上の笑顔をみせながら語りかけてくるのだ。


「【シ・ヴァ】も同じじゃ。のう【シ・ヴァ】、わらわはハルトの友人じゃ。つまりわらわと【シ・ヴァ】も友人の友人じゃから、友人であろう?」


「グッ、ウガッ、グゥ――ッ!」

 だめだ、モウ意識ガ――。


「済まぬがここは引いてくれぬか? 皆がハルトの帰りを待っておるのじゃ。なによりわらわが心待ちにしておるからの」


「わ、私もです! 私もハルト様の帰りを心より待ちわびております!」


 幼女魔王さまの言葉に、ミスティが即座に大きな声で同意をする。


「とまぁそう言うわけなのじゃ。では改めて友として頼もう。原初の破壊精霊【シ・ヴァ】よ、ハルトを返しておくれ」


 俺に抱き着いたまま、見上げながらにっこり笑ってお願いしてきた幼女魔王さまに、


「――――」


 『オレ』は無言で【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】を振り下ろした――。

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