第4話 日常クライシス④

 少人数授業が行われる教室なだけあって、大学の教室にしてはかなり狭い。例えるなら中学や高校の教室の半分ぐらいの広さだろうか。

 

 教室の中には長さの違う長机が二組ずつ縦長の長方形の形を型取るように置かれ、短い方の片側にホワイトボードが設置されている。そして、その周りに椅子が均等に並べられている。

 

 遅れてきたこともあり、俺は身を軽く縮こまらせながら、奥にある長い方の机の、ホワイトボードから離れた端っこの席へと座る。

 

 俺はカバンを机の上に置き、そのカバンの上に軽く覆い被さるように身を預ける。

 

 ふぅー、諦めずに急いで来ててよかったー。

 

 そういや、こういうことってよくあったりするよな、例えばバイトで店長不在時に何かやらかしてしまって、『やばい、これ明日店長に会った時に絶対きれられる』って憂鬱になって、なかなか夜も寝付けないみたいな。できれば明日にならないでくださいと神に願ったりなんかして、でもいざ明日になって、店長に会ってみると別に大したことなかったー。みたいなやつ。なんであんなに心配してたんだろ、いやむしろ心配しまくってたから、大したことない結果が舞い込んできてくれたのかなー。なんて風に思ったりしちゃうやつ。

 

 と、『初回』、『少人数授業』、『遅刻』というピンチを平穏無事に乗り越えた安堵感に、カバンの匂いに包まれながら浸ってた時だった。


 それは徐々に迫り来る獣のようにやってきた。

 

 ビクッ!!と全身に緊張が走った。殺気を感じる。

 

 なに⁉ また⁈ ︎

 

 いやいや、俺はカバンに覆いかぶさってて、いわば俯いている状態なんだぞ、それでも気を感じさせるってこいつ、どこぞのサイヤ人か? ここは勉強する場所なんだぞ? ナメック星じゃないんだぞ? 

 

 おそらく殺気が放たれ続けている真正面へとゆっくりと顔を上げる。

 

 そこにはスーパーサイヤ人にも引けを取らない金髪の女が君臨していた。

 

 俺は、さっ!っと目を逸してしまう。

 

 いやいやいやいや! こいつさっきのパツキンジャージじゃん!なんつー目でこっち見てんだよ。こえーよ。っつかこいつが同じゼミかよ……。

 

 はぁ……。何回緊張して、心配して、安堵してっていう気持ちのアップダウンを繰り返さないといけないんだよ。新学期早々、忙しすぎる。

 

 俺はただ、だれに対しても無関心で、誰からも無関心でいられる。そういう干渉されない平穏な生き方をしていきたいだけなのに……。


 「ねぇ、どうしたの?君の前に座っている人、すごい君のことを見ているっていうか、睨んでるように見えるんだけど」

  

 彼女の殺気を感じたのか、俺が怯えて変な動きをしていたのか、俺の隣に座っていたやつが、周囲の人にはあまり聞こえないように、静かな声音で話しかけてきた。


 「…………」

 

 しまった……。あまりにも唐突、かつナチュラルに話しかけられたから、最近出番の少なかった声帯がうまく機能してくれない。


 「大丈夫?」


 「……あ、うん。だいじょ……」


 「いやぁ、ごめんごめん。少し遅れてしまったねー」

 

 大丈夫っと言いかけたところで、遅れていた教授が、ゆっくりと教室の中へと入ってきた。そしてホワイトボードの近く、中央の席へと腰掛けた。

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