僕は、君を愛しているのだから

北見 柊吾

さぁ、

 この場を借りて言わせてほしい。


 僕は決して、浮気していた訳じゃないのだ。


 むしろ僕には、君が、僕が浮気をしたと断言する理由がよく分からない。


 この僕が、間違った事をしたというのなら、謝ろう。むしろ、そうであるならば僕に非があるのだから僕は謝るべきである。しかし、僕は浮気などしていないし、間違ったことをしていないのだ。




 君は、僕の一連の行為を浮気だと言う。その主張は十分に理解した。だとしたら、僕は君にぜひとも問いたい。僕は、このありあまる性欲をどう処理すれば良かったのだろうか。


 君があまりそういう性的なことが好きではないのは知っている。けれども、君が子供を望んでいることも知っている。そう、分けるとするならば子供を作るためのセックスと性欲を満たすためのセックスは違う。そうだろう? もちろん、そのことを君の彼女である僕はちゃんと理解している。まったく、僕は本当にできた彼氏で、君にお似合いの彼氏だと思う。


 僕のありあまった性欲を満たす為に、僕は君の手をわざわざ煩わせる気はない。君がしたいのならば、話は別だけれど。君がしたくないのであれば、僕は強制してはいけないし、それこそがいい関係性をこれからも続けていくコツじゃないだろうか。



 僕は性欲を満たすことができる。実花もただセックスをしたがっていた。両者の需要と供給が一致したんだ。これに、なんの間違いがあるだろうか。


 僕は実花の女性としての魅力を認めただけだ。そこに決して愛はない。実花とセックスする上で僕は決して実花と付き合わないことを前提にして同意をもらっていたし、そこに一円たりともお金をかけていない。

 もちろん、愛をもらっていなければ僕から実花への愛は存在しない。

 つまり、僕や君に経済的な問題はないし、付き合わないのだから、恋愛に発展することもない。


 逆に、君が浮気だという根拠は僕と実花がセックスをしていた、これだけだろう?


 正直に洗いざらい告白しても、実際に僕の行動にはこれ以外になにか君が言いがかりをつけそうな出来事の候補はない。僕はいたって潔白だ。


 なんなら、実花を連れてきてもいい。ぜひとも、確認を取ってくれたまえ。口裏を合わせなくとも、僕と同じことを言うだろう。端からそういう契約の上で僕は実花とセックスをしている。


 逆に、それならばぜひとも僕は訊きたいのだけれど、セックスとは愛を示すものなのだろうか。




 愛を示すために安易に使われる行為ではあると思うし、例えばそれでもし子供を作ってしまったなら愛と責任が発生するかもしれない。僕は世間がセックスで愛を示す風潮に前々から違和感を覚えていることに関しては君もよく知る事実ではあると思うが、今はどちらでもいい。少なからず世間ではセックスが愛を包含するように思われているうえに、セックスと愛を大なりイコールで繋ぐ等式が浸透していることは事実として存在する。セックスは愛を示す。かもしれない。世間一般の意見だ。ただ、セックスを快楽を満たすためだけに使うというのなら話は違うと思わないかい?


 多分、そこで僕と君の考えの相違を生んでいるんだろう。セックスは浮気かどうか。もう一度考えてみてほしい。これは、浮気かい?


 例えばそれで、君が誰か別の人とするというのなら浮気だろう。それはなぜか、その相手は僕でいいからだ。ここに性欲で満ち溢れている僕がいる。別の人とする意味はなんだい? その意味はいくら考えても分からないだろうし、それは倫理的に間違った「浮気」という行為だ。




 どうか、怒りにまかせて判断しないでくれ。




 そこら辺のただ経験人数と性欲に飢えた雄共と僕は違う。同じにしないで欲しい。僕には貞操観念という、確固たる信念がある。そこんじょそこらにいる尻が軽い女を捕まえて馬鹿みたいに腰を振るわけじゃない。


 僕の今までを見てくれたなら分かってもらえると思う。


 時系列から丁寧に話そう。まず、実花は僕の高校の同級生だ。当時、常に仲も良かったし、確かに付き合っていた時期もあった。こんな関係になる前までにも、連絡は取り合っていて、ちょくちょくご飯に行ったりといった付き合いはあった。君に関しての悩みの相談も、女性としての意見が欲しかったから、よくしていた。女性が何を考えているか、何をしたら喜んでくれるのか、僕はあまり分からないから。実花に手伝ってもらったおかげで、君に喜んでもらえたプレゼントは山ほどある。今回のことに至る前、半年くらい前だろうか、僕は実花に正直に相談した。実花はすでに彼氏と別れていた。しかしだからといって、僕は実花を求めて彼女に相談したわけではない。ただ女性側の意見を聞こうと思い、彼女に相談した。君が望まない決断をしてしまうことが僕にとって不幸な選択であることは間違いないからね。しかし結果として実花は彼女とのセックスを提案してきた。ここで主張しておきたいのは僕はすぐにその話に応じたわけではない。僕も男ではあるのだから、眼前で誘惑が行われた場合、揺らがないわけではない。しかし僕は理性が打ち勝ったのだ。一旦家に帰り、冷静に考え、さまざまな条件を考え、メリットデメリットを計算した。実花ともお互いに冷静に話し合いを重ね、結論を出した。


 これで分かってくれただろう?実花は何も悪くない。もちろん、実花を庇って君を責めたい訳じゃない。しかし、少なくとも実花は悪くない。かといって、僕が悪い訳でもない。言わずもがな、君が悪いことは断じてない。


 誰も悪くない。そう、誰も悪くないのだ。




 さぁ、僕は悪いだろうか。正常な判断ができる君なら、正しい答えが分かると思う。


 僕は君と真っ当なお付き合いがしたい。将来死ぬまで共にすることをも考えて、君は真剣に選んだ相手だ。


 それでお互いの欲求が満たしあえばいいかもしれないが、現実はそうもいかない。


 僕は浮気をする気がない。もちろん、ゆくゆくは君と子供たちを作りたいとも思っている。そう、子供を作るためのセックスはしたい。しかし、僕の性欲を満たすためだけの君が望まないセックスは君としたくないし、する気がない。それを君に無理に求める気もない。まぁもし、君の性欲を満たすためのセックスなら僕も君のために応じるけれど。なぜか。僕という相手がいるからだ。


 そう、僕の行動はむしろ、君のためを思ってのことなのだ。決して、浮気なんかじゃない。さぁ理解してくれたなら、答えはひとつだ。精錬潔白な僕の元へ帰ってきてくれ。

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