第11話 LOOPHOLE
武田
社会人として、何をするのも初めてとなる生活の中、ある事件に巻き込まれる優美。
🦇
社会人としての第一歩。
中学生ってキツイ…。
きっと私もそうだったに違いない。若い先生だと、ナメてかかっていた。
当たり前だ。拘束された生活の中で、新任教師の言う事なんて、私だって聞く耳を持たなかったものだ。
「はぁ。お腹すいたな…。」
あぁ…。考え事をしながら歩いていたから、コンビニに寄るのを忘れた。
「めんどうだけど、行くか。」
最近、独り言が増えた気がする。彼氏どころか、こっちには友達もいないからな。
私はアパートを出て、近くのコンビニへと向かう。時間は20:18。最近は中間試験の問題を作成しているので、帰宅時間も1時間ほど遅い。
さすがに毎日、コンビニのお弁当じゃ飽きるし、ファミレスとかに行こうかな。
携帯でマップを開き、ファミレスを検索する。
「
無理だぁ。それじゃラーメン屋だ。
「あった!」
トントン?
あぁ、豚骨ラーメンって意味のトントンかな? ここにしよう。美味しかったら、ラッキーだし。
マップのナビで、トントンに向かう私。 お? もうすぐだ! トントン拍子に向かっているな。トントンだけに…。なんちゃって。
角を曲がり、少し歩くと、看板が見えてきた。
『トントン』発見!
暖簾をくぐると、自動ドアが開く。店内に充満する豚骨特有の出汁の匂い…。
匂いきっつ!
私はカウンターに座り、メニューを見た。
うへー。すべてニンニク入りか…。
「いらっしゃいませ。ご注文が決まりましたらお呼びください。あと、ニンニク抜きもできます。安心して下さいね、武田先生。」
先生?
店員さんを見ると、私が受け持つクラスの生徒、
「赤城君! 君の家なの?」
私が驚いたように彼に聞くと、赤城君は、少し照れたように答えた。
「このお店って、父さんの実家でして。今週は両親とも東京に行っているので、爺ちゃんの家に泊まっているんですよ。なので爺ちゃんの手伝いです。」
「そうなの、赤城君は偉いのね。」
私が赤城君にそう言うと、彼は先ほどよりも照れた様子で、奥にきえて行った。
そして私が注文をしたのは普通の豚骨ラーメン。もちろんニンニク抜き。生徒から「先生、臭ーい!」と言われたら、この先『ニンニク先生』と呼ばれかねないからだ。
マジでそんな事になったら、生きていけない。などと考えていると。
「お待ちどうさまでした。」
そう言って顔を出したのはこのお店の店主で、赤城君の祖父。ラーメンを頼んだはずが、なぜか瓶ビールと餃子を持ってきた。
「すみません、他のお客さんの注文ではないでしょうか?」
「純がお世話になっている先生ですから。今回だけのサービスなので、お気になさらず。」
てか、餃子…。
「明日も学校でしょ? ニンニク抜きの餃子です。」
「いや、でも…。」
ニンニクは関係なく、食べきれないっす!
私の心の声を察してか、赤城君が私の隣に座り、祖父に言った。
「ジイちゃん、先生は女性だよー。こんなに食えんってー。だから半分くださいね、武田先生。」
笑顔で言う赤城君。
キャー! 赤城君、可愛いんだけど! ショタか!? 私はショタに目覚めたか!?
「ジイちゃん。あとはバアちゃんと2人で大丈夫でしょ? ワシ、先生に聞きたいことがあるから。」
赤城君はそう言って、私にビールを注いでくれた。
ヤバいヤバい! ここはホストか!? ショタホスト『トントン』か!?
あぁ、赤城君ありがとう。先生は只今、癒されモードに入りました。
うふ。
「先生、時間外なのにごめんなさい。ここがわからんとよ…。」
な、
「どこかな?」
へ? 二次関数って、今日の授業の? 私の教え方が下手なのかな…。
「ごめんね。先生の教え方が悪かったのかな…。」
「違う! 今日、小沢が屁ぇこいたでしょ? あれで授業どころじゃなくなったでしょー。」
そうだ! 言われてみれば! あんのクソガキ!
「そ、そうだったわね…。」
確かに、あの時、赤城君ともう1人、女子の誰かが「お前ら騒ぐなー!」と言っていたわね。
その後、私は食事をしながら、赤城君がわからないところを教えてあげた。
そう言えば赤城君。東京の高校を受験するって言っていたわね。もしかして、親の転勤かしら?
