第53話 不変
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「久しぶりだね、大翔君」
「・・・え?」
笑顔で挨拶をしてくる人物を見て、目を疑った。てっきり藤咲さんが来るものだと思っていた分、余計に目の前の光景が信じられなかった。
「もう、どうしたの大翔君。もしかして私のこと忘れちゃったのかな」
「い、いえ。そんなことありません。久しぶりですね、優佳さん」
「よかった。覚えててくれたんだね。あー、そうだった。今更だけど、急に来ちゃってごめんね」
「全然、大丈夫ですよ」
久しぶりに会った優佳さんは、最後に会ったときとなにも変わっていなかった。可愛らしい笑顔も、優しい雰囲気も、何も変わっていなかった。
だけど、今は何も変わっていないことが怖かった。
どうして?どうして優佳さんは、今までと何も変わっていないの?
優佳さんは美零さんの親友だ。そんな優佳さんが、俺と美零さんの関係を知らないはずがない。それにも関わらず、優佳さんは何も変わっていなかった。
それと、気になることが2つ。どうして優佳さんがここに来たのか。どうしてこの場所に俺がいることを知っていたのか。
「そうだ、大翔君。久しぶりに会ったんだし、お茶でも飲んで、少し話しをしようよ」
「はい。そうしましょう」
「よーし」
そういって優佳さんは、持ってきたバックの中からお茶菓子を取り出し、机の上に広げた。
やっぱり、優佳さんは美零さんのことを話しに来たんだよな。というか、それ以外に考えられないしな。予想外だったけど、覚悟を決めないといけないみたいだな。
俺がこれまで美零さんに対してやってきたことを否定されても、糾弾されようと、自分の行動は正しかったんだと、優佳さんに証明するんだ。
「よし、準備もできたね」
「はい」
「堅苦しいなー。久しぶりだから緊張してるのかな?前はもっと親しい感じだったのに、もっとリラックスしていこ」
「うん...そうだね。こんなとこにずっといたから、特に何も起きなっかたけど、久しぶりに優佳さんに会えたんだし、楽しまないとね」
優佳さんは俺に気を使ってか、口調も優しく、笑顔で話しかけてくる。そのおかげで、優佳さんの言葉通りリラックスすることができた。
ああ、やっぱり優佳さんは優しい人だな。そういえば、初めて会った時もこんなようなことを思っていた気がするな。明るく、丁寧で、常に周りを気遣っている。そんな、優しい人だと。
優佳さんと初めて会ってからまだ1年もたってないのに、こんなにも心を許せるのは、優佳さんの明るく優しい性格のおかげなんだろう。
そんな優佳さんだからこそ、親友の美零さんに、悲しい思いをさせるようなやつがいれば、絶対に許さないはずだ。
「そういえば、大翔君は2年生になったんだよね。勉強にはついていけそうかな」
「んー、どうかな。っていうか、結構心配してるんだから思い出させないでよ」
「思い出させちゃってごめんね。お詫びにわからないことがあったら何でも聞いてね。教えてあげるから」
「優佳さんって頭良かったんだ。知らなかった」
「それってどういうことかなー?」
いつ美零さんのことを聞いてくるのかと、初めは緊張していたが、その緊張も優佳さんのおかげでだんだんと溶けて行った。
今までは何とも思っていなかった、何気ない会話がとても楽しく、話し始めたら止まらなかった。
優佳さんの話が面白いのと、聞き上手なのに加え、最近では話し相手が藤咲さんしかいなかったこともあって、優佳さんとの会話がとても新鮮に感じられた。
誰かとこんなに会話したのも、こんなに笑ったのも本当に久ぶりだった。
気が付くと、話し始めてから1時間近くたっていた。本当に楽しい。何もかも忘れて、優佳さんと話すことしか頭になかった。
しかし、話をしている途中で思い出した。自分がはじめ、なぜ緊張していたのか。
そして、そのことを思い出したと同時に気が付いた。1時間近く話をしているのにも関わらず、美零さんの名前が一度も出ていない。
どうして今まで気が付かなかったんだ。優佳さんと俺の共通の知り合いは美零さんしかいない。普通なら、美零さんの話も出てくるだろう。それなのに、美零さんの名前が出てこないのはおかしい。
俺の方から美零さんの名前を出す気はない。だから、優佳さんがいつ美零さんの話をしてくるのかがわからずに、緊張していた。
しかし、今のところ優佳さんから美零さんの話をしてくる気配はない。
あと30分ほどで面会時間が終了する。このままいくと、優佳さんは本当にただ話をしに来ただけになる。時間が経つにつれ、そわそわしてくる。
「ん?どうしたの、大翔君。さっきから心ここにあらずって感じだけど・・・ああ、もうこんな時間か」
「い、いや。ただ、時間大丈夫なのかなって」
「ん、そうだね。あんまり時間はないけど、もう少しだけ話をしよっか」
「...うん」
時計を確認した優佳さんが、こちらに振り向くと、今までの笑顔から真剣な表情に変わっていた。
ついにこの時が来たか。だけど、初めから覚悟していたことだ。このことは、どうあっても避けることはできない。
何を言ってくるのかと、身構えていると、優佳さんは何も言わずに、ただ、こちらを見つめてきた。じっと見つめられ、気まずさを感じる。それでも、その視線に悪意は感じられなかった。
「やっぱり、二人は似てるね」
「え?二人って誰のこと」
「大翔君と美零のことだよ」
「そう、なんだ...」
優佳さんの言葉は真剣なものだったが、その中に、優しさも感じられた。だからだろう、こんなにも自然体でいられるのは。
「ふふっ、そういうところだよ」
「俺と、美零さんが」
「そう。似てるんだよ。だからね、私は二人の考えてることがなんとなくわかっちゃうんだ」
【あとがき】
前回の更新からかなり時間が経ってしまいました。本当にすいません。失踪しないと言っておきながら、約束を破ったなと思った方もいらっしゃると思いますが、もう一度言います。途中でやめることは絶対にしません。
今回のように、心配をかけるようなこともなくしていきたいと思います。
話のほうは、中途半端なところで終わってしまってしまいました。すいません。いろいろ考えたのですが、結局こんなところで切ってしまいました(笑)
コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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