第3話 再会
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「あの、内田大翔さんですよね」
「は、はい。内田大翔です」
結局声を掛けられるのなら変な駆け引きをしなければよかったと後悔する。それに、若干声裏返ってしまったのが余計に恥ずかしい。
再び目の前に来た謎の女性は、明らかにおどおどしている大翔を見て少し困惑しているようだった。
「あ、あの...私のせいで内田さんに大怪我をさせてしまい、本当にすみませんでした!」
目の前の女性は突然そういって、とても丁寧に頭を下げた。緊張しているのか女性の声は少し震えているようだった。
私のせいということは駅で襲われていた女性だろうか。
昨日はしっかりと顔を見ることもできなかったが、昨日の女性とどことなく似ているような気がした。それに、言動からしてもそうである可能性が高いだろう。
「あ、あの、頭を上げてください。えーっと、お姉さんって昨日の、、、」
「はい。昨日、駅で内田さんに助けられた者です」
「やっぱり。本当に大したことしてないんで、この包帯も大袈裟にまいてるだけで全然大丈夫ですから、頭を上げてください」
それでも頭を上げようとしない彼女を見て、周りにいた人がざわざわしだしたのでいったん部屋に入ろうと言うと、すんなりと大翔の言葉に従ってくれた。
部屋に戻り自力でベットに戻った大翔は、心配そうにこちらを見ている彼女を改めてよく見てみた。
鎖骨の下ほどまでのばした綺麗な漆黒の黒髪、目鼻立ちがよく、全体的に整った顔立ちをしていて、白のニットに黒のロングスカートというシンプルさがスタイルの良さを強調している。
藤咲さんがあれだけ言っていたからどんな人かと思ったら、想像以上の美人さんが来て動揺してしまう。
「ずっと立ってるのも疲れると思うんで、適当に座ってください」
「い、いえ。私は立ったままでも全然大丈夫ですから、お気になさらず」
「遠慮なんてしなくていいですよ、疲れたらいつでも座ってください。あー、えっと.......」
「自己紹介が遅れました。
そういって天音さんは再び深々と頭を下げた。
「さっきも言いましたけどこの包帯もほんとうに大げさなだけなんで、本当に気にしないでください」
「大げさなんかじゃないです。全部私の責任ですから、私にできることなら何でもします」
「天音さんは全然悪くないです。悪いのは昨日の男と、上手く避けられなかった俺の方ですから」
「そんなことないです。内田さんに助けてもらわなかったら、私は生きてませんでしたから...」
本当に申し訳なさそうに謝罪している天音さんの目には、涙が浮かんでいた。
天音さんに泣かれると困る。女の子が泣いたときの対処法なんてもの大翔は知らない。
ここはどうにかして話を変えないと。
「そういえば、天音さん怪我してましたよね。天音さんの方は大丈夫ですか」
「私の怪我は浅かったので大丈夫です。本当に、内田さんのおかげで...」
再び天音さんが涙ぐんでしまった。話題を変えることには成功したが、根本的な解決にはならなかったようだ。
(そんな悲しそうな顔はしないでくれ。すごい悪いことをしている気になる)
「そ、そうですか、ならよかったです。そうだ、あの後どうなったか知ってますか。警察の人が来るの明日なんで、詳しいことわからないんですよね」
本当は親から大雑把な話を聞いているため、なんとなくはあの後なにがあったのかは知っていたが、共通の話題がこれしか見つからない。
こんな時に女性経験のなさを悔いることになるとは思わなかった。
それからしばらく、意識を失った後のことを聞いくことにした。
ときどき昨日のことを思い出してか少しだけ悲しそうに話す天音さんを見て、心が痛んだ。
天音さんが説明してくれたことと、大翔の両親から聞いた話は、だいたい同じようなものだった。
事故の後すぐに大翔は病院に送られた。事件を起こした男はというと警察に連れてかれ、今も取り調べが行われているらしい。
そして、天音さんは病院で腕の怪我を治療した後、軽く事情聴取をされたが、時間が遅かったこともあり、すぐに終わり、今日の午前中に本格的な事情聴取をされたらしい。
新たにわかったことは、昨日の夜に事情聴取が終わった天音さんと大翔の両親がこの病室で会っていたということだ。
そんなこと、両親からは何も聞いていない。あとでどんなことを話していたか電話で聞こうと決めた。
そして、天音さんについて分かったことといえば、大翔より一個上の高校二年生で、神奈川県の学校に通ってるというこうことくらいだ。
「そういえばこの花天音さんからもらったものって聞いたんですけど、わざわざありがとうございます」
「いえ、私にはこれくらいしかできませんから」
「そんな顔しないでください。綺麗な花のおかげでこの部屋の雰囲気もすごいよくなりましたし」
「気に入ってくれたなら私もうれしいで――あ、すいません。少し席外しでもいいですか」
携帯の着信音が部屋に響く。画面を見た天音さんは一瞬険しい顔になった後、大翔に礼をして部屋の外に出て行った。
あんなにかわいい人と長時間話したのは初めてだ。普通に話せてたか不安になる。
(電話の相手誰だろう。彼氏かな。天音さんくらいだったら彼氏の一人くらいいてもおかしくないけどなんかショックだな)
少しして天音さんは戻ってきたが、その顔は部屋を出る前より暗くなっていた。
「あの、すいません。この後用事があって、そろそろ出ないといけないんです」
「そうですか。遅れるといけませんから、これでお別れですね。今日は話せてよかったです。ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございした。そうだ。明日も来る予定なので、なにか欲しいものとかあったら買ってきますよ」
「明日も来てくれるんですか?うれしいですけどそんなに気を使わなくても大丈夫ですよ」
「絶対に来ます!私にできることはこれくらいしかないんで...」
「わ、わかりました。来ていただけるだけでうれしいんで、明日は楽しみに待ってますね」
「そうですか。では、今日はこれで失礼します」
天音さんのいなくなった部屋はとても寂しく感じた。ずいぶん長い間話してたので、気が付かないうちに疲れていたようで、少し寝ることにした。
すると、椅子の上に一冊の雑誌が置いてあることに気が付いた。
天音さんが来るまで雑誌なんてこの部屋にはなかったので、おそらく天音さんの忘れものだろう。明日も来ると言っていたし明日渡せばいいだろう。
天音さんがどんな雑誌を読んでいるか気になったが、見た感じ女性向けのファッション雑誌だったので、引き出しの中にしまって寝むることにした。
【あとがき】
次回から視点が変わりますって、2話のあとがきで書いたんですけど、今回は大翔視点だけでした。すいません(笑) 次回はちゃんと美零視点もありますので、次も読んでもらえると嬉しいです。コメント、フォロー待ってます!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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