第40話 急報?
環と別れ、帰路についた庸一。
「おーい、庸一ぃ」
「ふむ、まぁ大体予定通りのとこにいたのぅ」
その前方から、光と黒が歩いてきた。
「あれ……? 二人共、体調はもう大丈夫なのか?」
程なく合流し、庸一は疑問を投げかける。
「あぁ、朝からお腹が痛かったんだけど……お昼頃から回復してな」
「妾も、午前中は微熱があったんで大事を取っとんじゃがな。今はもう、出歩いても良いと主治医のお墨付きも貰っておる」
「そっか、なら良かった」
まずは友人の復調を素直に喜び、微笑んだ。
「じゃあ、二人揃って散歩でもしてたのか? 珍しい組み合わせだな?」
次いで、疑問を重ねる。
「あぁいや、魔王とはたまたまそこで会っただけだよ」
「そうなの?」
てっきり待ち合わせでもしていたのかと思っていたので、少し意外だった。
「そしたら魔王が、庸一はこっちの方にいるって言うから一緒に来たんだ」
「ふーん? じゃあ、俺を探してたってことか?」
「あっ、うん……そう……なる、のかな……?」
そこでなぜか、光は言いにくそうにモジモジとした態度となる。
「なるのかなも何も、露骨に探しとったじゃろうが」
黒が、若干呆れ気味の顔に。
「……何か、緊急事態か?」
一方の庸一は、表情を引き締めた。
「緊急事態じゃったら、こんなのんびりしとらんわい。ちゅーかお主、なんでもかんでも物騒な方向に考える癖はどうにかせぇよ? 日常生活で、そうそう緊急事態など発生せんじゃろうが」
「そうでもなかったろうよ、特に中学の頃は」
「まぁ、そうなんじゃけども……」
「つーか、じゃあ結局なんのために俺を探してたんだ?」
「察するが良い」
「えぇ……?」
黒の短い返答に、庸一の表情は困惑で彩られる。
「……あっ、さては」
しかし、一つの可能性に思い至った。
光がギクリと顔を強張らせ、黒が「ほぅ?」と小さく片眉を上げる。
「お前ら、体調不良で大人しくしてた間あまりに暇だったからって、遊び相手を探してたんだな」
庸一としては、きっとそうだろうと半ば確信を込めた答えだったのだが。
「………………はぁ」
光が、呆れと安堵が混じったような溜め息を吐く。
「まぁ、ヨーイチじゃしこんなもんじゃよな」
黒は、何やら諦め気味の表情であった。
「なんだよ、違うのか?」
「半分くらいは合っとるとは言えるがの。ちゅーか、別にえぇじゃろそんなもんどうでも」
「そっちが察しろって言ってきたのに……」
本当にどうでも良さげな黒の物言いに、庸一は苦笑を漏らす。
「くふふ、まずは妾の顔が今日も見られて嬉しいと素直に喜ぶが良い」
「はいはい、嬉しい嬉しい」
「うむ」
「魔王、何気にこういうところは器のデカを感じさせるよな……」
露骨に適当に返す庸一に対して、満足げに頷く黒。
そんな黒を見て、光は感心と呆れの入り混じったような表情を浮かべていた。
「……時に」
ふと、黒が表情を改める。
「何か静かじゃと思うたが、魂ノ井の奴がおらんの?」
「今頃気付いたのか……?」
「いやまぁ、流石に最初から気付いとったが。どこに行っておるんじゃ?」
環も一緒にいると、微塵も疑っていない口調であった。
「いや、さっきもう別れたよ。俺、帰る途中だったんだ」
『……は?』
庸一の言葉に、光と黒は揃ってポカンと口を開ける。
「ど、どういうことだ庸一!? こんな時間での解散、しかも君と二人きりだったというのに環が納得したと言うのか!? 怪我か!? 病気か!? どこに入院しているんだ!?」
「いや、入院してねぇし身体はどこも悪くしてねぇよ……」
「脳が悪いということか!?」
「………………その可能性は否定出来んけども」
流石の庸一も、環の普段の言動や行動が一般的に見て正常なものであると言い張れる自信はなかった。
「ふむ……つまり、一旦油断させて改めて襲撃する気ということか。なかなか小賢しいことを考えよるな。ヨーイチよ、妾の護衛部隊の一部を貸し与えよう」
「いらねぇよ……」
口調から黒が本気で言っていることが察せられて、知らず庸一の口元には半笑いが浮かぶ。
「つーかお前ら、環のことなんだと思ってんだ……?」
「クレイジーサイコブラコン」
「ヨーイチ狂いの女」
「否定しきれねぇんだよなぁ……」
庸一としては、半笑いを苦笑に変えることしか出来なかった。
「いやまぁ言いたいことはわからんでもないけど、環にだって都合ってもんがあるだろ。この後に予定があるとかさ」
「あの環が、君以上に優先する用事なんて存在しないと思うんだが……?」
「いやいや、流石にあるって。仮にも、こっちの世界で十六年以上生きてきてんだぞ?」
「うーむ……正直納得しかねるとこじゃが、まぁ事実は小説より奇なりとも言うしのぅ……」
「そのレベルなのかよ……」
もっとも、庸一としても気になる点はあったのだ。
環が、自らあっさり解散を提案してきたこと然り。
それから、もう一つ。
(ほんのちょっと、ではあったけど……戦いに行く前のピリピリ感みたいなのがあった気がするんだよなぁ……)
そう、庸一が考えたのとほぼ同時のことであった。
地鳴りのようなエンジン音を響かせたバイクが、すぐ傍で急ブレーキをかけたのは。
あまりの急制動に耐えられなかったらしく、バイクは転倒。
運転手が、半ば放り出されるようにして転がってきた。
「ちょ……大丈夫ですか?」
上手く受け身を取っていたようには見えたが、念のため身体を揺すったりはせず、まずは口頭で尋ねる。
「アニキ!」
そんな庸一の方を勢いよく振り返り、運転手はフルフェイスのメットを外した。
その下から出てきたのは……。
(……いや、誰だよ)
最初に庸一が抱いた感想は、それである。
しかし、直後に気付いた。
(あー……あの、世紀末的価値観に憧れてた人か)
かつて光に絡んでいた男たちの一人。
そして先日、独特の価値観のもと庸一に喧嘩を売ってきた人である。
「……誰がアニキだよ」
思い出した上で、半笑いでツッコミを入れた。
当然ながら、庸一には彼からそんな風に呼ばれる謂れなどない。
「そんなことよりてぇへんなんだ、アニキ!」
しかし、どうやら彼にはその呼称を改めるつもりはないらしい。
「つーか、若干キャラがブレてないか……?」
引き続き半笑いのまま、ツッコミを入れる庸一。
彼がどんなトラブルを引っさげて来ていようと、大抵のことには余裕をもって対応出来る自信があった。
そう、この時点ではまだ。
だが、しかし。
「アニキの女が、攫われちまった!」
次に彼が口にした言葉の意味を理解するには、少しの時間を要した。
しかしこの状況において、『アニキの女』という単語が指す人物が誰であるか。
高確率で、この場にいない環であろうと思い至った時。
「……あ?」
庸一は、完全に無表情となった。
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