第40話 「ギリギリセーフだな!」

「見えてきた、あそこだ――!」


 風の最上位精霊【シルフィード】の精霊術【エアリアル・ブーツ】によって高速移動を続けてきた俺の目に、ついに戦場が見え始めた。


「情報通りだ、ありがとうなナナミ!」


 ナナミの呼びかけで集まった中につい先日、魔王軍が布陣した場所のすぐ近くを通ったという商人がいたのだ。


「戦況は――だめだ、【南部魔国】は数こそ勝っているがかなりの劣勢だぞ。本陣は、幼女魔王さまとミスティはどこだ――いた!」


 幼女魔王さまとミスティの姿が、【南部魔国】の軍旗が掲げられた陣幕の中にちらりと見えた。


 さらに本陣のすぐ近くには大将軍ベルがいて、そしてベルは【勇者】と一騎打ちで激しく戦っていた。


「まずいな、もう本陣の目の前まで攻め込まれてる。このままじゃすぐに落とされるぞ。っていうかなに本陣を下げずに戦場のど真ん中に居座ってんだ馬鹿野郎!」


 【勇者】の持つ【聖剣】は対魔族に特化した、天使の力を帯びた決戦兵装だ。

 並の魔族ではいくらいてもまったく歯が立たない。


 だから大将軍のベルが直々じきじきに相手をしているんだろうけど、自慢のバトルアックスは片刃がくだけていて、身体も傷だらけで至るところから出血している。


 対して【勇者】はまだまだ余裕がある。

 このままだとやられるのも時間の問題だ――。


「本陣が下がってないことといい、魔王さまはベルがやられたら自分の命と引き換えに講和するつもりで間違いなさそうだな」


 半ば独断で動く【勇者】の狙いは【南の魔王】ただ一人だ。

 そうであれば幼女魔王さまが討たれた時点で目的は達せられる。


 まったく人のいい幼女魔王さまの考えそうなことだぜ。


「けど、悪いがそいつは無しだ! ありがとう【シルフィード】、おかげで間に合ったよ。おせっかいついでにもう一つ頼めるかな。精霊術【天まで届けスカイハイ】発動!」


 ――はーい――


 俺は【黒曜の精霊剣・プリズマノワール】を抜刀すると、高速移動の勢いそのまま雄たけびを上げて、


「おおおおぉぉぉぉぉっっっっ――!!」


 高く高く、そして前へ前へ一気の大ジャンプを敢行した!


 風の精霊に背中を押してもらいながら、戦場の端から本陣のある中心まで一足飛びで一気呵成いっきかせいに両軍の兵士たちを飛び越える――!


 さらに空中で、


「戦いの精霊【タケミカヅチ】よ、戦闘精霊術【カグツチ】発動!」


 ――御心のままに――


 俺の身体に荒ぶる戦いの精霊の力がみなぎってゆく――!

 

 そんな準備を万全に整えた俺の目の前で、


 ギャキャギギギギギン!!


 耳障りな金属音と共に、既に片刃だけとなっていたベルのバトルアックスがついに粉微塵こなみじんに砕け散った。


 よほどの衝撃だったのだろう、ベルが腕を抑えながらよろめいて尻餅をつく。


「まったく手こずらせやがって。だが勝負あったな、まずは貴様だ、大将軍ベルナルド! 死ね!」


 【勇者】の【聖剣】が、動けなくなったベルを斬り伏せようとして――、


「よしっ、ギリギリセーフだな――!」


「――この声っ!? ちぃ――ッ!」


 今まさに【聖剣】を振り下ろそうとしていた【勇者】に、俺は落下の勢いも利用した渾身の一撃を叩き込んだ――!

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