「赤城君は東京の高校を受験するんでしょ?」
「はい。住まいは多摩センター駅ってところなので、近くの都立高校にしようと思ってます。」
「あぁ。○○高校だったわね。赤城君の今の成績だったら問題はないわよ。」
「ありがとうございます。でも、人生には落とし穴だらけだ! とジイちゃんが言うので、受験が終わるまではしっかりやりたいと思います。」
もう、本当に良い子なんだから赤城君は…。先生は君を応援しちゃうぞ!
⭐︎
その後、私は赤城君の祖父母も交えて、閉店まで居座ってしまった。
赤城君の両親の話や、ここら辺にまつわる話。これがけっこう怖かった。
いわゆる心霊現象の多い地区らしい。マジで怖い…。
「先生、赤い目をした幼女には気をつけなさい。ありゃ血を吸う化け物だ。」
赤い目って! 恐いからマジでやめて!
私が恐怖から青ざめていると、赤城君の祖母が、私を安心させるような口調で話し始めた。
「先生、今は昔と違う。人の血よりも美味いものがたくさんある。安心しなさいねぇ。」
「安心って! やっぱり本当にいるんですか!?」
「あはは! 武田先生、大丈夫ですよ。途中までワシが送りますからぁ!」
赤城君が? 嬉しいけど…。
「先生。この子には神の
神の御子って、お爺さま? お爺さまも酔われたのですね。
🍜
そして『トントン』を出た帰り道。
「ちょっとプライベートなことを聞いてもいいかな?」
「はい。」
「赤城君は気になる女子はいるのかな?」
「先生〜。酔ってますねぇ?」
「ちょっとね。」
違うって。君のことが気になっちゃったんだよ…。教師として最低だな…。
「今は受験生ですから、恋愛は高校に入ってからでも遅くないです。と思っています。」
「中学生なのに、年寄りみたいな事を言うのね。」
ホッとしている自分が情けないな…。
「武田先生は東京の人なんですよね?」
「東京って言っても市だけどね。赤城君が受験する高校の近くよ。」
「東京でも色々ありそうですね。楽しみだなぁ。」
夜空を見上げながら言う赤城君。
もう、キュンキュン来るんですけど!
すると、こんな時間に小学生くらいの女の子が、街灯に照らされ立っているのが見えた。
「また君か。」
赤城君は立ち尽くす女の子にそう言うと、私をかばうように前に立った。
「赤城君の知り合い?」
て感じでもないな…。
「その女ちょうだい。血ぃちょうだい。」
小学生女子が、赤城君に話しかけた。
ちぃ? 何?
「ちょうだい!」
小学生女子は大声でそう言うと、夜空に舞い上がった。
「はぁ!? 空を飛んでるんだけど!」
私は叫んでしまった。
真っ黒な翼を広げ、こちらに突進してくる少女。
「先生、伏せて!」
赤城君の忠告に
私たちの頭をスレスレですり抜けて行く少女。
私は驚きすぎて、その場に座り込んでしまった。
「守護霊様、次が来たよ!」
しゅごれい様? 何? 赤城君?
夜空を舞う少女は赤城君に向かって飛んで来る。
すると、赤城君の右手が光だした。
「赤城君! 危ない!」
情けない…。私は立ち上がれない…。
「いい加減、成仏してね!」
赤城君は飛んで来る少女に、光る右手でワンパンを喰らわせた。
同時に地面に叩きつけられる少女。
「やっと成功した!」
赤城君はそう言うと、小学生少女に向かい右手、手のひらを差し出す。
青白い光に包まれる少女。
少女はしだいに黒い霧となり消えていく。
神の御子? これが神の御子の力なの?
「武田先生、大丈夫ですか? 立てますか?」
立てない…。
「えっと…。すみません先生。ワシの背中にどうぞ。」
「いや! 無理無理! 重いし!」
「あはは! やった! それなら体力が付きそう。」
そう言って赤城君は、私の両手を持ち上げ、あっと言う間に私を自分の背中にのせた。
いわゆる、おんぶをされた私…。
「赤城君、今のは何?」
「何て言ったらいいのかな…。」
中学生男子に背負ってもらう25歳、情けなくて、でも嬉しい…。
「武田先生。今いた少女は、今あるこの世界の隣の住人です。幽霊みたいなモノです。」
「なんで赤城君は…。」
「ワシには見えちゃうんですよ。アイツらは自分を確認できる人間を襲ってきます。」
「えっ? ちょっ? 赤城君は、今みたいに幽霊を退治しているの?」
「そんな事しませんよ! 今回は襲ってきたからです。普段は無視しいていれば何もされませんよ。」
普通!!
何で普通に言っているの?
「ところで、先生のアパートはここですか?」
「え? う、うん。何で?」
「あぁ。ワシの守護霊様が教えてくれたんです。」
あぁ。もう無理…。キャパ超えた…。
でも、赤城君は私を守ってくれたんだ…。
ありがとう、赤城君。
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