女神驚愕! ~二階堂トオル編~ ③-⑤
確か僕は夜の学校にいたはずなのに、いつの間にか自宅のベッドの上だった。
昨夜の出来事は夢だったのだろうか。
はちゃめちゃだったけど、楽しくて、なんだか心が救われた夢だった。
「トオル、何しているの? 早く起きてきなさい」
お母さんに呼ばれたので、急いで支度をしていると、机の上に昨日のテストの答案があった。
そういえば、一問だけ解答欄が空欄の場所があったはず――。
「解答、してある……?」
可愛らしい文字で書かれた文字を読んで、やっぱりあれは夢じゃなかったと実感した。
普通なら、こんな意味不明な問題を解くことは不可能だからだ。
「ありがとう、花子さん。おかげで頑張れそうです」
まずは、ちゃんとお母さんと話すところから始めてみよう。
小さくお礼を言うと、僕を急かすお母さんが待つリビングへと急いだ。
問:10 このテストを作った人物の気持ちを答えなさい。
解:トオル君が挫けることなく歩くことが出来ますように。
◆
「よし、それじゃテスト返していくぞ。順番に取りに来ーい」
僕はこの時間が嫌いだった。
一喜一憂しているクラスメイトを尻目に、今回は自信満々に担任の先生の元へテストの答案を貰いに行く。
「よくやった二階堂。百点満点だ」
点数を公表された途端、クラスメイトから羨望の声が上がった。
「やっぱすげーなトオル! 満点とかやるじゃん!」
「前まで暗い顔してたけど、なんか最近のトオル君って変わったよねー」
何かあったの、って顔で迫るクラスメイトに、照れながら答える。
「トイレの花子さんに、元気を貰ったんだ」
クラスメイトはおろか、担任の先生からも心配そうな顔をされたのは言うまでもない。
◆
あれからしばらく経った日の放課後、花子さんに一言お礼が言いたくて、校庭の端で独特の存在感を放つ小さな社の前にやってきた。
いつしか見かけた時は宙に浮いていたので、もしかしたらと見上げてみたけど、目に映ったのは突き抜けるような青空だけだった。
「もう会えないのかな」
まだまだ話したいことがたくさんあるのに、伝えることの出来ない悲しさが胸に募る。
でも、きっとこれは普通のことなんだ。
花子さんは僕が百点取れるまでの先生だったから、テストで百点を取った瞬間に、僕は彼女の元を卒業したということだ。
先生はいつまでも生徒のそばにい続けることは出来ないと彼女は言っていた。
でも、今の僕が元気にやっているって報告くらいはしてもいいよね。
ぱんぱん、と手を叩いて手を合わせると、この前の出来事を話し始める。
「花子さんのおかげで、お母さんとの関係がちょっと良くなりました。まだぎこちない感じもあるけど、ちゃんと自分の気持ちを話す事が出来てよかったです」
自分がいくらきつくても苦労をおくびにも出さない上に、何も言わずに手本であろうと行動する。
僕のお母さんは、武士みたいな人だ。
でも、今は令和という時代で、江戸ではない。
不言実行や武士は食わねど高楊枝なんて行動はしなくていいんだ。
ツラいときはツラいと、こうあってほしいと思うならしっかりと口に出してほしい。
「子供でも、僕だって男だから、いざと言う時はお母さんを護るくらいはできるんだしね」
僕の家庭に父親はいない。
僕の幼い頃に交通事故で亡くなったという話は聞き及んでいる。
元々厳しさを以て愛と成す性格なのに、父親という役割すらもこなそうとした結果がかつての状態だとしたら、きっとその事も原因があるのかもしれない。
僕が無理に頑張っていたのは、知らず知らずのうちに親のそんな苦労を感じ取っていて、早く立派になりたいという焦りがあったと思う。
まったく、親子そろって不器用だ。
「そういえば、僕の将来の夢が決まりましたよ」
今日はこのことを報告したかったんだ。
「僕、先生になります。お母さんみたいに厳しく、花子さんみたいに優しい先生に。きっと、なれますよね」
突如、社から吹き荒れた突風に、思わず顔を覆った。
わずか数秒ほどの出来事だったろうか、顔を戻すとそこにはかつてのテスト用紙が。
「やっぱり、先生には敵わないな」
最後の謎だった問題の解答欄に追記がされているのを見て、先生らしいなって思わず笑ってしまった。
「それじゃ、また来ます。今度は、立派な先生になってから」
後ろで僕を呼ぶお母さんの声がしたので、一言残してから社を後にした。
僕の頭上には、一番星がしっかりと輝いていた。
問:10 このテストを作った人物の気持ちを答えなさい。
解:トオル君が挫けることなく歩くことが出来ますように。
君ならなれるよ、がんばれ!!
◆
とある学校の七不思議のひとつに、こんな不思議なものがある。
悩みを持った生徒が学校の校庭にある小さな祠に悩みを打ち明けると、どこからともなく謎のお姉さんが現れて、悩みが解決できるよう後押ししてくれるというものだ。
トイレの花子さんではない、一風変わったその怪談の名前は――『社の梨子さん』と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます