第24話 【精霊騎士】、海洋王【ポセイドン】に色々お願いする

「なぁ【ポセイドン】。悪いんだけさ、近くにサメとかクジラとか危険な生物がいないか確認してくれないかな?」


「しかもまさかのため口じゃと!? 気難しいと言われ、時に神すら海に引きずり込んでボコったと云われる【ポセイドン】相手に、ため口で一方的にお願いするじゃとぉっ!?」


 魔王さまがガクガク震えながら白目をいて叫んでいた。


「それとできれば安全に泳げるように、この辺りに精霊結界を張ってほしいんだけど。できればこの先ずっと続く感じで」


「さらに追加で永続結界を張れとか無茶な要求までしとるしっ! しちゃっとるし!? しちゃっとるのじゃーー!!」


 魔王さまはそう言うと、ついにブクブクと泡を吹いてぶっ倒れてしまった。


 ミスティが支えようとして――ボスッ。

 あ、今回は間に合わなかった……。


 ミスティの奮戦むなしく、魔王さまは砂浜に顔から突っ込んでいた。


 まぁ砂浜だし大事には至らないだろ。

 すぐにミスティに抱き起された魔王さまは、差し出された水を飲んでなんとか気持ちを落ち着けようとしていた。


 そうこうしている間にも、俺の【ポセイドン】へのお願いは続いていて――。


 ――よかろう、全ての願いを聞き届けよう――


 結局【ポセイドン】はするっとまるっと全部おおらかに了承してくれると、スッと大気に溶けるようにその存在を薄れさせていった。


 割れた海はすっかり元通りになり、黒雲が消え去って太陽が再び顔を出す。

 あたりは平穏無事を取り戻していた。


「ふぅ。そういうわけで安全になったから。これで心置きなく泳げるよ。さーて、初めての海を目一杯楽しむぞ――ってどうしたんだ魔王さま?」


「ど、ど、ど、どうしたもこうしたもあるかーい! 【ポセイドン】じゃぞ、【ポセイドン】! 大時化おおしけや大嵐を呼び、時に巨大な水の力で都市をまるごと水に沈めたとまで云われる伝説の海洋王じゃぞ!? それをお主は一方的に呼びつけた上に、なーにため口であれこれお願いしとるのじゃ!?」


「ん? なにか変だったか?」


「なにもかも変じゃわい! 一から十まで全部変じゃったわい! どこの世界に【ポセイドン】を一方的に呼びつけて勝手なお願いを次から次にしまくる奴がおるというのじゃ!」


「? 今、目の前にいるじゃないか。それにほら実際にちゃんとお願いも聞いてくれただろ?」


「んほーーーーー! んがぁーーーーー!! ―――――はぅ」

 魔王さまは立て続けに奇声を発すると、またもや泡を吹いてぶっ倒れてしまった。

 

「魔王さま、お気を確かに! 魔王さま、魔王さま――!」


「あれ、また俺なにかやっちゃったのか……?」



 …………

 ……



 数分後。


わらわ、すごく変な夢を見ておったのじゃ。伝説の【ポセイドン】が目の前に現れるという荒唐無稽こうとうむけいな夢だったのじゃ」


「それなら夢じゃない――もごもご」


 言いかけた俺の口をミスティが両手でむぎゅっと塞いだ。

 そして俺の耳元に口を寄せると、小さな声でそっとお願いをささやいてくる。


「ハルト様、ここはそういうことにしておいてはいただけませんでしょうか? 魔王さまは少し心が疲れておいでなのです」


 その言葉に、ああそうか――と俺はすぐに納得をした。

 魔王さまが気疲れしている原因を察したからだ。


 こくんとうなずいてみせると、ミスティは安心したように俺の口から手を離した。


「そうだよな、確かに【国民の象徴】として義務しかない大変な生活を送っているんだもんな。それに加えて今は俺の面倒も見てくれているときた。そりゃあ気疲れもするよ」


 俺がちゃんとわかってるよと、小声でミスティにそう伝えると、


「うーんとまぁ……はい、そうなんです。魔王さまは結構大変なんです」


 ミスティは一瞬怪訝けげんな顔をした後、にっこり笑顔でそう言った。


「ではハルト様、魔王さま。せっかく海に来ているんです、話すのはこれくらいにして、さっそくみんなで泳ぎませんか?」


「そうだな」

「賛成なのじゃ。わらわビーチボールも持ってきておるのじゃ。ビーチバレーもするのじゃ」


「ではまずは準備体操をしましょう。いっちに、いっちに」


 その後。

 安全になった海で心くまで泳ぎ、砂浜で遊んだ俺たちだった。

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