イヴァリース大陸放浪記

惟宗正史

序幕 黒い心

 なんと人は愚かなのだ。

 己の欲のためなら人を貶めることを厭わず、むしろそれを誇りもする。

 これが自分と同じ生き物だと思うと吐き気がする。

 見ろ、自分の甘言に乗った愚か者が実の兄に毒を盛った。

 地位、権力、名声……そして金。

 人はこれらを手に入れるためならなんでもする。

 愚か愚か愚か。

 人を操るものまた容易い。

 その人物に都合の良いことを吹き込み、ちょっと背中を押してやる。

 ほら、それだけで畜生に落ちる。この男のように。

 自慢そうに己の功績を誇り、家を継ぐのは自分だとうそぶく豚擬き。

 これが人なのか?

 こんなもののために自分は師の下で勉学に励んだのか?

 自分に人の心は理解できないのか?

 

 人とはなんなのだ?


 少なくとも目の前のゴミではそれを理解することはできないだろう。

 ならば次はどこへ行くか?

 人が最も多い帝都に向かうか?

 否、それはゴミの集団を見るだけだ。

 ならば北の山岳地帯にある傭兵達の国か?

 否、あそこにいるのは純粋な戦士達だ。尊敬すべき存在ではあるが人として観察すべき存在ではない。

 ならば東の草原に行こう。

 あそこに住まうは修羅の民、カサの民と呼ばれる遊牧民達。

 他者から奪うことを是とする人とはどんな存在なのか、観察するとしよう。

 もし、カサの民もまた愚かであったなら。


 私は人類を滅ぼすとしよう。

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