第24話 覚悟
✤
振り返ってみると、そこには山内先生がいた。
「どうしてここに...ってそうですよね。先生も大翔君のお見舞いに来たんですよね。」
「今行ってきたところだ。一応あいつの担任兼顧問だからな。ていうかなんだよその口調は。どんどん堅苦しくなってるな。」
先生は笑いながらそんなことを言ってきたが、雰囲気はどこか重たく感じる。
「昔のことは忘れてください。それじゃあ、私もこれから大翔君の所に行くので。」
先生が大翔の担任だということは知らなかったが、美零と先生が知り合いだということは、先生が言っていない限り大翔も知らないはずだ。
話しているところを大翔に見られでもしたら、そこから少しづつこの関係が崩壊してしまうかもしれない。
そのため、美零はできるだけ早くこの場から離れようとした。
「冷たいな。久しぶりに会ったんだし、少しくらい話してかないか?」
「前にも言いましたよね。約束は守るって。それでいいじゃないですか。」
「天音が約束を破るとは俺も思ってない。そこんとこは信じてるよ。でも今はそうじゃなくて、もっと軽いつもりで誘ったんだよ。」
「・・・はあ。わかりました。でも遅れると大翔君に悪いんで、10分くらいしか時間は取れませんよ?」
「ああ。十分だよ。」
先生は最初、下の階にあるカフェに行こうと言ってきたが、それでは時間がかかりすぎるということで、大翔の病室から離れたところにあるベンチで話すことにした。
「コーヒーとオレンジジュースどっちがいい?」
先生は近くにあった自動販売機で買った飲み物を美零に差し出してきた。
「えっと、じゃあオレンジジュースで。あ、お金払います。」
「いいって。これくらい気にすんな。」
「・・・すいません。ありがとうございます。」
先生はジュースを渡して隣に座ってきた。なんだか気まずく感じ、美零が沈黙していると、先生が会話を切り出してきた。
「ほとんど毎日大翔のとこに行ってるんだってな。」
「最近はあんまり来れてなかったけど、まあ一応は。」
「あいつが天音のこと話すとき、いっつも嬉しそうにしてるから本当にありがとな。」
「大翔君に私のこと話したんですか!?」
すでに大翔は本当のことを知っているのではないかと、一瞬にして美零の顔が青白くなっていく。
「いや、俺からはなにも言ってない。なんとなく察して黙っといたよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
先生の言葉を聞いて安堵した美鈴は、青白くなった顔が徐々にいつも通りに戻っていく。
「あんまり詳しくはわからないけど、天音はあいつに何にも言ってなさそうだから、天音なりに何か考えがあるんだろ?」
「そんな大したことじゃないですよ。...ただ後に引けなくなっただけです。」
「後に引けなくなった、か。・・・天音はどうして大翔に自分のことを何も言わないんだ?」
「それは・・・」
「大翔だって馬鹿じゃない。いつか天音のことを知る日が来る。」
「...わかってます。いつか私の付いてきた嘘に、大翔君が気付く日が来ることくらい。」
そうだ、そんなことは初めからわかっていた。
ずっとこのままではいられない。いつか2人の関係は終わる。初めからその覚悟はできていた。
―――そのはずだった。
だがその覚悟も、大翔と毎日のように話すようになり、だんだんと2人の仲が良くなっていくにつれ、その覚悟は揺らいできた。
(今だけは、いつか大翔に嫌われるその時まではこの関係のままでいたい。)
そんな美零の甘い気持ちのせいで、大翔にはいまだに美零自身のことを何も言えないでいる。
「それが分かっててどうして本当のことを言わないんだ。」
「それは、、、あんな思いはもう2度としたくないからです。」
「・・・そうか。」
美零が自分の思いを訴えるように先生に言うと、今度こそ2人は沈黙してしまった。
2人とも無言のままの時間が過ぎていくと、急に先生が立ち上がった。
「結構話したし、俺はそろそろ部活に行くよ。」
「はい。」
「天音。」
先生が美零の前を通り過ぎたところで、先生はこちらに背を向けたまま声をかけてきた。
「どうしたんですか?」
「大翔は天音が思ってるよりも優しいやつだと思うぞ。」
「そんなこと...私もよく知ってます。」
大翔の優しさには美零もよく助けられている。だからこそ、今の関係のままでいたいと思ってしまう。
「あいつは天音のことを好いていると思う。天音のことを全て知った時もあいつは優しく受け入れてくれるとも思う。」
(好いている?そんなわけがない。こんな嘘つきを大翔君が好きになることも、受け入れてくれることもありえないだろう。)
「でも、あいつが受け入れたとしても、嘘をついていたという事実は消えない。それは、今まで築き上げてきた信頼を失うことになる。」
「・・・」
「信頼が無くなることの怖さは、天音もよくわかってるだろ?」
「・・・」
何も言い返すことができない。全部先生の言うとおりだった。
「まあそういうことだ。これからも大翔のことよろしくな。」
そういって今度こそ先生は帰って行った。
(あんなことを言っておいて、最後はよろしくなんて...私にそんな資格なんてないのに。)
美零は先生との会話が頭から離れず、しばらくその場から動けないでいた。
心を落ち着かせ大翔の病室に向かう時には、すでに予定していた時間よりも1時間ほど遅れていた。
【あとがき】
PV数が5000を突破しました!本当にありがとうございます!
引き続き、読者の皆様に楽しんでいただけるような作品を作っていきたいです。
今回の話は、この作品を作ろうとした時から考えていたことなので、やっと形にすることができてうれしいです。
前回のコメントで頂いたときに返信させていただいたのですが、美零と山内先生の関係を今回はほとんど触れることができませんでした。先に延ばしすぎだよ。と思っている方がいらしたらすいません!
ですが、いづれこの2人の関係も明らかになっていくので、その時まで待っていてくれると嬉しいです。
コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます