第6話 日常クライシス⑥
俯いた頭をゆっくりとおこしながら立ち上がる。前を見ると、またしてもやつが俺を睨んでいた。
こいつ、どんだけ睨めば気がすむんだよ。それとも、元からこういう目つきで生まれてきたの? そんな目で生まれてきたら産婦人科の人たちもびっくりですね。
切り替え切り替え、、パッパと自己紹介を済まそう。
「みなさん初めまして……」
「チッ」
え?え?え?
みなさん聞こえました⁈⁈⁈
今、俺の向かい側に腰掛けている人が舌打ちしましたよ?
俺は軽く周りを見渡す。
しかし、みんな自己紹介を聞こうと、こちらを見ているだけで、戸惑いや変化がある様子は一切ない。
誰も聞こえていなかったのか? 嘘だろ?
でも証言者が俺一人しかいないのなら、何を言っても仕方ないか。
仕方なく、俺は軽く咳払いをして自己紹介を続ける。
「初めまして、
よし、なんとか乗り切った。
後は残されている二人の自己紹介を気楽に聞けばいいだけの話だ。でも、おそらく次に自己紹介をするのは、今日出会ったばかりだというのに、なぜかずっと睨んでくるあいつの番だ。
ふと見てみると、今は睨んでいるというより、少し呆れているような表情に見える。
普段は人の個人情報に全く興味はない。「ない」というか、聞いたところで数日経てば忘れてしまっている。という感じだ。
でも今回ばかりは、俺にとって全く身に覚えのない態度を向けられている以上、少し耳を傾けるくらいのことはしておこう。
「次は向かい側に座っている彼女、お願いします」
教授の指示がくるのとほぼ同時に、スッと立ち上がりパツキンジャージが自己紹介を始める。
「
なんだよ。あんな態度を俺に向けていた割には、普通の口調で、普通の自己紹介をしてんじゃねーか。いや、でも最後のところについては少し論弁しておきたい。
『性格は負けず嫌い』ってなに?
どうして自分の性格を自分自身が決めてんだよ、お前の性格はお前以外の人間が決める、というか感じるものであって、自身で決めるものじゃないんだよ。自分から『あたしの性格は〜』とか『あたしってこういうタイプだから』とか言ってくるやつはろくなやつじゃない。性格、タイプってお前、ポケモンか?
その点を抜きにすると、いたって普通の自己紹介だった。
じゃあなんでこいつは俺のことをこんなに睨んでくるだ? あれか? 所謂『なにメンチ切ってんだよ』ってやつか? 街中の輩でたまにいるよなー、なんかやけに視線感じるなーと思って、その方向を見てみると「おい、お前なにこっち見てんだよ」とか言ってくるやつ。いやいやいや、見てたのはそっちだろ。
なに? それなの?
パツキンジャージの自己紹介も終わり、残るのはあと一人となった。
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