04話「BACK IN BLACK ~2030年~(後編)」
「……お待たせしました。申し訳ありません、少々ゴタゴタが、」
「ええ、わかってます……こちらこそ、ごめんなさい。タイミングが悪かったみたいですね」
ソファーに腰かけている人物と、近くの大理石の柱に背もたれている人物。
“修道服の女性”に、このように礼儀が求められる場であろうとも“パーカー一枚”とラフすぎる格好の少女。
「【
アスリィ・レベッカとプラグマだ。
「どう、お呼びすればよろしいでしょうか?」
「私の事は“ガトウ”で構いません」
アスリィの待つ対面へ、静かに彼も腰かけた。
「特に畏まる必要もありません。私には」
「では、ご希望通りに」
ガトウは対等な立場での会話を許した。
「……ココ、はお忙しいようで。私達を呼んだお方は?」
「そう手を離せる立場のお方ではありませんから」
彼女達を呼んだ人物はここにはいない。代わりの人物と共に、依頼の話を進めていく。
「【植物人間】……この国では“威扇”と名乗ってましたね」
例の殺し屋について、だ。
「会った事があるのですか? その人物と?」
「ええ、少し」
ニヤついた表情でアスリィが答える。
そう遠くない頃。数時間前とかなり短い期間に初対面を終えている。
「……天王様の命を狙う奴がいる」
“天王”。
依頼人、と思われる人物の名前をアスリィが告げる。
「私達の依頼は、その人物の暗殺……暗殺で済むかは分かりませんが。とにかく、手段を問わずに殺せと申していましたね」
依頼内容、確認を取っている。
「しかしまさか……殺し屋の界隈でも有名な、あの【植物人間】が相手とはね」
「その、口を挟むようで申し訳ないのですが……」
話の最中、ガトウは私情で問いを挟む。
「実をいうと、私は詳細を聞かされていないんです。天王様の命を狙うという“その殺し屋”の事を……」
「あら、そうでしたか。ココは結構立て込んでいるご様子で」
天王。この国を束ねる者。
それほどの立場の橋渡し役にさえも話が通り切っていない様子。アスリィはあまりにスカスカな内部事情に含み笑いを浮かべそうになった。
「……“【L】を持つ人間のみが、地を踏み続けることを許される”」
大理石の柱で背もたれているプラグマが不意に口を開いた。
「だけど、あの人物はそんな世の中になっても、この世界の一部であることを許されている……太古より、その存在を許され続けた生命。【植物】のようにね」
植物人間。あの殺し屋の存在は本来であれば“許されていない”ような言い方だ。
地球という世界に害を与えず、今もこの世界に恩恵を与えながらも、人間には“害”とも呼ばれたりもする【植物】。プラグマはそう例える。
「【L】の始まりの地。でございましたね、この地は」
アイドコノマチ。元より地名を持っていたこの場所に、新たな名を手に、生まれ変わった街。明らかに、数百年前の日本の文化を匂わせる、時代遅れの街。
だが、今となってはこの土地こそが日本の中心だ。
「我々、選ばれし人間のみが手にすることを許される超人の力」
アスリィは自身の胸に手を掲げ、己の存在を“特別視”する。
「【L】……愛を満たし、愛を施す。愛を受け、愛を与える。その身に愛を宿した者のみが手に入れられる不条理の力」
ガトウは己の掌を眺め、呟く。
「すべてはこの地で、数年前の”2030年”から始まった……」
恨めしいのか、それとも怯えているのか。
ガトウは震える手を見て口を噛みしめるのみだ。馬鹿正直に、露わにしている。
「【L】の保持者ですよね、貴方も」
何かを悟ったかのように、アスリィは掌を眺めるガトウを見た。
「この地を束ねる神聖なる五人、【五光】。フラクエン、ガトウ、シンリュウ、ウンゼン、スサミ……」
特別な存在らしきものを口にするアスリィ。その五つの単語の内の一つは……彼女の目の前にいる“我刀潔奈”の苗字だ。
「それほどの立場のお方です。相当な力をお持ちでしょう?」
「貴方達も、相応のものをお持ちと聞きます」
特別な存在。互いに三人の空気は微かな澱みを見せる。
「……そんな我々が総動員」
「ふふっ、手が焼けますね」
しかし、相手はそれほどの存在が“総動員”になって関わらなければならない相手。
【植物人間】。詳細も分からぬ謎多き殺し屋の存在に緊迫とした空気が流れる。
「明日にでも、地上へ降りていただきます。詳しい話は、下の使いのモノに」
「かしこまりました。若き【
アスリィが立ち上がると、それに合わせてプラグマも動き出す。
用件は伝え終え、橋渡しとなる男と邂逅したことで契約の再確認は完了した。
後は……依頼人の言う“障害”への対策を始めるのみ。
「植物人間」
詳しいスケジュールの伝達は後日。
「貴方は、どんな力をお持ちなの?」
その日の夜は、この城で用意された客間で過ごすことになる。豪勢な歓迎をアスリィとプラグマは受けることとなった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
同時刻、地上。
アイドコノマチから離れた山奥の地。騒ぎを終えた街の上空に城が飛ぶ。
「始まる、か」
そこは、廃墟としかいいようがない寺。
人が住めるような状態じゃない。アチコチに焦げた跡、ブチ開けられた穴。シロアリに貪られた木造の壁からは鼻をつまみたくなる匂いがする。
そんな廃墟を背に。
和装の羽織を身に包んだ、黒いスーツ姿にサングラスの男が佇んでいる。
「……俺も動くとする、か」
男は廃墟を立ち去っていく。
立ち去った地に残されるは……”仮面をつけた和装の処刑人の遺体”。
遺体は一人静かに黒く燃え盛り、その空に始まりの狼煙を上げるよう塵となった。
~NEXT PHASE...~
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