Complete Story
konnybee!
第1話 War Bonnetの心
とある文具メーカーで働く俺は、入社して2年目になる25歳。そんな俺の他愛のない話。
俺が日々行う仕事の内容は、文房具店や名の知れた大手の本屋に、当社の商品の納品と在庫管理。あとは納品先の近所にお客さんの店舗があれば、挨拶をする為に顔を出したりもする。
だが、アポなしで卸先の文房具店に顔を出すと、目の前で暇そうにしている、どのお店の店長も決まって同じことを言う。
「アポ無しじゃ無理!」
そう言って断られる。
今の日本は、「こんにちは。」の挨拶をするにもアポが必要らしい。
話は変わるけど先日、俺にとって人生を左右する大事件が起きた。
ある日の帰社後、俺はお客さんの店舗に持って行く挨拶状をパソコンで打ち込んでいた時の事。
先ほどのアポが必要の必要という漢字。自分はとある田舎の出身のため、その土地柄か、ひがしの発音になる事が多々ある。今回もそうだ。俺は必要と変換したいのに、何度挑戦しても執拗と変換される。
困った俺は、隣の先輩に相談をする事にした。席を立ち上がると、なんと言う事でしょう!俺のいる部署には俺と課長だけ。俺は慌てて腕時計を見る。
ですよねぇ。もう19時30分ですもんねぇ。と思いつつ、俺は立ち上がったままの放心状態でいた。
ちなみに部署に残っているこの課長。名前を
そんな課長に聞くか?変換ができないなんて聞けるか?てか、課長には聞きづれぇな。マジで聞きづれぇ。
そんなことを考えていると、立ち上がったままの俺に、高坂課長が気がついた。
「どうした谷山。」
「いえ。別に…。」
俺の返答に、不思議そうな顔をする高坂課長。
「困っているんだろ?」
そう言って、課長は俺のデスクに来た。
俺のパソコンを見る課長。
「挨拶状か?挨拶状くらい何度も書いているだろ?」
そう言って、課長はPAGESをスクロールする。
「仕上がっているじゃないか。」
そう言って課長は尚もスクロールする。そして発見された。
「ちょっとやだぁ!谷山君って、〇〇県の出身?」
突然、可愛らしい言葉遣いになる高坂課長。
「え、はっはい…。なんでわかるんですか?」
「私も同じ、〇〇県の出身よ。私も入社した時に変換できない漢字が多くてさ。みんなに聞きまくったわよ!」
楽しそうに言う高坂課長。なんだよ、普通に笑えるんじゃん。
「そうだったんですか?今の課長を見ると想像がつかないです。」
「ふふ。大学の論文とかはさ。友達とやるから、気軽に聞けば済む話でしょ。だからかな、すぐに忘れちゃうんだよね。」
「そうなんですよ!僕も同じです!」
すると課長は僕のパソコンを打ちながら、とびきりの笑顔で俺に言った。
「はい。ひ・つ・よ・う。」
「ありがとうございます!これで帰れます。」
「うん、よかった。それじゃ私も帰ろうかな。」
帰る支度をしながら、俺はある人物の事を思い出した…。最近、Twitterで知り合った、ミサカさんと言う人。この人も僕と出身地が同じ。しかも俺と同じで、大学を卒業後は東京で就職し、そのまま東京で一人暮らしをしているようだ。ミサカさんは年齢不詳で性別不詳。しかも最近は気になる人もいるらしい。
「…どうだい?」
俺はパソコンをシャットダウンしながら、デスクの片付けをしていたため、課長に話しかけられたのを聞き逃した。
「あ、すみません。片付けに夢中になってしまい、聞き逃しました。」
「その…。あれだ…。谷山はいつも頑張っているから、これから夕飯でもどうだ?君に予定がなかったらの話だけど…。」
課長は顔を
「本当ですか!ありがとうございます!是非ご一緒させてください!」
俺は課長の言った、「いつも頑張っているから」の言葉に感激し、夕飯をご一緒する事にした。
🏢
会社を出ると、今夜は金曜日と言う事もあり、通りは人が多い。
「谷山はお酒はイケる口か?」
仕事が終わり、束ねた髪を下ろしている課長。店舗のネオンも加わり、美人系のお姉さまに見える。そんな課長を意識してか、俺は少しだけ強がって答えた。
「両親ともお酒が好きなせいか、僕も好きです。これって遺伝でしょうか。」
「そうね。〇〇県民でゲコの男性は見ないものね。」
美人系女子の課長が笑顔で答えてくれた。
いつもそんな笑顔でいたら、高坂課長って男性社員にモテモテだろう。と
そんな中、俺たちはチェーン店の居酒屋に入った。
「
「はい。」
「恥ずかしながら、私は部下と飲みに来たのは谷山が初めてだ。」
恥ずかしながらって…。本当に恥ずかしそうに言いますね…。
「そうなんですか?実は僕も恥ずかしながら、女性と2人でお酒を飲むのが初めてでして。」
俺がそう言うと、課長は黙ってしまった。
あれ?もしかして今の発言って、セクハラか?今の俺ってピンチ的な?
