第9話 名前
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蒼汰たちが帰り、2人きりになった部屋には、少し気まずい雰囲気が漂っていた。
「あの、あいつらめんどくさかったですよね、本当にすいません」
「全然大丈夫ですから気にしないでください。むしろ内田さん以外の男の子と話したの久しぶりで楽しかったですし」
ひとまずは安心することができたがけど、名前の呼び方が昨日のメールの大翔君から、内田さんに戻ってる。少し落ち込むな。
さっきも1回大翔君って呼んでくれた気がするんだけどな。俺も蒼汰たちを見習って頑張って質問してみよっかな。
「そういえば昨日メールしてきた時はいつもと口調が違ってましたよね」
「やっぱり変でしたか。その、さすがにメール上でもこんな口調だと堅苦しいかなと思って、高校生らしい感じで送ったんですけど、やっぱり変でしたよね」
伝えたいことと、違う意味で受け取ってしまった天音さんは、少しシュンとしてしまった。違う!俺が言ったことは、そういう意味じゃないんだ!
「そういう意味じゃないです。いや、逆にいつもが他人行儀過ぎて、昨日のメールが新鮮で嬉しかったです」
「そういうことでしたか。えっと、内田さんは昨日のメールみたいなほうがいいですか」
「はい。そもそも天音さんの方が年上なのに、俺に敬語使ってるのがずっと気になってて」
「わかりました。最初のうちはごちゃまぜになっちゃうかもしれないけど、頑張って直していきます」
とりあえずは敬語ではなくなったらしいが、一番大事な内田さんが直ってない。
最後の一押しだ。今日のうちに内田さんから大翔君にレベルアップして見せる!
「ありがとうございます。あの、もう1個お願いしていいですか」
「私にできることならなんでも...い、いいよ!」
「・・・」
「やっぱりいきなりは変でしたか。嫌だったら今まで通りに直しますけど...」
口調を変えてくれといったのはこっちの方だけど、距離が一気に近づいた気がして、うれしさのあまり固まってしまった。それに頑張って直してる感じがすごくいい。
「いや、このままでお願いします。心の準備ができてなかっただけで、もう大丈夫です」
「そうですか。そういえば、さっきのお願いってなんですか」
「もう1つもすごい自分勝手なお願いなんですけど、いつも俺のこと内田さんって呼んでますけど、昨日のメールの時みたいに大翔って呼んでくれませんか」
「えっと、私が言うのもおかしいと思うけど、さすがに命の恩人を呼び捨てにするのはどうかと...」
「せっかく敬語が直ったのに内田さんっていうのは、というか、俺がそう呼ばれたいだけっていうだけなんですけど」
「でも急に呼び捨てっていうのはちょっと、それに昨日のメールは君が付いてた気が...」
「なら君が付いててもいいです!大翔君はどうですか」
「それならいいかな?あ、なら私からもお願いしてもいいかな」
前も言ったけど上目遣いは反則です。失神しちゃいます。
「天音さんのお願いなら何でも聞きますよ」
「私は敬語と内田さんって呼び方をやめるから、大翔君も敬語と天音さんって呼び方変えるっていうのはどうかな」
それは考えてなかった。天音さん呼びを辞めるってことは美零か。でもいきなり呼び捨てはかなり難しい気がする。さっきの天音さんの気持ちがすごい分かる。
「天音さんから変えるなら何て呼べばいいですか」
「えーと、美零?とかかな」
「年上の人をいきなり呼び捨てはさすがに」
「ちゃん付けとかかな」
「俺が言うとちゃん付けってなんか気持ち悪いと思いますけど」
「大翔君が嫌なら、あとは・・・美零さん?」
「それでいきましょう」
ノリで言ってしまったが、女性経験0のの大翔には美零さんでもだいぶきつい。
「じゃあそれで決定だね。あと、さっきから敬語直ってないよ」
「わかりました。頑張ります」
「ふふ。全然直ってないよ」
「今日は慣れるための練習みたいなものだから、次に来てくれた時からが本番です」
やばい。ただ話してるだけなのにすごい楽しい。
「そうだ、近所の人からすごいおいしそうなお菓子もらったから、持ってきたんだけど一緒に食べない」
「いいんですか。昨日持ってきてもらったのもまだまだ余ってるのに」
「全然いいよ。量が多いからどっちみち1人じゃ食べれないと思うし」
「それならよろこんで!」
美零さんが持ってきてくれたお菓子は包装を見ただけでも、高級だとわかるようなものだった。中身を空けてみると、確かに1人で食べきるのは難しいと思うほどの量があった。
昨日より距離感が近くなった美零さんと、お菓子を食べながら話していると、あっという間に時間が過ぎていった。
「そろそろ帰るね。今日も楽しかったよ」
話している間に、美零さんはため口で話すことにだいぶ慣れてきていた。俺の方はまったく直っていなかったが。美零さんはあんまりそのことについて言ってこないから、敬語でも大丈夫かな。
「俺もすごい楽しかったです」
「また敬語になってるよ。大翔君も早く慣れてよね」
「だから今日は練習って言いいましたよね。明日からは完璧です」
「ほんとに?じゃあ明日楽しみにしてるよ」
「楽しみにしててください」
美零さんが帰るので、ドアの見える位置まで移動する。すると美零さんがドアを開ける前に、こちらに振りむいた。
「あの、大翔君。結構頑張ってたんだけど、私のため口変じゃなかったかな」
ドアの前は電気をつけていないので、少し暗くて顔がよく見えないが、若干美零さんの顔が赤くなっている気がする。
え、美零さん照れてるのかな。いつもと違ってなんかエロい。
「ふ、普通だったと思いますけど、何なら俺の方が不自然だったくらいだし」
「そっか、ならよかった。また明日ね、大翔君」
美零さんが出て行ったあとも、しばらくさっきの美零さんの表情が忘れられなかった。
【あとがき】
今回から2人の会話は敬語ではなくなっていく予定なんですが、僕自身がもう大翔と美零の会話は敬語だという認識になってしまっているので、慣れるまでは、間違ってしまうことがあると思いますので、念入りに見返していきます(笑)コメント、フォロー待ってます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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