家族関係に振り回され、就職活動も上手く行かず、諸々の精神的な疲れを癒そうと夏の盛りに祖母の住む田舎に羽を伸ばしに来た伊吹貴也は、近所に住むという見目麗しい女性、佐久本佳乃と出会う。近隣の住民からの信頼も厚く貴也は佳乃と急速に親しくなってゆくが、蓄積した心因性のストレスの産物か、不可解な幻覚を思わせる不調が一度ならず二人の接近を妨げる。鬱屈とした状況の最中、小川や田んぼや雑木林の間を駆け巡って遊ぶ小学生の悪ガキ四人組と度々出くわした主人公は、彼らと徐々に親しくなってゆき、やがてリーダー格のカズマが提案した、森の神社や河辺を巡っての「お宝探し」を決行する事になるのだが……といった内容で、一件恋愛譚、二見ちびっ子冒険もの、三見宇宙的恐怖という幕の内弁当が丁寧に配されている。家族の諍いから田舎でのちびっ子との冒険まで蜘蛛の巣を張り巡らすように関連性をもっており、後半でそれらの関わりが連綿と明かされてゆく爽快感がある。無論クトゥルー要素も具体的に関わってくるが、話の全体像を超自然のご都合主義にのみ頼り切らない姿勢が良。ちびっ子最年少の「ナナちゃん」の奇抜な歌のセンスも良い。