第3話 コスプレ少女は性癖を隠さない。
美少女である七瀬にチャーハンを食べさせてもらった。
食後のコーヒーを注文し、ついでにスマホでもいじる。
「あっ! まだいた!」
七瀬が相変わらず、スケスケのスカート姿で、俺を捕まえる。
「ねぇ。ちょっとバイトしない? 今日の食事代もタダにするよ!」
「バ、バイト? そんな面倒くさい」
ふっ。俺の魅力に気づいて、スカウトにきたのか。
確かに接客業は顔が命! ……したことないけど。
「しょうがないな~」
七瀬はやれやれと嘆息すると、スカートの端をつまみ上げる。
いわゆるたくし上げだ。
「わ、分かった! ただし今日だけだからな!」
吐き捨てるように言い、立ち上がる。
根負けだ。
それにお金は欲しい。今日の食事代も浮くならそれに越したことはない。
俺は七瀬に連れられて更衣室に向かう。
その後もちょくちょくたくし上げをしようとする七瀬を宥めながら。
カチャカチャ。
「なあ。七瀬」
カチャカチャ。
たまたま休憩に入った七瀬に訊ねる。
「なに?」
「なんで俺は皿を洗っているんだ?」
「人手不足だからよ。それにさっきの衣装に飽きたから」
いやいや、前後の文章がかみ合ってないのだけど!
確かに、さっきの服装と違って、今は(学校指定じゃない)制服姿になっている。
割とスカートは短めだ。まるで見てくれ! と言わんばかりに。
「しかし、イケメンの俺が皿洗いとは……」
せっかくの顔を活かして接客しようと考えていたが、まさかの裏方。
家に両親がいないのが多いので皿洗いくらいは慣れているが。
「すまん! こっちを見といてくれ!」
「あ。はい」
フライパンで炒め物をしていた筋骨隆々の男性従業員に頼まれ交代する。ちなみに先ほど、あーんをしてくれた中年男性だ。
「七瀬。なんでこんなに忙しいんだ?」
「だって開店二日目だもん。物珍しさでしょ。それにかわいいし!」
ああ。開店サービスで安くなっていたよな。それなら忙しいのも分かる。後半は理解できなかったけど。
「すまん。すまん。助かった! ってあれ?」
筋骨隆々の男性は疑問符を浮かべながら戻ってくる。
「ああ。チャーハンなら俺が作りましたよ」
「え。どうやってさ」
「だって書いてあるじゃないですか。それに一度食べたのでだいたいの味は分かるし」
壁に貼ってあるメモを指さし、欠伸をかみ殺す。
そんな俺を急に抱きしめ、男は嬉し泣きをしながら、大声を上げる。
「ここで一緒に働いてくれ! 頼む!」
「うるせー! 耳元で叫ぶな! それと今日はいいが、明日以降は暇じゃないんだ」
「それは残念だ。せっかく春夏の恋人さんだし、うまくいけば跡継ぎになれるのに……」
「待て待て! 俺は恋人じゃないぞ! それに跡継ぎって早くね!?」
見た目年齢的に言って四十代後半くらいだろう。
いくらなんでも早いわ!
