ゴールに向かって
琳
第1話 風になりたい
―――
あの人を初めて見たのは、ちょうど一年前の全国高等学校陸上競技会。私は同じクラスの友達に誘われて陸上競技場に足を踏み入れた。応援席から見る景色は雄大で、どこまでも続いているように見えた。
スタートの合図で選手が一斉に走り出す。応援席の中で一番ゴールに近い所にいた私は、誰よりも早くゴールした彼を見て奇跡を感じた。
たった200メートルに全てを懸けた、彼の生き様を見た気がした……
―――
あれから一年が経った今、私はあの時の彼と同じ場所に立っている。
「美紀。頑張れよ。」
陸上部の部長の三島先輩が私の肩をポンと軽く叩く。
「はい。」
私は緊張しながらスタートラインに立った。
「わぁっ……」
思わず声を上げた。一年前応援席から見た景色とは違い、とても言葉では言い表せない迫力があった。ゴールは遥か遠くにあるように見え、永遠に辿り着けないような錯覚を覚えた。
「位置について。」
スターターの声で我に返る。そうだ。私は今、
「用意!パーーン!!」
スタートの合図と共に私は走り出した。
200メートルのゴールの先に彼の姿を追い求めて。
―――
私が高校に入って陸上部に入部したきっかけは、一年前の陸上競技会で風を切りながら気持ち良さそうに走る彼を見て、その姿に憧れたからだ。
「え!?辞めたんですか?」
一年遅れて彼の高校に入った時、彼は既に高校の陸上会から姿を消していた。
「あぁ。新井の奴、足に怪我してさ、それっきりだ。学校にも来てないんじゃない?」
「そんな……」
陸上部の部長にそう言われ茫然とした。彼に会う為にこの高校受験して陸上部にも入ろうって決めてたのに……
「そうですか。それじゃあ……」
「ちょっと待った!」
「え?」
帰ろうとした私の手を掴んで、その人は満面の笑みでこう言った。
「君、陸上部に入らない?」
「……はぁ……」
断るに断り切れなくて結局彼のいない陸上部に入部した。
―――
「一着。北陸高校、水尾美紀さん。」
アナウンスの声で私は初めてゴールした事に気づいた。
「美紀!やったな!」
ボーッとしている私に三島先輩が駆け寄ってきて笑いかける。それでも私は自分の名前が表示されている電光掲示板を信じられない気持ちで見ていた。
そういえば一年前彼の名前を知ったのも、この掲示板だったなぁと考えていた。
「おい!美紀?」
「……え?あ、はい。」
「何ボーッとしてんだ。嬉しくないのか?一着だぞ?」
「あ……」
先輩にそう言われ我に返る。私は照れながら頭をかいた。
「はい、嬉しいです。」
彼に追いつけたような気がした。あの時の彼と同じように、誰よりも早く一番でゴールして風になったような気がした。
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