第52話 新学期
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「やっと終わったー」
最近は、一日が過ぎるの早いな。今日はいろいろ提出物が多くて、それを片付けるのがほんとにかなりの時間がかかったな。
つい先日、春休みが終わった。そして、新学期が始まり、俺は2年生になった。
クラスメイトには、蒼汰やそのほかにも知り合いがたくさんいたので、ひとまずは安心することができた。それに、担任の先生は今年も山内先生だという。とりあえず、クラスの方は心配いらないだろう。
「やっぱり、問題は...」
正直に言うと、どんなクラスあろうと、どうでもよかった。というより、そんな小さな問題、今は考えてられない。
提出物を片付けるのに一日かかってしまったのは、その問題、美零さんのことを考えていたからだ。
今も美零さんが送ってくれたメッセージを見て、涙が出そうになる。
毎日だ。返信をしなくなってからも、美零さんは毎日欠かさずにメールを送ってきてくれる。それが、嬉しくもあり、悲しくもある。
こんなことをしているのに、それでもまだ美零さんは、俺のことを心配してくれている。
どうして?こんな対応をされたら、そんな奴のことなど、すぐに見放すのが普通だろう。
なのに、美零さんはどうして俺のことを見捨ててくれないんだ。
今まで、美零さんが俺のことを見捨てるよう、忘れるように、親や藤咲さんに頼んで部屋を変えた。毎日送ってくれるメールに返信しなかった。病院に来てくれていることをわかっていても、俺は美零さんから逃げ続けた。
それも全部、美零さんのために。
牧原さんから渡された封筒の中には、初めて美零さんがお見舞いに来てくれた時に、美零さんが忘れて行った雑誌と、牧原さんの電話番号が書かれた紙が入っていた。
あの雑誌にはよく見覚えのある人物。美零さんと、優佳さんが載っていた。それはなぜか、二人がモデルの仕事をしているからだった。
しかし、その雑誌を見たとき、そこまで大きな驚きはなかった。初めて会った時から、二人は可愛くて、一般人とは少し違うオーラを放っていた。だから、すぐに納得することができた。
ただ一つ、美零さんと優佳さんがそのことをなぜ自分に言ってくれなかったのか。その時は、悲しい気持ちになった。
しかし、あとになって考えてみると、芸能人が正体を隠すように、自分がモデルだということを隠すことがあってもおかしくはない。
そう自分に言い聞かせることで、気持ちを抑えていた。
その後、ネットで調べてみると、高校入学前、街を歩いていた際に、スカウトされ、初めて雑誌に掲載されたときにその写真がネットに拡散され、反響を呼び、それから多くの雑誌に載るようになった。そして、今も人気が上昇中だと。二人ともほとんど同じことが書いてあった。
そしてその時、牧原さんが自分に伝えたかったことが、なんとなくわかった気がした。
使うことはないだろうと思っていた紙をみて、牧原さんに電話をした。そして、あなたが伝えたかったことは、これ以上美零さんの邪魔をするなということか?と確認すると、はい。と返ってきた。
はじめは納得できなかった。だけど、美零さんのことを考えると、確かに俺の存在は邪魔なものなのだろう。
二人にとって今はとても大切な時期なのだろう。そんなときに、美零さんは毎日俺なんかのお見舞いに来ている。
監視役、つまり牧原さんは美零さんのマネージャーなのだろう。そんなこと、マネージャーが許すわけがないだろう。
美零さんはああ見えて、一度決めたことは最後まで突き通す人だ。そんな美零さんに、牧原さんが病院に行くのをやめろと言っても、美零さんは聞かないだろう。
だから、牧原さんは美零さんにではなく、直接俺に伝えに来たのだろう。
そして、その時に俺は決めた。
もう二度と美零さんに合わない。美零さんのために。
本当に突然のお別れだったな。でも、最後にもう一度美零さんに会いたかった。
明日で最後、もう一度だけ美零さんに会って話をしたい。だけど、そんな気持ちではこれから先も、ずるずると、そのまま中途半端になってしまうに決まっている。
だから、美零さんに会わないと決めたときから、偶然でも美零さんに会わないように、移動の際は、藤咲さんに協力してもらった。
藤咲さんに協力してもらうようお願いをして、その理由を伝えたとき、藤咲さんも初めは、本当にそれが君の願いなの?と何度も聞いてきた。それでも、俺の意志の固さを感じたのだろう。最終的には俺に協力してくれた。
藤咲さんから毎日のように、美零さんが病院に来ていた、という報告を受けた。そして、実際に病院から去っていく美零さんの後ろ姿を、何度か病室の窓から見たこともある。そのたびに、涙を流し、聞こえるはずがないとわかってはいながらも、病室から謝り続けた。
今が美零さんにとってどれだけ大切な時期なのか、わかっている。俺の存在は美零さんにとって邪魔でしかない。絶対に美零さんの足かせにはなりたくない。だから決めたんだ。もう、会わないと。
本当は、今すぐにでも美零さんに会って話をしたい。そして、ごめんなさい。と伝えたい。
本当は、今までのような関係に戻りたい。だけど、これまで俺は、美零さんにひどいことをたくさんしてきた。だから、その願いはもう叶わない。
これは全部美零さんのためなんだ。そう、自分に言い聞かせ、これ以上美零さんのことを考えないようにする。
「はあ、もう駄目だ。蒼汰に電話でもするか」
こんな時は馬鹿な仲間と話して、くだらないことで笑って、全てを忘れよう。
しかし、蒼汰に電話を掛けようとしたその時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はあ、また藤咲さんか」
また、とは言ったが、本当に藤咲さんには助けてもらっている。リハビリの時も、美零さんから隠れるときも、精神的にも。
藤咲さんは、以前よりも部屋に来る頻度が高くなった。それも、俺のことを心配してくれているからだろう。少しの時間でも、空いた時間を見つけたら部屋に来て、俺と話をしてくれる。本当に、感謝しかない。
「入っていいですよ」
今は、藤咲さんといつもみたいに話して、二人で笑おう。蒼汰に電話するのは、また今度にしよう。
そういえば、前に来た時に、母さんが藤咲さんの好きなお菓子を持ってきてくれてたな。いつもお世話になってるし、一緒に食べよっかな。
「藤咲さん。今日は藤咲さんの好きなおかしを―――」
「久しぶりだね、大翔君」
【あとがき】
一話から、少しづつ修正を入れてたので、投稿するのに、時間がかかってしまってすいませんでした。
そして、今回は、前回予告した大翔視点です。本当に久しぶりですね。久しぶりすぎて、大翔視点ってどうすればいいんだっけ?ってなってしまいました(笑)
コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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