しかし。このイケメンに目をつけるとは恐れ入った。
「えー。私はもっと独身生活を満喫したい! げへへへ」
七瀬は鼻をほじりながら、高らかに笑う。
どうやら当の本人は独身をご所望なようで。
私服に着替えるために、更衣室に入る。
「きゃあ!」
「へっ!」
俺の眼前に広がる風景には、磁器のように白い素肌を晒した七瀬の姿。
上の下着はピンクのフリフリ。下は……はいてなく、その花園を露わにしている。
「わ、私……」
「ご、ごめん!」
慌てて、ドアを閉めようとしたその時、
「ゾクゾクする!」
「………………は?」
ドアが半開きのまま、俺は硬直する。
「ああ~。私、今男性に視姦されているぅぅ! ゾクゾクして気持ちいい!」
あ。こいつやたら短いスカートやスケスケのスカートはくと思っていたら、
「露出狂かよ! こいつ!」
「あ~。バレちゃったか。私、見られるのが好きなの! だからいつもはノーパン!」
何も隠さずに仁王立ちするその姿は男らしいが、その意味を知った今はただただ、関わりたくねーな、と思うのだった。
着替えが終わると、先ほどの筋骨隆々の男性に呼び出される。
何事か? と思い、なすがまま事務室の椅子に腰をかける。
「いや~! 春夏に友だちができて一安心だよ!」
「は、はぁ」
言いたいことが分からずに困惑する。
七瀬には友だちがいなかったのか? いや、そもそも下々の者に興味ないし。これまでほぼ会話してなかったし。
それで友だちと言えるのか怪しいけど。
そもそも、友だちの定義ってなんだよ……。
「……なんだか怖い顔しているが、大丈夫か?」
「す、すいません。俺、七瀬さんと友だちなのかな? と思ってしまって」
男性店員さんが悲しそうな顔をする。
それが七瀬に向けられたものであると信じたい。
後方のドアが開き、七瀬の明るい声が届く。
「赤羽くん。あ、お父さんと話していたんだ」
今、なんと仰いました?
「おとう、さん?」
「申し遅れた。自分は七瀬春夏の父、
「へ? あ。はい。こちらこそよろしくお願いします?」
混乱する中、とりあえずは挨拶を済ます。
「お父さんはプロの料理人だからね。お母さんは経営者だけど」
「そうなんだ。え! じゃあ、俺は七瀬父にあ~んしてもらったのか!?」
「そうなるね!」
なんで嬉しそうなんだよ七瀬。父は父で複雑そうな顔しているし!
「それでお父さんは赤羽くんに何を話していたの?」
「ああ。これからもバイトを続けて欲しい。それから、お前との結婚について話したいのだが……。ちょうどいい! お前も座って聞きなさい」
七瀬父は七瀬を隣の椅子に座るよう促す。
……うん? 待って。色々とおかしかったような。
「待ってください! 俺は結婚も、バイトもしませんよ!?」
「そう言わずに」
まあまあ、と宥めるように言う七瀬父。
「いやいや! 俺にだって人生設計くらいありますよ! 夢とかもありますし!」
本当はないけどね! 単純にこれ以上、露出狂と関わりたくないんだけどね!
「いや、でも。ほら! 春夏って性格はともかく、ひいき目抜きに見た目はいいでしょ!」
「それは……そうですが」
というか、七瀬父よ。本当にそれでいいのか? なにげに七瀬の性格を否定しているぞ。
当の本人はスカートの端をチラチラと上げて、その中を見せようとしているが。
「でも、俺には夢があるんです! そのためにはもっと勉強しないといけないんです!」
「ほう。でもその夢もすぐに潰えるよ。現実はそう甘くない。どんな職業にも表があれば裏がある。どんなに華やかな職に就いても、結局は地獄を見ることになるのさ。どこもかしこも癒着ばかりで、まともに働けもしない」
なんですかね。この状況。
隣で性癖を晒す女子と、現代社会の闇を語るその父。
そして、友だちかも怪しい俺。
ひとしきり、この社会の闇を語り終えた七瀬父は嘆息し、俺に連絡先を教えてくれた。
「もしお金で困ったことがあれば、連絡してくれ。何なら、就職してくれてもいいんだよ?」
「い、いえ。しっかりと考えてから決めたいので」
父の圧に負け、萎縮する。
「帰り送っていくよ。もう遅いし」
「いや。それだと七瀬の帰りが一人になるだろ。そっちの方が危ない」
こんなこともあろうかと、ちゃんと前もって言葉を考えておいた。
少女マンガは本当に参考になる。
「げへへへへへ! 何それ! かっこつけているの?」
七瀬は文字通り腹を抱えて笑う。
あれ? このセリフっておかしいのか?
俺のようなイケメンに言われたら、いいんじゃないの?
「はーあ! まだ六時だし、大丈夫だよ」
「うっ」
時計を見ると確かに六時だ。高校生にしてはまだ出かけていてもおかしくないのだろう。
「分かった。分かったよ」
不本意ながら七瀬に送ってもらうハメになった。
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