ふたりきり
七夕ねむり
第1話
これといった理由なんてない。ただいいな、と思っただけ。寒いねって空を見上げて吐く白い息がふわふわと半透明に消えていって。
ほっぺたと鼻が林檎のように紅く染まって。
焦がれるように見つめる横顔が。
敢えて理由を挙げるならば、単純に綺麗だと思った。
「かの、こ?」
柔らかな感触はそこだけが温かくて、妙にリアルだった。冷たい頬、冷たい鼻。
後悔はまだ押し寄せて来なかった。彼女の瞳に私はどう映ったのだろうか。今は全ての感覚を閉じてしまいたかった。唇の記憶だけが残ればいいと私は再び目を閉じる。
二度目のキスに冷たい雫が混じって消えた。
その瞬間、世界は確かに二人きりだった。
ふたりきり 七夕ねむり @yuki_kotatu1
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