受験に失敗した私は、今度こそ合格するために女神様代行を頑張ります!

奈良みそ煮

女神代行! ~滑川梨子編~ ①-① 


「受験票よし、筆記用具よし、お弁当よし、お守り………ヨシ! っと」


 目覚ましが鳴るより10分早く目が覚め、ぬくぬくといい具合に温まっている布団の誘惑を振り切った私は、今日持っていく荷物を確認していた。

 

 前日からしっかりと準備はしておいたけれど、忘れ物がないか再度確認。


 うん、大丈夫!


 今日は第一志望の大学の入試日、私の夢への第一歩を歩む前の第一関門だ。


 緊張もあるけれど、見知らぬ土地へ旅行へ行くかのようなわくわくで思わず頬が緩んでしまう。


 いかんいかんと頭を振って、学生の戦装束である制服に着替え、部屋の窓を思い切り開け放つと、厳寒の風が私の身に喝を入れてくれた。


 いい感じに引き締まった気持ちで朝食と身支度を済ませ、全ての準備が整った。


「それじゃ、行ってきまー……おっとと、忘れてた」


 いけない、一番大事なことを忘れていた。


 履いていた靴を乱暴に脱ぎ捨ててリビングにある神棚の前まで戻ると、静かに手を合わせて心を無にお参りをする。


「今日はよろしくお願いします……」


 我が家の守り神だそうで、父親が言うには学問の女神様が奉られているそうだ。

 

 本当かどうかは知らないけれど、父親が学生時代にもお世話になったらしく、父曰く「我が家の家系は一度も受験に失敗したことがない」とのこと。

 

 それならば、お参りしておいて損はないはずだ。


 もちろん、このジンクスにあぐらをかくことなく勉強は続けたつもりだし、これで不安は何一つなくなった。


「それじゃ改めて、行ってきまーす!」


 元気よく家を飛び出した私は、気持ちのいい朝日を目いっぱい浴びながら、いつものバス停まで駆け抜けていった。





「とまぁ、ここまでが貴女が死んじゃうまでのダイジェストですけど……。何か質問あります……?」

 

 目を開ければそこは、天界だった。


「あのー、それじゃ、一ついいですか?」


 私に相対する女神様は、どうぞ、と頷く。


「どうして私、死んじゃったんでしょうか」

「えー、簡単に説明すると、家を出て数歩で横から走ってきたトラックに追突されて即死、ですね……」

「そうじゃなくて!」


 凄まじい剣幕にびくっとなる女神様。


「私の家って閑静な住宅地ですよ? 暴走トラックが走る場所でもなければそもそもそんな幅ないし! これって嘘ですよね? 夢なんですよね?」

「…………おー、まい、ごっど」

「いやあああぁぁぁぁぁ!!!」


 生と死は平等だとか分からなくもないけど、よりにもよって何で今日なの? 


 せっかくこれからだっていうのに――理不尽だ!


「帰してよ! 今すぐ帰してください!!」


 勢いよく女神様に詰め寄り胸倉をつかんで揺さぶると、薄幸そうな女神様は耐え切れずにおうおう言いながら、


「お、落ち着いてください。今戻ると、その……。モツ的なもの、めっちゃ出てますし、ちょっと……」

「あああぁぁぁ、はなのじぇいけーにぃ、なんてことをぉぉぉ……」


 たまらずその場に崩れ落ち、泣き叫ぶ私。


「その、仕方がなかったのですよ……。だって……」


 何やら女神様が言い訳をしたいみたいなので、とりあえず聞いてやることにする。


「実を言うと、貴女はこのままだと受験に失敗してしまうのでして……」

「…………えっ」


 それが今回の事と何が関係するのだろうか。


「私、こう見えても学問の女神でして。担当部署は受験課なのですが、貴女の家の守護も担当しているのですよ……」

「はぁ、それで……?」


 えらく会社じみた組織っぽいなと思ったのは口にしない。


「学問の女神なのに、守護する者が受験に失敗するなんて、沽券に関わるではないですか……」

「……もしかして」


 答えが見えてきたけれど、女神の口から聞くことにしよう。


「ええ。つまり、受験に失敗した者がいなければ、受験成功率100%ではないですか。ですから……」

「…………私は殺されたのか……」


 一度も受験に失敗したことがない家系ってつまり、受験に失敗する人間を間引いていたということである。


 確かにそれなら合格率十割も納得ねっ☆


「って、納得いくかあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ひえぇぇ、お、おちついて、ひゃあああっ」

「私の人生返せえぇぇ!」


 神の横暴じゃないの! 


 私の頑張りは何だったというわけ!

 

 しかも、その理屈だと私以外にも犠牲者がいるということじゃない! 


「なにが学問の女神様だこの邪神め!!」

「あ、あの、勘違いしているようですけれど……」

「何よ!!」

「私、後にも先にも貴女しか手をかけて、ない、ので……」

「ちくしょうめっ!!!」


 今にも消え入りそうな喋り方しやがって、やることが最低すぎる!


「あの、あの、まだお話が、話の続きを聞いてください……」


 このまま揺さぶり続けたら脳震とうでぶっ倒れそうな女神が、弱弱しく私に説得を始めた。


「やむにやまれぬ事情が、あるのですが……。確かに、非道な行いであったことは認めます。すみませんでした……」

「謝って済むなら警察いらないんですけど?」


 私の高圧的な態度に、目をうるわせて泣きそうになりながらも続ける女神。


「それで、提案なのですが……」

「人生をやり直すの?」

「いえ、それは無理なので……」


 あぁん?(ギロッ!)


「ううぅ……、私の代わりに、神様を、やってみませんか……?」

「…………神様? 私が?」


 意外な提案に、怒りも忘れて拍子抜けしてしまった。

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