「ちょっと失礼。」
課長は携帯を取り出し、何かを始めた。
「
店員の声に課長と俺はビクッとした。
「な、なんだかビックリしましたね。」
「そ、そうね…。」
気弱な発言をする俺に対し、課長も同意した。
「とりあえず、お疲れ。」
「はい。お疲れ様です。」
そう言って、ジョッキをコツンとする。ヤバイ、緊張する。課長、携帯やっているし…。
「えっと、すみません。僕もちょっと失礼いたします。」
俺もコレと言って用事はないが、携帯を取り出す。友人からのLINEが何件かとTwitterのTL通知だ。
LINEの返事をした後にTwitterを開く。仕事終わったー!などのTLの中にミサカさんのツイート。
誘ったはいいけど、緊張する。
あぁ。気になる人を誘えたのかな?すごいな。この歳になると恋愛とかって、めんどくさいってよりも、怖くて本人に言えないもんな…。
「谷山、すまないね。何を食べる?」
携帯を終わらせた課長が話しかけてきた。課長は顔が少し赤くなっている。って?もう飲み終わったの?
「課長、すごいですね。ビール、
「自分で頼むから大丈夫だ。谷山は料理を頼みなさい。」
「はい。」
こういうのって緊張するな。課長って嫌いな食べ物ってあるのかな…。とりあえず、定番とお勧めをオーダーするか…。
俺はテーブル脇に設置されたタッチパネルでオーダーをし、課長を見るとまたもや携帯。しかもニコニコしている。酔っているのかな?
「谷山、君は何を飲む?私はもう一杯、
「僕も
そして、また携帯を始める課長。
「あの、課長。失礼な事をお聞きしますが、何をされているんですか?」
俺の質問に、課長は「しまった!」と言わんばかりの顔をする。
「すまない。ちょっと、相談というか…。」
「いえいえ別に大丈夫です。なんだか楽しそうに携帯を見ていたから、気になっちゃいました。」
そして俺と課長は会社や地元のことで、盛り上がった。課長の笑顔が嬉しくて、俺は学生時代の失敗談などをたくさん話す。今まで、怖いイメージしかない課長が、こんなに素敵な人だとは思いもしなかったからだ。
課長のために仕事を頑張らなくては!と思わせるほどだ。
「ちょっとごめんね。」
そう言って課長が席を立った。
席に1人になった俺は携帯を見る。何も通知は来ていない。友達少なっ!と自分にツッコミを入れる。
Twitterを開くと、ミサカさんのツイート。
ヤバイ…
飲みすぎた…
爆笑しすぎた…
嫌われたかも…
面白い人だな、ミサカさん。俺はミサカさんにリプする。
ミサカさんが楽しいのであれば
相手もきっと楽しいのでは?
僕も今夜は楽しいです。
素敵な人に出会えました。
神様に感謝です!
課長が戻ってきて席につく。そして俺に聞いた。
「そろそろ終電が無くなるね。帰ろうか?」
すると、課長のスマートウォッチが光った。
表示される鳥のマーク。Twitter?
次に俺のTwitterネームのヴァレイ。
「ごめん。ちょっと失礼。」
そう言って、課長は携帯を見る。
携帯を見て、ニコッとする課長。
俺の心臓は爆発寸前だ!
次に、俺の携帯が震えた。
携帯を見ると、ミサカさん。
ありがとうございます
いつも優しい言葉で癒されます
ヴァレイさんも素敵な出会いをされたんですね
お互い神様に感謝ですね
課長って…ミサカさん…?
「あの…。課長…。」
「どうした?ここは私が出すからいいぞ。」
「あの、課長のスマートウォッチが見えてしまって…。僕、ヴァレイです。ミサカさんって、課長ですか?」
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