第40話

《琴音視点》


 私は今一人でリビングに居て、先程のアイドルの一件をずっと考えてた。


「私にあって、拓人にないもの…か」


 私はちゃんとした夢があるし、今それに向かって頑張っているところだけど拓人にはそれがないらしい。

 やっぱり中学時代が関係してるのかな?


「拓人には笑っていて欲しいんだけど、現状のままだと難しいわね…」


 すると一件のメッセージが送られてきた。


『やっほー、琴音元気してる?』


 親友である美咲からだった、そういえば美咲の方はどうなんだろう?


「どうしたの美咲?」


『今から重大発表!私はひろくんと付き合うことになりました!』


 ひろくん…?えっと、誰のこと?

 彼女の悪い癖かどうかは知らないけど、時折こうしたあだ名でいう時があって、誰の事言ってるのか全く分からない時がある。


『あー、ひろくんって言うのは裕貴のことね』


 あー!拓人の友達の!…やっと思い出した。

 というか、あんだけ顔合わせる度に真っ赤になってたのに付き合えたんだ。


「おめでとう美咲、やっと想いが成就したわね?」


 お互いが親友である以上、少し嬉しかった。


『まあね、そういう琴音は?柴崎君とはどうなのさ?』


「美咲と一緒よ、今は彼の家に泊まってるけど」


『ほうほう、流石は琴音ですなぁ~?もうやることやってるんでしょ?』


 い、いきなり何言い出すのよこの子は?!

 まあ…キスぐらいならしたけど、ね?


『あ、そうそう、今からひろくんと一緒にそっち行っても良いかな?というかもう家の前まで来てるけど』


 私は部屋のカーテンを少しだけ開けると、家の前で公然といちゃいちゃしてるカップルが。

 すると同時に階段を慌てて下りる音が聞こえて


「はぁっ…裕貴らもう来てる?」


「え、今確認したら来て―って拓人?」


 拓人は頭を抱えていた。


「さっき裕貴からメッセでさ、ダブルデート行こうって」


 拓人も全く同じ案件だった、でも美咲はデートって言ってなかったような…?


「俺達が一緒ってこと、言ってないよね?」


「あっ…」


「琴音…?おい嘘だよな?」


 私はこの時気付いた、完全にやらかした




 ☆




「ねえねえ、ひろくん次どこ行く?」


「あっちの店行こうよ」


 目の前のバカップルに連れられて、結局ダブルデートに。

 そして拓人はというと…


「………」


 冷めた目でずっと私を睨んでくる、お互い手は握ってるけど


「さっきから悪かったって言ってるでしょ!だからー、そのー…」


「はぁ…琴音って意外と抜けてるというか、ポンコツっていうか…はぁ」


「なっ…!ほら、私たちも同じとこ行くわよ!」


 私は強引に引っ張って、バカップルの後を追う。

 というかポンコツって何よ!




 ☆




 そしてお昼、某ファストフード店に来て軽く腹ごしらえ。

 結局振り回された私たちは、あまり良い雰囲気とは言えずあの二人とは対称的な形になっていた。


「「………」」


 お互い無言で顔も合わせない、でもお互い何故か手は離さない。


「おーい拓人、いつまで意地張ってるんだ?」


「琴音はなんだかんだ言って…あいたっ!何するのよ!」


「…なんかムカつく事言いそうだったから」


 空いた手でポテトを摘まみ、拓人へ視線だけ向ける。

 拓人はずっと外の景色を眺めていた、そんな私はちょっと悲しくなった。


 拓人は外の景色を眺めながら、口を開いた。


「…あのさ、二人ってなんか夢ってある?」


「「夢?」」


「言いたくないなら良い、俺も無理に聞く気はないからさ」


 美咲は考えていたが、裕貴くんはほぼ即答に近かった。


「俺は公務員になりたい、上手くやれば安定出来るし」


「そう、裕貴らしいな」


「私は…学校の先生、かな?勉強とか教えるの好きだし」


 自然と私に視線が集まる、拓人はまだ外見てるけど


「私は……今はそういうの考えてないかな?」


 本当はちゃんとした夢はある、けどそれは言えない。

 それに選択肢や時間はまだある、慌てて決めるようなものじゃない。


「それに今はこうして好きな人と一緒に居られるだけで、私は満足してるから」


 拓人と一緒なら、もっとやりたいことあると思うし。

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